今年の9月は"通常運転に戻る月"だと思っている人ほど外す【月刊販促設計 2026年9月号 第1回】
このシリーズについて
「月刊販促設計」は、総務省統計局が毎月発表する家計調査データと気象庁の気象データを活用し、3か月先の販促計画を立案するための実践的な情報を提供するシリーズです。
こんにちは。ミタカ販促設計ラボ室長のサタケです。
先日公開した2026年3月号の検証記事では、自分の予測に42点をつけました。これまでの検証(1月号55点・2月号53点)の中で最も低い評価です。最大の失敗は「前年データの中に複数の異常値があったにもかかわらず、それを翌年の予測に体系的に活かせなかった」ことでした。急伸した費目の翌年反動と、急落した費目の翌年回復を、設計プロセスの入口に置く手順が抜けていた。
9月は、この失敗が最も起きやすい月のひとつです。
8月が終わると、現場には「ようやく通常モードに戻れる」という空気が出始めます。猛暑も過ぎた、お盆も終わった、夏商材も片付く。9月を「静かに落ち着く月」として扱いたくなる気持ちは自然です。しかし前年データが示した9月の姿は、その前提とは異なっていました。
まず結論から言います。
2025年9月の消費は実質1.8%増えていました。しかし収入は実質±0.0%で止まり、何が消費を動かしたかを見ると、「通常化」とは呼べない構造がありました。
【総務省統計局 家計調査 前年同月分析】2025年9月、消費の全体像
2025年9月の二人以上の世帯における消費支出は303,214円。前年同月比で実質1.8%の増加、名目5.3%の増加でした。
8月(実質2.3%増)より伸び率は下がっています。前月比(季節調整値)は実質0.7%の減少で、8月からの勢いが落ちたことが読み取れます。
収入面を確認すると、勤労者世帯の実収入は実質±0.0%でした。8月が実質2.8%増だったことを考えると、一か月で収入の伸びがゼロになった形です。可処分所得は実質0.6%の減少でした。
この状態を数字で整理すると、9月は「収入が止まった中で消費が1.8%伸びた月」ということになります。平均消費性向は82.1%で、前年同月(76.6%)より5.5ポイント高い水準でした。収入が増えないにもかかわらず消費支出が伸びているということは、家計が貯蓄を取り崩すか、消費性向を高めることで支出を維持したという読み方ができます。
「通常化」というには、収入の止まり方が急すぎます。
何が動き、何が止まったのか
費目の内訳が、9月の消費構造を鮮明にします。
実質で増加した主な費目(前年同月比)
交通・通信は11.5%の増加で、8か月連続の実質増加でした。その中心は自動車等購入で、前年比52.3%の増加です。寄与度は1.18ポイントで、9月の消費支出全体を最も大きく引き上げた費目でした。
8月に162.1%増という突出した数字だった自動車購入が、9月も52.3%増で続いていました。連続して大幅に伸びているという事実は、「一時的な変動」ではなく「何らかの定着した動き」として読む必要があります。ただし、この点については後で改めて整理します。
その他の消費支出は6か月ぶりの実質増加でした。中でも諸雑費が14.9%増、消費支出全体への寄与度は1.31ポイントという数字です。この内訳を見ると、寄付金が+0.58ポイントという大きな寄与を示しています。
保健医療は11.1%の増加で、4か月連続の実質増加が続いています。保健医療サービスが主な牽引役で、医科診療代が寄与しています。
教養娯楽は6.4%の増加で、2か月連続の実質増加でした。
実質で減少した主な費目(前年同月比)
被服及び履物は7.4%の減少でした。2か月ぶりの実質減少です。
住居は7.0%の減少で、3か月連続の実質減少が続いています。
光熱・水道は2.4%の減少で、4か月ぶりの実質減少に転じました。8月が4.7%増だったことを踏まえると、1か月で方向が反転しています。
食料は0.5%の減少で、4か月連続の実質減少が続いています。
「通常化」という読み方が外れる3つの構造
9月を「8月が終わって落ち着く月」として扱うと、この費目の動きが説明できません。3つの構造を整理します。
構造① 秋物が動かなかった
9月は衣料の秋冬物への切り替えが始まる月として扱われがちです。しかし被服は7.4%の減少でした。9月に秋物が動く、という前提が外れた形です。
気象データ(気象庁)との接続で言えば、2025年9月は全国的に「かなり高い」気温が続きました。特に上旬の平均気温は東日本で平年より2.9℃高く、1946年以降の9月上旬として1位の高温でした。9月に入っても猛暑の余韻が続く気象条件の下では、秋物衣料への需要は生まれにくかったと考えられます。「9月になれば涼しくなる」という季節感の前提が、気象の実態と合わなかった月でした。
構造② 光熱費が反転した
8月は電気代を中心に光熱費が4.7%増でした。9月は2.4%の減少に転じています。8月の高い比較ベースが影響した可能性もありますが、残暑が続く中での減少という点は「猛暑が終われば光熱費も下がる」という単純な構図ではないことを示しています。週単位の気象変化と消費の動きが連動しながら、月としての数字が作られていることを示す例のひとつです。
構造③ 自動車購入がまだ動いた
8月に162.1%増だった自動車購入が、9月も52.3%増で続きました。8月号でも指摘した通り、「急伸した翌年は反動減の可能性が高い」という視点があります。しかし前年の2025年においては、8月から9月へと連続して大幅増が続きました。この動きを2026年の設計に引き継ぐ際、「2025年の9月も高いベース」として認識しておく必要があります。2026年9月にこの費目が同水準で動くとは考えにくく、比較ベースの高さが9月の数字を厳しくします。
【前年同月分析 気象との関係】2025年9月は「残暑と台風の月」
2025年9月の気象は、「暑さの継続」と「台風の上陸」という2つの要素が消費行動に影響しました。
月平均気温は全国的にかなり高く、沖縄・奄美では月平均気温が1946年以降の9月として1位の高温でした。北・東・西日本においても、暖かい空気に覆われやすく、全国的に残暑が続いた月でした。
上旬に絞ると、台風第15号が9月5日に高知県・和歌山県に相次いで上陸しています。西・東日本太平洋側で大雨となり、宮崎・静岡・神奈川では線状降水帯が発生しました。月の最初の週に台風が本州に上陸するという事象は、来店行動・購買行動に直接影響すると推測され、上旬の消費数字が月全体の動向に影響した可能性があります。
中旬は前線が停滞し、九州北部を中心に記録的な大雨となった地域がありました。下旬は北・東日本を中心に高気圧に覆われて晴れた日が多く、日照時間も多くなりました。
気象の構造として整理すると、「台風・大雨→残暑継続→晴れ」という三層の変化が9月にもありました。8月の「猛暑→大雨→猛暑」という三層構造と同様に、週単位で気象が変化する月として9月を扱う必要があります。
この気象条件の下で被服が7.4%減少したことは、「残暑が続く9月に秋物は動かない」という明確な事実として記録しておく必要があります。2026年9月の設計において、秋物衣料の立ち上げ時期を気象予報と連動させる根拠になります。
「二度切り替わる月」という読み方
ここまでのデータを整理すると、2025年9月の消費は「一つの動き」ではなく、月の中で方向が変わる構造を持っていたことが見えてきます。
上旬は台風上陸・残暑継続・お盆明けの節約意識という3つの要素が重なり、消費行動が抑制される方向に働いたと推測されます。下旬は晴天が広がり、秋の行楽や外出需要が回復する方向に動いた可能性があります。
2026年9月には、この前年の構造に加えて、5連休型のシルバーウィーク(9月19日から23日)が加わります。敬老の日と秋分の日をつなぐ5連休は、通常年の9月には存在しない需要を生みます。旅行・外出・帰省といった動きが9月後半に集中する可能性があり、前半の「通常化モード」と後半の「再外出モード」という二段階の消費が同時に存在する月になります。
この構造を「二度切り替わる月」と呼びます。
前半と後半で消費者の動機が異なるため、月初に設計した販促方針を最終週まで同じ強度で維持することが9月には合わない場合があります。これは8月号で述べた「三層気象への対応」と同じ考え方です。月を一つの塊として扱う設計より、前半・後半で判断の軸を変える設計の方が、9月の実態に近づきます。
3月号の検証との接続
3月号の検証(42点)で学んだ最大の教訓は「変動性の高い費目と、構造的なトレンドに基づく費目を区別する」ことでした。
2025年9月のデータでこの視点を適用すると、どう読めるかを整理します。
自動車購入(+52.3%)は変動性の高い費目です。数年に一度の大型購入であり、8月・9月と連続して急増したことで2026年の比較ベースが高くなります。2026年の8月・9月に同水準を期待すると、比較ベースの高さが数字を厳しくします。
諸雑費の寄付金は、今後の動向を注視すべき費目です。8月に続いて9月も諸雑費が全体の寄与度で大きな数字を示しました。ただしこの内訳は寄付金・こづかいなど変動性の高い項目が多く含まれており、定着した動きとして扱うには慎重な判断が必要です。
保健医療の4か月連続増加は、定着した動きとして読める費目です。2025年の7月・8月・9月と継続的に伸びており、季節を問わず安定しているカテゴリーとして2026年の設計に組み込める根拠があります。
前年データのどの費目が「変動性が高いか」「構造的なトレンドか」を区別することが、今号の設計精度を上げる最初の手順です。
まとめ:「9月=通常化」という前提の解体
ここまでを整理します。
2025年9月は消費支出が実質1.8%増えた月でした。しかし収入は実質±0.0%で止まり、被服は7.4%落ち、秋への切り替わりは起きませんでした。自動車購入は8月に続いて9月も大幅増で、「反動減が来る」という予測は前年では外れました。台風が月初に上陸し、残暑が続き、下旬に晴れが戻るという三層の気象変化が、消費に複合的に影響しました。
2026年9月は「通常運転に戻る月」ではなく、「二度切り替わる月」です。
前半の通常化と後半の再外出という二段階の構造を前提に置くことが、2026年9月の設計の出発点になります。「8月が終わったから落ち着く」という前提を持ったまま9月に入ると、シルバーウィークという前年にはなかった条件を読み損ねます。
答え合わせは、2026年9月分の家計調査データが公表される2026年11月以降になります。それまでは今号の仮説を持ったまま現場に入り、実際の動きと照らし合わせながら判断を続けてください。
次回予告
第2回では「9月は"全部を売ろう"とした瞬間にズレる」として、残暑・秋・行楽・通常生活が同時に存在する9月に、全方位型の販促設計がなぜ機能しないかを掘り下げます。前半と後半で異なる消費構造を踏まえた「分けて考える」思考軸を提示します。
プロフィール
室長について
佐竹 昭治|株式会社サタケプランニングオフィス 代表取締役
小売・サービス業の現場で、生活者視点を軸にした販促戦略を提案。マーケティングプランナーとしての経験(20年以上)×データ分析×AI活用による「ハイブリッド販促設計」で、「伝わる販促」「来店してもらえる仕掛け」づくりをサポート中。
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