フィクション ⑲『肉体のキャンバス』〜渋谷のキャバ嬢ふたりをSM女王様に変えてしまった話
第19章:実験台のモルモットと弛緩する身体
暗い自室のデスクには、チナツから指定された「リスト」の品々が整然と並べられていた。
栄養ドリンク、
カフェイン錠剤、
2Lのスポーツドリンク、
ウェットティッシュ、
フリスクの空きケース。
そして、今日精神科で手に入れたデパス1mgの錠剤。
さらに、無機質なシリンジ、極細シリコンチューブ、使い捨てカミソリが、怪しい光を放っている。
「……時間通りね。1秒でも遅れたら即切るところだったわ」
画面の向こうのちなつは、部屋の照明を少し落とし、リングライトの光だけを顔に浴びていた。その瞳は、獲物を値踏みする冷徹な肉食動物そのものだった。
「言われたもの、ちゃんと全部揃えたんでしょうね? ほら、その薬から見せなさい」
「は、はい……これです」
俺は画面に向かって、処方された錠剤のシートと、買い揃えた品々を必死で掲げて見せた。ちなつは画面に顔を近づけ、冷たい眼差しでシートの文字をじっと確認する。
「本当に一発でもらってきたんだ。医者もずいぶんおめでたい頭をしてるのね。……で? どうせネットでその薬のこと調べたんでしょ」
「……はい。依存性が高くて、かなり危ない薬だって……」
「何その顔? 怖くて震えてるわけ? でちなつ様が自分のために調教プランを考えてくれたんだよ?うれしいでしょ?』
図星だった。喉の奥がヒッと詰まり、呼吸が止まる。
「さあ、無駄口叩いてないで今夜の『お勉強』始めるわよ。フリスクの空きケースを出しなさい」
「は、はい……」
「その薬、シートから出せるだけ全部出しなさい。で、カフェインの錠剤と一緒にそのケースの中に詰め込むの。トランプでもシャッフルするみたいにね」
「えっ……それを……どうするんですか……?」
「どうするもこうするも、私の言った通りに飲むのよ。何のために用意させたと思ってるの? 栄養ドリンクで一気に流し込むの。集中力も高まるし、頭が変になって私に逆らえなくなるスペシャルドリンクだから」
「ち、チナツさん……これ、デパス1mgですよね……?」
俺は手元を震わせながら、画面の向こうの彼女に訴えかけた。
「これ……ケースに詰めたら10mg以上あります。通常飲む量の10倍以上です……! カフェインの錠剤と一緒に飲むなんて、さすがに危険すぎます。僕、こんな強い薬、人生で一度も飲んだことないんです……っ!」
「あはは! 10倍? ウケる、そんなに入ったんだ(笑)。医者もずいぶん大サービスしてくれるじゃん」
画面の中のチナツは、部屋の照明を少し落とし、リングライトの光だけを顔に浴びていた。その瞳は、獲物を前にした冷徹な肉食動物そのものだった。全く悪びれる様子のない、可憐で軽いノリ。
俺は息を呑み、喉の渇きを覚えながら、ずっと胸の中で渦巻いていた疑問を口にした。
「チナツ様は……他の誰かに、この薬を飲ませたことあるんですか……?」
「あるわけないじゃん!」
チナツは即答し、手を叩いてコロコロと笑った。
「なおきが初めての実験台だよ♥♥ 10倍服用とか、超面白そうじゃん! ろれつが回らなくなったり、頭が変になって私の命令に逆らえなくなったりするのかなーって♥」
(……初めての、実験台……)
胸の奥で、ドクンと大きな脈が打った。医療知識も薬理学の経験もなく、ただの好奇心と加虐心だけで、俺に10倍の向精神薬を平然と飲ませようとしている。その底知れない恐ろしさに背筋が凍りつくと同時に——「彼女にとって自分は特別な実験体である」という狂った所有感と興奮が、ドロリと脳内に広がり始めた。
しかし、死の恐怖も確かにそこにあった。俺が蒼白な顔で固まっていると、チナツは少し首を傾げ、提案するように言葉を重ねた。
「ふーん。まあ、死なれたら報告聞けなくなってつまんないしなー。じゃあ一気に全部じゃなくていいや。まずはデパス3錠と、カフェイン1錠。それなら平気でしょ?」
「……あ、3錠……ですか……?」
「そう。それくらいなら大丈夫だって。ほら、早く飲んで? 」
最初提示された「10倍の大量服用」という狂気と比べ、減らされた「3錠(3mg)」という数字に、俺の脳は一瞬で騙された。デパス3mgといえば、通常量の3倍であり、初服用者には十分すぎるほど危険な量だ。それにもかかわらず、俺の心には「あ、それなら助かった……」という強烈な安心感が広がってしまった。
完全な認知のバグ。アンカリング効果による狂気。
俺は手元の栄養ドリンクのキャップを外し、デパス3錠とカフェイン1錠を口に放り込むと、一気に茶色の液体で喉の奥へ流し込んだ。
二、浸食するデパスと観察者の瞳
服薬から15分ほどが経過した。
「ねえ、どう? なんか変わってきた?」
画面の向こうで、チナツが興味津々にカメラへ顔を近づけている。その瞳は、検体を観察する冷徹な科學者であり、同時に、玩具が壊れていく様子を楽しむ加虐的な少女のそれだった。
効果は、静かに、しかし確実に訪れた。
まず、舌の奥と唇の感覚がぼやけ始めた。続いて、肩から肘にかけての筋肉がふにゃりと弛緩し、キーボードの上に置いた自分の手が、まるで他人の肉体のように重く感じられる。あとで調べたが、ベンゾジアゼピン系特有の強い筋弛緩作用と抗不安作用。体内に残っている綿への恐怖やパニックは、まるで霧が晴れるように消え去り、脳の奥だけがカフェインによって妙に覚醒したまま、全身が温かい羊水に浸かっているかのような多幸感が支配していく。
「あ……ふ……っ、なんか……体が、フワフワ……します……」
俺の口調は、自分でも驚くほどトロく、ろれつが回らなくなっていた。焦点が合わず、視界がぼんやりと滲む。
「あははは! ろれつ回ってないじゃん(笑)! 顔もドロドロになって、超ウケる、ホントに効くんだ! ねえ、なおき、目の焦点が完全に合ってないよ。私のこと、見えてる?」
チナツは画面越しに俺の崩れていく表情を食い入るように観察し、歓喜した。彼女は俺の目の焦点、表情の崩れ、話し方の変化を細かく言葉にして、冷酷に、そして甘く責め立てる。
「……あ、チナツ……さま……見えて……ます……っ」
俺は弛緩した唇を動かし、必死で彼女への従属を口にした。その瞳に見つめられているだけで、意識がさらに融解し、彼女への共依存という甘い泥沼へと引きずり込まれていく。
「上手上手♥ 壊れていく様子が、超可憐♥♥ よーし、身体が解れたところで、今夜のプレイ始めよっか♥」
三、麻痺する痛覚と螺旋の加速
「まずは、いつもの綿棒ね。何本入るか試す。はい、1本目」
俺は言われるがまま、意識がぼんやりとした状態で、手元にある綿棒を先端へと挿入し始めた。デパスの強い筋弛緩作用のおかげで、普段なら強烈な違和感と痛みに襲われるはずが、スムーズに奥へと飲み込まれていく。
だが、10本目が入った瞬間だった。
「あ……っ……うぐッ……! チナツさん……っ、ダメ……入らない……っ! 10本は……痛い……太すぎる……っ!」
尿道の限界を超えた束の圧迫感に、耐えかねて声があがった。薬でぼやけていた痛覚が、鋭い拒絶反応を起こす。
すると、チナツはつまらなさそうに眉をひそめた。
「は? 10本で音上げるの? つまんないの。……じゃあ、追加でデパス2錠飲んで。そしたらいけるでしょ」
「え……っ、つい、追加……ですか……?」
「そうだよ。痛くて入らないなら、薬で感覚消せばいいじゃん。ほら、早く飲んで」
意識が濁っている俺に、彼女の言葉を拒む術はなかった。言われるがまま、ケースからデパスをさらに2錠取り出し、スポーツドリンクで飲み下す(トータル5mg)。数分後、追加された薬が血中に巡ると、先ほどの痛みが嘘のように遠のいた。
「よし、じゃあ次は『脱脂綿の詰め込み』ね。どんどん入れて」
痛覚が麻痺した俺の手は、もはや自分の意思ではなく、チナツの遠隔操作によって動く機械のようになっていた。千切った脱脂綿を、綿棒の柄を使って奥へ押し込んでいく。1個、2個……尿道が、異物でパンパンに膨れ上がっていく感覚。
「あ……あ……っ、チナツ様……もう……入らない……っ、破裂する……っ!」
「まだ入るって! ほら、もう1錠飲んで、もっと奥まで押し込んで!」
さらに1錠追加(トータル6mg)。俺の脳の抑制機能は完全に破壊されていた。
四、カッティングの文字と冷酷なカミソリ
「あはは、すごい……完全に目がイッちゃってる(笑)。ねえなおき、自分の手、見えてる?」
「あ……ち、チナツ……さま……っ」
トータル6mgのデパスによって、俺の理性は完全に崩壊し、意識は混濁していた。焦点の合わない目で画面を見つめ、弛緩した唇からは唾液が流れるのを止められない。まともな会話すら成り立たず、ただ彼女の命令だけが、脳髄に直接響く毒液のように染み渡っていた。
チナツは画面越しに、俺が完全に「玩具」として壊れた状態になったことを確認すると、その視線を俺の太ももへと移した。
実は、チナツは以前から、俺の太ももにある「カッティングの文字」が気になっていた。それは、俺が先月キャバ嬢2人に施された、『mr医療』のカッティングだった。チナツはそのカッティング跡に興味を抱いていたのだ。
「……なおき。その太もものカッティングの文字、前から気になってたんだよね」
画面の中のチナツの声が、デパスでぼやけた俺の脳に、冷たく、そして鋭く突き刺さる。
「カッティングって……聖痕でしょ♥ キャバ嬢にされたんだ」
「なおきは誰の所有物なの?上書きしないとね?私が刻んだ、私だけの玩具の証♥」
彼女は画面越しに俺の太ももを指差し、悪魔のような笑みを咲かせた。
「デスクにカミソリ、用意させたでしょ? それを手に取りなさい」
「あ……カミ……ソリ……」
俺は朧げな意識の中で、デスクの端に置かれていたパッケージを破り、カミソリを手に取った。デパスによる筋弛緩作用と麻痺で、カミソリの刃の冷たさすら、どこか遠い感覚のように感じられる。
「よし♥ じゃあ……自分で、そのカッティングの文字に、カミソリの刃を這わせなさい。聖痕を、もっと深く、刻み直すの」
「あ……刻み……直す……?」
「そう、刻み直すの。痛くないでしょ? 薬効いてるんだから。ほら、ゆっくり……深く……」
ヘッドホンから響く彼女の低い声に、俺の身体は完全に支配されていた。痛みも恐怖も、デパスの深い霧の中に消え去り、ただ彼女の命令に従うことへの恍惚とした快感だけが、残っている。俺の肉体を傷つけることへの抵抗感は一切ない。
俺は自分の手で、カミソリを太ももへと——昔のカッティング跡の上へと、ゆっくりと、差し込み始めた。
デパスによる完全な麻痺と、チナツへの倒借した従属。
その極限において、俺の肉体に、新しい、そして永続的なチナツへの「聖痕」が刻まれようとしていた。
