Google I/O 2026で発表されたGemini Omniが他の動画生成AIとVeo 3.1とどう違うのか
はじめに
2026年5月19日のGoogle I/Oで、Googleが「Gemini Omni」を発表しました。動画生成AIはここ1年でSeedance 2.0、Kling 3.0、Sora 2、Veo 3.1と立て続けに新世代が登場しており、市場は混戦状態です。そこに今回、GoogleがVeoとは別系統の新モデルを投入してきました。
私はこの発表のキーノートを観ながら、最初は「2025年10月にVeo 3.1を出してから半年強しか経っていないのに、なぜGemini Omniを別ブランドで出すのか」が腑に落ちませんでした。資料を読み込んでみて、これは単なる新モデルの追加ではなく、動画生成というプロダクトの位置付けそのものを変えにきている発表だと理解できました。
この記事では、Gemini Omniが何者なのか、Veo 3.1との設計思想の違いはどこにあるのか、そしてSeedance 2.0やKling 3.0、Sora 2、Higgsfield、Fal.ai、Dreamina、VolcEngineといった他社プロダクトと並べたときに何が際立つのかを整理します。最後に、2026年5月時点での実際の使い方も書いておきます。
Gemini Omniとは何か
Gemini Omniは、Google DeepMindが「初めての完全ネイティブなマルチモーダル生成モデル」と説明している新世代モデルです。テキスト、画像、音声、動画を同じトークン空間で扱い、入力にも出力にも任意の組み合わせを取れる構造になっています。
これまでの動画生成モデルは、テキストプロンプトを受け取って動画を返す一方通行のパイプラインが基本でした。Gemini Omniは違います。動画クリップを直接モデルに食わせて「ここの背景を変えて」「キャラクターはそのままで服だけ別のものに」と会話で指示できる構造を持ちます。動画を一度テキスト記述に変換してから操作するのではなく、動画そのものをモデルが直接理解して書き換える挙動です。
物理理解も強化されています。重力、運動エネルギー、流体の挙動といった現実世界の物理を、世界知識として持ち込んで動画の中で破綻させない仕組みです。Google DeepMindチームは、Omniを「Geminiの世界知識と物理の直感を使って、次に何が起こるべきかを考えるモデル」と表現しています。
最初のリリースは「Gemini Omni Flash」と名付けられた軽量版で、生成できる動画は10秒までです。Googleは「これはモデルの限界ではなくプロダクト上の選択」と説明しており、長尺対応は後続で予定されています。生成された動画には、目に見えないSynthIDの透かしが必ず焼き込まれ、Gemini AppやGoogle Search経由で検証できます。
Veo 3.1との設計思想の違い
ここが今回の発表で一番分かりにくい部分だと思います。Veo 3.1とGemini Omniは、同じGoogle DeepMindから出ているのに、住み分けが明確に違います。
Veo 3.1は2025年10月14日にリリースされた専用動画生成モデルで、8秒の720p / 1080p / 4K動画とネイティブ音声を生成します。最大3枚の参照画像、最初と最後のフレーム指定、動画延長、16:9と9:16の両対応など、編集系の機能も後付けで揃ってきています。Gemini API、Vertex AI、Gemini App、Google Flowで提供されており、価格はStandardが1秒あたり約0.40ドル、Fastが約0.15ドルです。
Gemini Omniはマルチモーダル統合モデルです。動画は出力の一形態であって、モデルの主目的ではありません。テキスト、画像、音声、動画を同じ表現空間で処理し、推論能力を使って動画を作ります。先行デモを見る限り、Veo 3.1と比べて純粋な生成品質では及ばないものの、自然言語での反復編集と入力モダリティの自由度では一歩先に出ているという評価です。
具体的な使い分けを軸ごとに並べると、こうなります。
設計思想 — Veo 3.1: 動画生成専用モデル / Gemini Omni Flash: マルチモーダルなネイティブ統合モデル
動画長 — Veo 3.1: 8秒(720p / 1080p / 4K)/ Gemini Omni Flash: 10秒(プロダクト上の制約)
出力品質 — Veo 3.1: シネマ品質、色味とライティングが強い / Gemini Omni Flash: 品質は一段下、ただし編集と一貫性に強い
入力 — Veo 3.1: テキスト、画像(最大3枚)、最初/最後のフレーム指定 / Gemini Omni Flash: テキスト、画像、音声、動画の任意組み合わせ
編集ワークフロー — Veo 3.1: パラメータと参照素材で制御、必要に応じて再生成 / Gemini Omni Flash: 会話で部分修正、文脈を維持して反復
物理理解 — Veo 3.1: 映像表現として自然 / Gemini Omni Flash: モデルレベルで物理を推論
主な配信先 — Veo 3.1: Gemini API、Vertex AI、Gemini App、Google Flow / Gemini Omni Flash: Gemini App、Google Flow、YouTube Shorts
価格 — Veo 3.1: Standard約0.40ドル/秒、Fast約0.15ドル/秒 / Gemini Omni Flash: サブスクリプション枠で利用(API公開は未発表)
Veo 3.1はAPIで叩いてパイプラインに組み込む用途、Gemini Omniは制作プロセスそのものに対話を組み込む用途、という整理が一番しっくりきます。
他社モデルとの違い
ここからは、市場で並んでいる他のモデルとどう違うかを書いていきます。
Seedance 2.0との違い
ByteDanceのSeedance 2.0は、2026年2月12日に中国で公開された後、4月9日にFal.ai、4月15日にVolcEngineを含むグローバル市場へ展開されたマルチモーダルモデルです。テキスト、画像、音声、動画の4つの入力に対応し、最大15秒、1080pの動画と音声を同時に1パスで生成します。
Gemini Omniと方向性は近いですが、得意領域が違います。Seedance 2.0は「音声と動画を同じ表現で同時生成する」点で先行しており、ボイスサンプルとキャラクター画像と動作リファレンスを同時に与えて1本のクリップに統合する「omni-referenceワークフロー」を持っています。ブランドキャラクターの一貫性を担保しながら量産する用途で強いです。
一方、Gemini Omniは生成後の「会話による反復編集」に重心を置いています。Seedance 2.0が「1ショットで完璧に作る」発想なら、Gemini Omniは「対話で詰めていく」発想です。ここはモデル選定の起点になります。
Kling 3.0との違い
KuaishouのKling 3.0は、自然で滑らかなモーションが評価されているモデルです。Fal.ai経由のAPI価格はStandardが1秒あたり約0.084ドル、Proが約0.112ドル、5秒の720pクリップで0.35〜0.50ドル程度と、量産用途や試作の高速回転に向いた価格帯です。マルチモーダル入力は持たず、テキストプロンプト中心の素直な作り方です。
Gemini Omniと並べると、Kling 3.0は「コスト最適化された専用動画モデル」、Gemini Omniは「編集ワークフローを含む統合モデル」という関係になります。月に数百本の素材を作る運用ではKling 3.0が、ブランド要件を維持しながら反復が必要な場面ではGemini Omniが選ばれるはずです。
Sora 2との違い
OpenAIのSora 2は、物理シミュレーションと撮影品質で2026年前半まで業界最高峰でした。Sora 2 Proで1クリップあたり2〜4ドルと高額ですが、フォトリアルな質感とカメラワークでは抜けています。
ただし2026年4月26日にSoraのWebとアプリ体験が打ち切られ、APIも9月24日に終了予定です。これは制作パイプラインに組み込んでいたチームには大きな転換点で、Sora 2の後継動向が見えない以上、Gemini OmniやVeo 3.1への移行検討が現実的な選択肢になります。Gemini OmniはSora 2の物理品質には現時点で届きませんが、API供給の継続性と対話編集の柔軟性で代替候補になります。
VolcEngineとの違い
VolcEngineはByteDanceのクラウドで、Seedance 2.0のAPIを企業向けに提供するインフラ側のプロダクトです。動画生成は1秒あたり0.14ドル前後で、エンタープライズ用途のスループットを売りにしています。
VolcEngineとGemini Omniは比較対象が違います。VolcEngineは「Seedanceを大量に回す配信基盤」であり、Gemini Omniは「Googleが提供するモデル本体」です。並べるなら、VolcEngineとGoogle Cloud Vertex AI(Veoの配信先)を比較するほうが筋が通ります。
Higgsfieldとの違い
Higgsfieldは、Seedance 2.0、Kling 3.0、Veo 3.1、Sora 2、Wan 2.6 / 2.7、MiniMax Hailuo 02といった複数モデルを束ねたアグリゲーターです。「Cinema Studio 3.5」と「Marketing Studio」という2つのワークスペースを提供し、用途に応じて最適なモデルを切り替える設計になっています。
Higgsfieldは「モデルを選んで使うUIレイヤー」、Gemini Omniは「単一モデルの能力そのもの」という関係です。Higgsfield内にGemini Omniが採用されるか、Higgsfield自身がOmni相当の対話編集レイヤーを持つかが、今後の競争軸になりそうです。なお、Higgsfieldの公式Xアカウントは2026年2月9日に凍結されており、Kling Unlimitedを誤って広告した件や、アーティストからの著作権侵害指摘など信頼性に関する問題が複数報じられている点は、運用上のリスクとして頭に入れておく必要があります。
Fal.aiとの違い
Fal.aiは「業界モデルの生重みに直接アクセスする」サービスで、Kling 2.6、LTX Video 2.0、Wan 2.6、Flux 2、Seedance 2.0などを並べて使える推論プラットフォームです。レイテンシ最適化が売りで、開発者向けの色合いが濃いです。
Gemini OmniはGoogleが自社モデルを自社UI(Gemini App、Google Flow)と自社配信網(YouTube Shorts)で提供する垂直統合型です。Fal.aiは横並びの選択肢を増やすプラットフォームで、思想が真逆と言ってよいです。エンジニアがアプリに組み込むならFal.ai経由で複数モデルを試し、コンシューマー向けに直接使うならGemini Omniという棲み分けになります。
Dreaminaとの違い
DreaminaはByteDanceがCapCut上で展開する動画生成プロダクトで、2026年3月26日にSeedance 2.0が統合されました(インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシア、ブラジル、メキシコなど一部市場への段階的展開)。CapCutの編集タイムラインに生成機能が組み込まれ、SNS向けショート動画の制作フローに最適化されています。実在人物の顔やIPの無許諾生成にはブロックがかかる仕様で、出力には透かしが入ります。
Gemini OmniのYouTube Shorts統合と、DreaminaのCapCut統合は、対になる構造です。それぞれのプラットフォームのクリエイター経済圏に動画生成を組み込みにいっており、モデル単体での勝負ではなく、配信先との接続で覇権を争うフェーズに入ったと見るのが妥当です。
2026年5月時点でのGemini Omniの使い方
ここまでが背景の整理で、ここからは実際に手元で動かす方法です。
アクセス経路
2026年5月20日時点で、Gemini Omni Flashにアクセスできる経路は3つあります。
Gemini App — Google AI Plus / Pro / Ultra加入者向け。単発の動画生成、対話編集に向く
Google Flow — Google AI Plus / Pro / Ultra加入者向け。プロジェクト単位の制作、Music対応
YouTube Shorts / YouTube Create App — 全ユーザーが無料で利用可能。Shorts向けの即興生成に向く
I/O 2026に合わせてGoogle AIサブスクリプションの料金体系も改定されました。Google AI Plusが月額7.99ドル、Proが19.99ドル、Ultraは新たに99.99ドルのエントリープランが追加されました(既存の200ドルプランも継続、上限は元の250ドルから引き下げ)。Gemini Omni Flashの利用枠は階層によって変わりますが、Plus以上であれば実用的な回数を使えます。
Gemini Appからの使い方
Gemini Appをブラウザかモバイルで開くと、サイドナビゲーションに「Videos」または「Create video」という項目が増えています。ここから入って、自然言語で生成指示を出します。
生成は対話的・マルチターンが基本です。最初に「夕焼けの東京の路地裏で、雨上がりの濡れた路面を歩く女性。ロングコート、後ろ姿、シネマティック」のような指示で1本作り、その後「同じ女性のまま、背景を渋谷のスクランブル交差点に変えて」のように差分指示を重ねていきます。モデルが前の文脈とキャラクターを保持するので、毎回ゼロから書き直す必要はありません。
参照素材の取り込みもこの画面から行えます。手元の動画クリップ、音声メモ、ラフスケッチ、写真を入力に追加して、それを起点に生成を進められます。
Google Flowからの使い方
Google Flowは、Gemini Omniをプロジェクトとして扱う制作環境です。複数シーンを並べて1本の動画に編成する用途や、Google Flow MusicでBGM側を同時生成する用途に向きます。
I/O 2026ではFlow / Flow Musicに新規エージェントとモバイルアプリも同時投入されました。モバイル側で生成タスクを投げて、デスクトップでレビュー・編集する分散ワークフローが組めます。
YouTube Shorts経由の使い方
YouTube Create AppとYouTube Shorts経由は、Google AIのサブスクリプションがなくても利用できます。ただし機能はShortsフォーマット(縦動画)の制作フローに組み込まれた形で、生成できるクリップ自体はOmni Flashの仕様通り最大10秒です。
クリエイターがUGCの初動を作る用途や、既存動画にAI生成のショットを差し込む用途で使われることが想定されています。
実務での選び方
ここまでの整理を踏まえて、私が現時点で取るならこういう選び方になります。
完成品の納品が必要:Veo 3.1(Vertex AI経由)
ブランド一貫性を担保した量産:Seedance 2.0(VolcEngine or Fal.ai)
検証用の大量試作:Kling 3.0(Higgsfield or Fal.ai)
対話編集で詰めるクリエイティブ:Gemini Omni Flash(Gemini App or Google Flow)
CapCutの編集フロー内で完結:Dreamina
Gemini Omniは「最高品質の1本」を狙うモデルではなく、「会話で精度を上げていく制作プロセス」を狙うモデルです。納品物のクオリティだけで比較してしまうと判断を誤ります。
まとめ
2026年5月のGoogle I/Oで発表されたGemini Omniは、動画生成モデルの新作というより、生成と編集を同じ会話の中で扱うための新しい設計のモデルです。Veo 3.1は「動画を綺麗に作る」専用モデルとして残り、Gemini Omniは「制作プロセスを丸ごと飲み込む」マルチモーダル統合モデルとして並走します。
Seedance 2.0、Kling 3.0、Sora 2との比較で見ても、純粋な生成品質で勝つことを狙ったプロダクトではないことが分かります。むしろ、編集の反復回数とプラットフォーム統合(YouTube Shorts、Gemini App、Google Flow)の深さで勝負を仕掛けにきています。
動画生成AIの評価軸は、もはや「1本のクリップがどれだけ綺麗か」だけでは測れなくなってきました。どのモデルを選ぶかは、自分のワークフローのどこにモデルを差し込むかで決まる、という時代に入ったのではないでしょうか。
参考文献
New agents, mobile apps and Gemini Omni for Google Flow - Google Blog
Everything new in our Google AI subscriptions, fresh from I/O 2026 - Google Blog
Introducing Veo 3.1 and new creative capabilities in the Gemini API - Google Developers Blog
ByteDance Dreamina Seedance 2.0 comes to CapCut - TechCrunch
What to know about the Sora discontinuation - OpenAI Help Center
Higgsfield AI CEO speaks up after X account suspension - Piunikaweb
