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ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第13回:第二神殿における献酒の儀礼と、祭壇を揺るがすトランペットの残響、そして復活の日まで(7章3節〜4節)

*ミシュナ『tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説のシリーズ第13回(最終回)。

 本稿では、ミシュナ『Tamid』篇の掉尾を飾る第7章3節から4節を取り上げ、大祭司のスロープ上での奉仕、0.9リットルのぶどう酒が南西の角に注がれるまでの精密な動線、そして「tekiah(テキア)、teruah(テルア)、tekiah(テキア)」というラッパの音が民の礼拝を導く光景を解説します。

 聖書学を浅薄な精神論から解放し、物理的な構造と音響の重なりから、神殿奉仕の真実を炙り出す。手加減抜きで書かれた、日本で唯一の「完全解説」完結編です。


はじめに:前回の振り返り


 前回は以下の内容を確認した。

【1】献香の方法

 立ち昇る熱い煙や炎で火傷をしないように、仲間の祭司から香料を炭の上に置く際は、手前から置かないように注意が与えられる。

 担当祭司は係の者の合図で香を献げるが、その際、他の祭司は全員退出する。これはルカによる福音書1章のザカリアの物語の背景にもなった状況である。

【2】大祭司の聖所での礼拝

 大祭司が聖所に入る際は、左右に一人ずつ随行し、そしてもう一人は背後からエフォドの肩にある石に手を置く。この石にはイスラエル12部族の名が刻まれていた。

 大祭司の衣の裾には金の鈴が付いており、その足音を聞いて、係の祭司が聖所入口のカーテンを上げ、退出を助けた。

【3】神殿入口の12段と5つの祭器具

 奉仕を終えた祭司たちは、聖所の入り口にある12段の階段に整列し、民の前に姿を現す。

 彼らの手には、これまでの奉仕で用いた5つの金製器具(籠[teni]、壺[kuz]、シャベル、バズィーフ[bazich]、カフ[kaf])が携えられている。

【4】祭司の祝福(bircat kohanim:ビルカト・コハニーム)

 民数記6章に基づく祝福が授けられるが、神殿内では地方の会堂とは異なる特別なルールがあった。それは次のような違いである。

 地方では1節ごとに区切られるが、神殿では途中で区切らず、一つの連続した祝福として唱えられる。

 神殿内においてのみ、神の御名(YHWH)を本来の発音で唱えることが許されていた。

 地方では肩の高さまで手を上げて祝福される。神殿では頭の上まで高く上げる。

 ただし、大祭司だけは額にある「額当て(tzitz;ツィツ)」に刻まれている神聖四文字への敬意から、その位置より高く上げてはならない。

 上記の内容について不安を感じる方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第12回:聖所における「献香」の秘儀と、大祭司が「主の聖なる者」として民を祝福するまでの全行程(6章3節〜7章2節)

https://note.com/mishnah/n/necc399ddcb8a

 今回はその続きである。「Tamid(タミッド)」7章3節から始める。

大祭司と総代理の登壇――スロープ上の厳格な階級秩序

 大祭司がtamidのいけにえを焼く時は、スロープを上る時総代理が右についている。スロープの半ばまで達した時、総代理は右手を掴み、上るのを助ける。最初の祭司は大祭司に頭と足を渡す。大祭司は手をのせてから投げる。2番目の祭司は2本の前足を最初の祭司に渡し、最初の祭司は大祭司に渡す。大祭司はそれらに手をのせてから投げ込む。2番目の祭司はここで去る。このようにして残りの部位に関しても、祭司たちは大祭司に渡し、大祭司は手を置いてから投げ込む。大祭司が望むなら、手を置いた後他の者が投げ込む。

(Tamid 7:3)


 大祭司が祭壇へのスロープを上る際、その右側には大祭司の総代理が付き添う次第が書かれている。これは大祭司の権威を示すとともに、儀式が滞りなく行われるためのサポートを意味する。

 ここから順番に部位を渡すことになるが、渡す祭司はスロープまで運んだ祭司である。

 「最初の祭司は大祭司に頭と足を渡す。大祭司は手をのせてから投げる」とは、1番目の祭司から頭と足を受け取った大祭司は、按手してから火に投じることを言っている。

 この時大祭司は祭壇上にいるのではなく、スロープの一番上にいる。

 次に「2番目の祭司は2本の前足を最初の祭司に渡し、最初の祭司は大祭司に渡す。大祭司はそれらに手をのせてから投げ込む」とある。

 2番目の祭司は直接大祭司には渡さず、1番目の祭司が一端受け取り、大祭司に渡すしきたりになる。これは敬意を払った進め方である。大祭司はこれらの部位にも按手してから、火に投げ込む。

 2番目の祭司はスロープを下り、1番目の祭司はそのまま残り、他の部位も同じように中継する。

 従って、1番目の祭司はここでは最も名誉ある奉仕者ということになるのだろう。

 「大祭司が望むなら、手を置いた後他の者が投げ込む」とあるのは、大祭司の裁量で自身は按手のみ行い、投げるのは他の祭司に委ねることが出来ることを言っている。

 次に進む。同じく7章3節である。

南西の角(つの)への回遊――ぶどう酒0.9リットルに込められたトーラの命令

 大祭司は祭壇を回る。どこから始めるのか?南東部から。そこから北東部に行き、次の北西部、そして南西部に来る。
 彼らは大祭司にぶどう酒を渡す。

(Tamid 7:3)


 まずは写真を見て欲しい。

注ぎ口

 祭壇の南西の角に2つの注ぎ口がある。その内の角に近い方の注ぎ口にぶどう酒が注がれる。それは旧約聖書の最高権威であるトーラ(モーセ五書)で命じられている事である。

 7それに添えるぶどう酒の献げ物は、羊一匹について四分の一ヒンとし、聖所で、主に対するぶどう酒の献げ物として、酒を注ぐ。 8夕方ささげるもう一匹の羊の場合も、穀物の献げ物とぶどう酒の献げ物を、朝と同じようにささげ、燃やして主にささげる宥めの香りとする。

(民28:7~8)

 本文の算用数字は節番号である。ここでは焼き尽くす献げ物の小羊1匹に対して、ぶどう酒4分の1ヒンを献げるように命令されている。

 これは1ヒン ≒ 3.6リットルで計算すると、約0.9リットルになる。

 上記の「Tamid」7章3節は、この南西部の注ぎ口に至るまでの動線を描いている。それは「南東部から。そこから北東部に行き、次の北西部、そして南西部に来る」とある。

 スロープの上から、時計回りと反対周りに回り、注ぎ口まで来るという事である。この時、その手にはぶどう酒は持たれていない。角に来た時点で他の祭司から渡される。それが「彼らは大祭司にぶどう酒を渡す」の意味である。

 次に進むが、この箇所は複雑である。同じく7章3節から。

音と旗の連動――「tekiah(テキア)、teruah(テルア)、tekiah(テキア)」が告げる礼拝の瞬間

 総代理は手に旗を持って角の上に立っている。2人の祭司たちは2本の銀のトランペットもって脂肪の机の上に立つ。彼らは「tekiah、teruah、tekiah」を鳴らす。彼らは来てベン・アルザの隣に立つ。ひとりは右に、ひとりは左に。大祭司はぶどう酒を注ぐ。総代理は旗を振る。ベン・アルザはシンバルを鳴らす。レビ人は賛美を始める。節の終わりまで来た時に、彼らはtekiahを鳴らす 。人々は礼拝する。節の終わりごとにtekiahを鳴らし、tekiahを鳴らすごとに礼拝する。

(Tamid 7:3)


 まず、総代理は「角の上に立っている」とある。角とは、祭壇の四角に出ているものを指す。これを作ることについては、トーラで命令されている。

 祭壇の四隅にそれぞれ角を作り、祭壇から生えているように作り、全体を青銅で覆う。

(出27:2)

 これも図を見て欲しい。

四角の角

 図の丸で囲んだものが角である。この内、総代理は大祭司の注ぐ近くにいる必要があったから、南西部の角、つまり黄色で囲まれた角の上に立っていたことになる。

 その手に持っている旗は合図の為に使う。

 次に「2人の祭司たちは2本の銀のトランペットもって脂肪の机の上に立つ」とある。脂肪の机も図を見て欲しい。

脂肪の机

 小さくて見にくいが、赤い印で囲まれた中に、2つの四角形が並んでいるのが分かると思う。1つは大理石、1つは銀でできている。それぞれ次のように説明される。

①大理石の机
 献げ物の部位が置かれる机。ただし日毎の焼き尽くす献げ物は置かれない。

②銀の机
 93の祭器具が置かれる。

 93の祭器具について分からない方は、以下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第6回:小羊の部屋(Lishkat HaTela’im;リシュカット・ハテライーム)と8つの石柱(3章2節~5節)

https://note.com/mishnah/n/n99ac93ed29dd

 この2つの机の内、大理石の方は「脂肪の机」とも呼ばれる。そこに献げ物の部位が置かれるからであろう。

 2人の祭司は総代理が合図するのを見たらこの机の上に立ち、トランペットを吹く。

 その吹き方は以下のように書かれている。「tekiah、teruah、tekiah」であるが、tekiahはteruahよりも長く安定した音である。この点 口伝律法ミシュナ「rosh hashanah」4章には次のように書かれている。

「tekiahの長さは3つのteruahである」(Rosh HaShanah 4:9)

 よって、tekiahはteruahの3倍の長さになる。しかし吹き方については、次の記事に詳しくまとめている。興味のある方はそちらから確認して欲しい。

◉角笛(shofar:ショーファール)の律法的定義――口伝律法ミシュナに基づく音響と意図

https://note.com/mishnah/n/n61e9d73f7aea

 2人が吹くトランペットは、賛美するレビ人たちへの合図となる。

 「彼らは来てベン・アルザの隣に立つ。ひとりは右に、ひとりは左に。大祭司はぶどう酒を注ぐ」とあるのは、まず今トランペットを吹いた2人の祭司が、ベン・アルザの両脇に立つことを言っている。

ベン・アルザのシンバルとレビ人の賛美――神殿崩壊を超えて響く詩編


 ベン・アルザはシンバルを鳴らす者である。後代でもこの奉仕に任命された者は「ベン・アルザ」と呼ばれた。

 このタイミングで大祭司はぶどう酒を注ぎ口に注ぐ。総代理は旗を振り、ベン・アルザはシンバルを鳴らし、レビ人たちは賛美を始める。

 彼らが歌うのは詩編であるが、一気に最後まで歌うのではない。それぞれの節の終わりまで来た時に、2人の祭司は「tekiah、teruah、tekiah」を鳴らす。

 このトランペットのところで、イスラエルの庭、または女性の庭にいた人々は礼拝する。「節の終わりごとにtekiahを鳴らし、tekiahを鳴らすごとに礼拝する」とはそれを言っている。

 7章3節の最後には次のように書かれている。

 これが主の家におけるtamidの順序である。わたしたちの日々に再建されることがその御旨であるように。アーメン。

(Tamid 7:3)

 口伝律法ミシュナが書き留められたのは、神殿崩壊の後である。ミシュナの各巻では、節目節目にメシア時代の到来と、神殿の再建を願う文言が見られる。

 「Tamid」7章4節、すなわちこの篇の最後を飾る節は、曜日ごとにレビ人によって歌われる詩編が列挙されている。しかしここではそのリストを掲げるに留め、なぜこれらの詩編がその曜日に歌われたのか、各自で黙想して欲しい。

 そして、ここでこの長かった旅を終えることにする。

 レヒトラオート(さよなら)。いつか復活した時、あなたと会えるように。

曜日ごとの詩編リスト――いつか復活した時に会えるように

第1の日(日曜日):詩編24
第2の日(月曜日):詩編48
第3の日(火曜日):詩編82
第4の日(水曜日):詩編94
第5の日(木曜日):詩編81
第6の日(金曜日):詩編93
安息日(土曜日):詩編92

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Tamid』法理研究

https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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