『帰ってきた あぶない刑事』レビュー:壮大な「シニア同窓会」が証明した昭和エンタメの引力と現在地
『帰ってきた あぶない刑事』は単なる続編ではなく、50代以上の観客とキャストが時間を共有する「壮大なシニアの同窓会」である。本記事では、強烈なキャラ設定の妙と加齢のリアルを構造的に解析しつつ、日本映画界の作品不足という課題にも言及。ノスタルジーの消費に留まらない、本物の映画への渇望を結論づける。
昭和の熱狂再び──『あぶない刑事』が持つ代替不可能なキャラクター構造
映画『帰ってきた あぶない刑事』を鑑賞した。
『あぶない刑事(デカ)』は、1986年に日テレ系列で放送された横浜港警察署を舞台とする刑事ドラマである。放送当初から大人気で、放送期間が異例の4クール(1年間)に延長されて放送された。
余勢を買って映画化され、『あぶない刑事』(1986年)、『またまたあぶない刑事』(1988年)、『もっともあぶない刑事』(1989年)、『あぶない刑事リターンズ』(1996年)、『あぶない刑事フォーエヴァー』(1998年)、『まだまだあぶない刑事』(2005年)、『さらばあぶない刑事』(2016年)と、7作に渡りリリースされた。
今は懐かしきバブルの香りのする作品であったが、時代の波に揉まれながらもこれだけ続いたのは、その作品性に一定の支持があったことの証左でもある。
8年前の『さらばあぶない刑事』で、主人公のタカ&ユージが定年退職となり、自分も含めて多くのファンは「物語は完全に幕を下ろした」と捉えていた。
それが、嬉しいことに8年ぶりに『帰ってきた あぶない刑事』として復活したのだ。
映画公開の情報を耳にしたときの印象は、タカ&ユージの不死身ぶりに驚くと同時に、「大丈夫か?え?今何歳だ??」というのが正直な感想であった。
何しろ、『あぶない刑事』は日本の警察官にあるまじき行動で銃を撃ち続けるアクションシーンが売り物だからだ。高齢者となったキャストにそれらが務まるのかが心配であった。
『あぶない刑事』の魅力は、多彩なキャラクターの登場人物たちだろう。
まず、舘ひろし演じるタカことダンディー鷹山と柴田恭兵演じるユージことセクシー大下の『あぶない刑事』コンビのキャラクター設定が秀逸である。彼らの魅力がシリーズの大ヒットに繋がっていることは言うまでもない。
それまでの刑事ドラマと言えば、『太陽に吠えろ』、『Gメン'75』、『西部警察』など、シリアス系が主流というか、それしかなかった。
バブル前夜の1986年という時代の空気がそうさせたのだろうが、『あぶない刑事』は、徹底的にキャラが軽くスタイリッシュである。トレンディードラマの刑事版という位置づけであったのかもしれない。
それでも、ダンディー鷹山の方は時にハードボイルド系も入るが、セクシー大下の軽快な走りは徹底的にミーハー系であり、笑いを誘うコミカル系である。
本来は二枚目でまじめな性格の柴田恭兵が三枚目を演じる面白さが、物語をより魅力的にしているのだろう。
仲村トオル演じるトオルこと町田 透も『あぶない刑事』に欠かせないキャラだ。タカ&ユージの後輩でいじられキャラであり、毎度「女を紹介してやる」の殺し文句に騙されて、二人にいいように使われている。
前作の『さらばあぶない刑事』からは出世して捜査課長となり二人の上司となったが、相変わらず二人には頭が上がらない設定だ。
今作でも安定の演技であった。
仲村トオルも実年齢ではアラ還で、既にベテラン俳優と称してもいい年齢であるが、『あぶない刑事』の世界では永遠のいじられ後輩キャラだ。映画の舞台挨拶でもそのキャラを貫き通しており、プロ意識さえ感じてしまう。
もう1人が、浅野温子演じるカオルこと真山 薫だ。これはとんでもなくぶっ飛んだキャラだ。交通課の警察官であるが、ドラマ開始時の時代背景からか寿退社を夢見ながら(キャラが強烈過ぎて笑)それが叶うことなく38年が過ぎてしまった。
浅野温子がかつてトレンディードラマで浅野ゆう子と共にW浅野として一世を風靡したのが、1988年のドラマ『抱きしめたい』である。
『あぶない刑事』の放送開始が1986年ということは、人気絶頂のオシャレな美人女優が、カオルという自己中で「ギャーギャー」喚くばかりで周囲を混乱させるおバカキャラを演じたことになる。
今で言えば、女優の広瀬ずずが、突如お笑い芸人の鳥居みゆきに変身して「ヒット、エンド、ラン~♪」と叫ぶようなものだ。よく事務所がOK出したなと思う。
今作でも、「ベテラン女優にここまでさせるか?」という扱いであった。出番は少なかったが、最後のシーンでタカ&ユージ探偵事務所の美人秘書として「あたしを雇え~」て迫って二人から「間に合ってます~」と断られるシーンは十分笑わせてもらった。
他にも濃いキャラは多いが、『あぶない刑事』は、この4人が居なければ成り立たない物語だ。
今作では、タカ&ユージ二人のどちらかの娘(かもしれない)役で、土屋太鳳が出演していたが、ちょっと勝気な女の子を好演していた。端正な顔立ちをした美しい女優さんである。
しかし、二人との関係姓は親子というより、おじいちゃんと孫娘のように見えてしまったが(苦笑)
アクションの衰えと引き換えに得た「シニア同窓会」としてのカタルシス
肝心の映画の感想であるが、自分は十分に楽しめた。
タカ&ユージはすっかり歳をとって、動作のキレは正直なところ失われてしまっていた。そこも含めて半分は演出なのだろうが、実年齢でも舘ひろしは74歳、柴田恭兵は72歳で後期高齢者の一歩手前である。柴田恭兵は肺がん手術で片肺摘出しているそうだ。
年齢は隠しようがない。
バイクの手放し運転で銃をぶっ放したり、銃を片手に軽快に走るシーンは相変わらずかっこよかったが、それはあくまでも「年の割には」という枕詞が付いたうえでの形容である。
そういう意味では、過去作を知らない年齢層の受け止めは厳しいかもしれない。
しかし、過去作を知っている50代以上の層には打ってつけのエンターテインメントであった。事実、公開3日で25万人の観客を集める好スタートを切り、興行としては大成功であったようだ。
言うなれば、『帰ってきた あぶない刑事』は、壮大にお金をかけたシニアの為の同窓会なのだ。
招待者は、もちろんキャストとスタッフと劇場に集まったファンのみなさんだ。
往年のファンを動員する「シニアの同窓会」の熱狂は確かに心地よいが、それは同時に、そうしたノスタルジーに頼らざるを得ない映画界の構造的な枯渇の証明でもある。
コロナ後の日本映画界──「同窓会」の先にある本物の映画への渇望
少し話は飛ぶが、日本の映画界は大丈夫だろうか?
体感で言うと、コロナで落ち込んだ観客数がちっとも戻ってきていないように感じる。地域による差もあるのかもしれないが、自分がよく行く映画館では往時の半分くらいのイメージだ。
統計データで見ると、コロナ前と比べてそこまで酷い落ち込みではないようにも見えるが、何か統計の綾でもあるのだろうか?

2020年、2021年にコロナ禍で観客数が落ち込みコロナの終息が見通せなかったことから、映画の製作自体が控えられてしまった。その結果、コロナによる自粛ムードが解禁された現在でも作品不足が露呈して、客足が伸びないのではないか?
最近公開される作品は小ぶりの物が多い印象を受ける。来年あたりからは、大型の作品が続々と封切られてくれば、映画業界も復活するかもしれない。
シニアの為の同窓会もけっこうなのだが、そろそろ本物の映画を観たいなと心が疼いている。
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