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Murburn構想:細胞代謝および細胞生理学のパラダイムシフト(後半)

長いので前編後編に分けた。前半はMurburn構想が誕生するまでのエピソードとこの理論の概要紹介。

後半ではこの理論に寄せられた反論に対する返答を展開し、新理論の差別化が意図されている。

Manoj KM. Murburn concept: A paradigm shift in cellular metabolism and physiology. Biomolecular Concepts. 2020;11(1):7-22. doi:10.1515/bmc-2020-0002



I. Sunil Nath博士による返答への反論

第一のアジェンダは、『Biophysical Chemistry』誌に掲載されたSunil Nath博士の酸化的リン酸化論文/構想に対する私の批判[36]に寄せられた博士の返答[35]に、改めて反論を提示することである。

(A)(査読のように)ポイントごとに順番に反論する方法もあるだろう。要旨から始めよう。

過激な声明や主張は以下の膨大な既存の知見との矛盾が示されている。
i)Kinoshita, Yoshida, Noji, Börsch, Dunn, Gräber, そしてDimrothら著名な実験グループの先駆的な単一分子生化学・生物物理研究
ii)Leslie-Walker, Kühlbrandt, Mueller, Meier, Rubinstein, Sazanov, Pedersenらの過去数十年にわたり蓄積したATP合成酵素に関する最先端のX線および電子顕微鏡/低温電子顕微鏡による構造情報
iii)Warshelの先駆的なエネルギーベースのコンピューターシミュレーション…

その技術がシンプルなものにせよ洗練されたものにせよ、偉大な科学者達が生み出した構造情報に対して私は異論を唱えない。だが事実として、構造情報や単一分子実験、シミュレーション結果は生理学的ダイナミクスに何等決定的見解をもたらさない。私も彼等のデータから得た洞察を利用しているが、同業者と異なるのはそのデータの解釈である。

何かを証明するアポロニアン的使命がある場合、人はその努力を惜しまないだろう(Paul D. Boyerがホスホヒスチジンを提唱した頃にEdward Slaterが話題になり、Peter D. Mitchellが勢いづいた頃にまさにBoyerがプロトン中心回転スキームを提案したのでは?)。長年の難問解決の為に探究心を持ち、重要な関連事項と要素を優先することは全く別のアジェンダである。

Nath博士の提案:「複合体Vを介した触媒作用の変化」は、その構造情報と既知の学説をベースにした理論化から生まれた(MitchellもNathも、問題解決をするには関連事実の収集より先にアイデア出しの方が大事だとする学派である!)。

私の提案は実験的証拠に基づき、それは酸化還元酵素やDROS、酸化的リン酸化系に纏わる数年にわたる実践的研究を通じて収集したものである。従来的な酸化的リン酸化に帰属された構造機能相関と全体的な物理化学的論理は科学的に意味を為さないというのが私の第二の主張である。有力な研究者や、彼等が採用した解析法を列挙しようと、この点に関する反論にはならない。既存理論に対する私の批判は当研究グループが近似発表した論文で明確に説明され、私が執筆した『Letter to Editor 編集部への手紙』に簡易要約した。Nath博士は余計な戦略に頼って注意を逸らそうとする。

Mitchellの化学浸透圧説およびBoyerの結合変化メカニズムに対するManojの尤もらしい反論は、Nathが10~20年前に発表した『ATP合成の捩れ機構』『エネルギーカップリングの2イオン説』で十分に達成されているが、彼はこれらの論文を引用していない。本稿では、彼の反論がいずれもNathの機構/説には該当しないことを決定的に詳述する。

私が実施したKeilin-Mitchell-Boyer(KMB)パラダイムに対する包括的な再検討を、その核心/詳細に至るまでNath博士が理解したと豪語することは明らかな現実の歪曲である。また、僅か950語に参考文献6本を添えただけの『編集部への手紙』では、Mitchellの化学的浸透圧とNath博士の2イオン説の微妙な相違点に踏み込むことは疎か、博士の文献を全文引用するなど不可能であることは誰の目にも明らかであった。私はただ使命感から、化学的浸透圧も対イオン交換説も本質的に『プロトン中心かつTMP 膜貫通電位ベースのETC 電子伝達系が介する複合体VのATP合成』パラダイムに属すものだと明示しただけである。

タイトル(『ミトコンドリア酸化的リン酸化に関するカチオン中心捩れATP合成モデルへの反論並びにMurburnスキームの支持』)と議論はこの共通点に焦点を当てている。Nath博士の新説は、昔ながらのTMPベース化学的浸透圧をTMPベース対イオン交換に置き換えただけに過ぎない。

最近の『Archives of Biochemistry and Biophysics』(ABB)誌掲載の総説論文
[26]の表1には、酸化的リン酸化の定説を構成する5つの基本原理/要素がMurburn的説明との対比で示されている。

(i)タンパク質複合体(プロトン/イオン輸送体)
(ii)酸素/DROS
(iii)TMP Trans-Membrane Potential(膜貫通電位)/pmf proton-motive force(プロトン駆動力)
(iv)定常状態でのATP合成
(v)(NADHからO₂への)電子輸送とATP合成の連結

Nath博士の説明は(化学的浸透圧と微妙な差異はあれど)5つの基準で見ると依然としてKMBモデルに該当するものだと見識ある方ならば分かるだろう!この場での私の目的は旧式パラダイムの土台全体を覆すことであり、この追及で婉曲表現は使わない。従ってNath博士のイオン機構が、酸化的リン酸化のラジカル反応化学も、系にこれほど多くの一電子酸化還元中心がある理由も説明しない以上、私の反論の核心部分に関して彼は誤った主張を展開している。

次に、Nath博士はその緻密な反論の中で『Murburn』(定説の代案で提唱されたメカニズム!)の用語に言及しておらず、その提唱者である私の研究も引用していない。対する私は手紙に挙げた参考文献の内、3本で彼の文献を引用している。誰が認知的不協和に陥っているか、回避的であるか、賢明な読者や編集者の方々ならば判断できるだろう。

過去30年以上に渡ってATP合成の基本的問題に従事する研究者として多大なる懸念を抱く。それは、最近この件に関する手紙を編集部に送付した著者が、確立済みの実験的事実との膨大な矛盾、並びに生体エネルギー学領域の先駆的研究に対する知識の欠如を示したことである。具体的には
 a)F₁F₀ATP合成酵素の膜結合型F₀部位に回転/捩れ運動は存在しない
 b)酵素複合体によるイオン輸送など存在しない
 c)F₁F₀はATPを合成しない
等と述べている。

私は、Nath博士のこの分野への献身に敬意を表しており、私の反論は純粋に専門的かつ科学的な内容である。対するNath博士は不当な手段を駆使している。以下の(a)から(c)は私の研究と人格に誤って帰属されている。

(a)私はF₀の捩れが存在しないなど述べたことはない
(b)私は酵素複合体によるイオン輸送に言及したことなどない
 (ミトコンドリア複合体はプロトンポンプとして作用し得ないとは明確に述べた。だがここでNath博士は、私の「プロトン」を自身の「イオン」と同義に見做すことはできない。何故なら…私が論文のタイトルにカチオン/プロトンのマトリックス側への侵入を暗示した時の彼の演技的言動は天井知らずだったからだ!私の熱発生の説明[23]はミトコンドリア膜を横断するアニオン性DROS輸送に依存することをNath博士は見落としている!)
(c)私は、複合体Vが生理的ATP合成剤になり得ないと述べただけで、複合体VがATPを作れないとは言っていない
 (仮に私がNath博士の解釈通りの趣旨の発言をしたなら、間違いなく私は彼が想像する通り、膨大な生体エネルギー学の文献も、酵素学の基礎すらも理解しない無学な人物に違いない!)

Nath博士は論争に於いて事実に基づく情報を提示せねばならない。だが彼は先に虚偽の優先権を主張した後に虚偽の帰属まで行っている!

Nath博士の論文を読み進めた結果、彼の返答を逐一検討するメリットはないと判断した。というのも、彼は「非合理」な方法で論点ズラしをした為だ。
私を「無鉄砲」「知ったかぶり」「小手先」だと罵倒したり、暗に「軽率」だと述べたり、この分野の「経験/知識不足」な人物に仕立てたり、私の作品/文章に見当違いな属性を与えたり、演技的行動や不当な責任転嫁に興じたり、私のグループの委託作品を都合よく見過ごしたり、私が自分達の研究を馬鹿にしていると大衆心理に訴える他に同業者を故意に煽動したり、誤植を重大な礼儀違反だと騒いだり、私の作品の出版に疑義を投げたり、アイデアの証明法について上から目線で助言したり、オープンアクセス・ポータルに掲載させる為にジャーナルとの金銭授受をした疑いをかける等々である。挙げた礼節違反はほんの一部に過ぎず、判断は編集部と読者の皆様に委ねたい。

Nath博士が議論の核心部分に専念し、手紙の末尾部分でも取り上げていれば十分だっただろう。博士がすべきは、手紙の引用文献(6)のSturmらPNAS論文(2015)への言及のみだった。これが彼のものでも私のものでもない唯一の論文だった。手紙の結論部分の段落ではこの重要な研究を引用しつつ、真核生物であるPlasmodiumでは、複合体V(彼の理論ではATP合成剤!)は一部の生活環で不要であることが分かったと明言している。

酸化的リン酸化によるATP合成が凡有る好気性生物に必要なことは既知の通りであり、従って複合体Vが生理的ATP合成剤だという説は成立しない。Nath博士はこの決定的な論拠を自身の研究アプローチでも緻密な返答の中でも無視している!代わりに、この機に乗じて自説をコンセンサスを得たものにしようと(そしてメジャーな研究者達の支持を集めようとしているが、彼等が賛同するとは思えない!)しているが、名立たる教科書に彼の研究を引用するものは存在しない!現在でもMitchellの化学的浸透圧説が生体エネルギー学の「世界的基軸」であることは多くが認めるだろう。嬉々としてMitchellやBoyer批判を繰り出しながらNath博士自身が批判を受けないのは皮肉なことである!

私は、この場違いな信念を公然と批判し、正確な説明を求めてこの活動に取り組んでいる。その点、私の定説への痛烈批判は正鵠を射ており、私が流布する新説は今日までの理解を整合的にしている。私の説明と整合しない何かが登場し、Murburnスキームを「可能性が低い」ものにする理屈を誰かが主張すれば、私の構想もまた棄却すべきだろう!Nath博士は自身の考えの裏付けとなる有効な反論を一切提示していない(複合体Vが酸化的リン酸化反応系における生理的ATP合成酵素と言える論拠は一つも存在しない!)し、私のアイデアに決定打となる攻撃もせず(論文末尾の数十項目に渡る論拠には一切触れず、言及部分への返答も非常に物足りない!)、私との論争で洗練されていく可能性も非常に低い(彼が私の研究を引用していないことに改めて留意願いたい!)。何にせよ、公平を期す為にも議論を続けることとする。

(B)Nath博士は
・複合体I~IVがどのように機能するか
レスピラトームが存在する理由
・系に酸素が必要な実際的理由
・NADHからの電子供給がATP合成にエネルギーを供与する理由
これらを一切説明できていないことを認めている。だがこの文脈で私の主張に言及できない非力を和らげる為に「コンセンサス」に固執している。この理屈はどのように機能するのか?

一方、彼はKMBとは違う独自理論を謳っており、また自分の信念は(明らかにKMBパラダイム信奉者の)メジャーな研究者達と合意形成が取れていると主張する。実際にはNath説とRCPEモデルは(先述の通りに一部の機構上の相異はあれど)本質的に類似の提案であり、私は既にコンセンサス説を否定して信憑性のないものにしたと考える!

代わりに私は、このプロセスに関わる新規かつシンプルで緻密な構造機能相関および(熱力学的、反応速度論的に可能な!)化学反応式を提供したが、彼はこれを取り合わなかった。また、私のグループはDROSがあればADP アデノシン2リン酸Pi 無機リン酸からATPが生成されると(活性測定と直接定量の両方で)実証し、この反応が全身性呼吸毒であるシアン化物で阻害されることも示した。Nath博士はこうした研究に不協和/無知を示しつつ自分の要望に沿うよう説教をする。何と横柄で厚かましい!

(C)問題の核心は次の点:『複合体VはミトコンドリアのATPase ATP加水分解酵素ATPsynthase ATP合成酵素の両方を担う』という研究者の仮定である。仮にそうであれば、ミトコンドリアや複合体VはATPの合成やその加水分解を「いつ/どうやって」「認識/決定」するのか

Nath博士は誤った投影をしているが、私は複合体VがADP/ATPと結合したり、平衡駆動型でATPを合成することは否定していない。事実として、複合体Vは(ADPに比較して)1,000万倍のATP親和性を持ち、実証可能なATPaseである。この現実は、仮令平衡駆動型(ミトコンドリア全体や還元主義的システムに於けるイオン濃度差でも促進される可能性)のATP合成能を一部有していようと、複合体Vが生理的ATPaseだと言っている。このシンプルな声明こそ、Nath博士が固執/宣伝する凡有る持論に支持的なものを説明している!(関心のある方へ:Murburn構想の影響はイオン濃度差にも及び、『Biochemistry Insights』誌掲載の論文でStoinらの発見(同論文の参考文献74)を引用しつつ正式に主張している。)

更に我々は、複合体V駆動の平衡プロセスが、ミトコンドリアに観測される約ミリモルレベルのATPとは対照的に亜ナノモルからピコモル程度のATPしか生成できないことを示した[26]。そしてDROS駆動Murburnパラダイムが生理的ATPレベルに到達する仕組みも示した[26]。『Journal of Biomolecular Structure and Dynamics』(JBSD)誌掲載論文では、ミトコンドリアや原核生物に於ける複合体V介在(とされる)ATP合成の熱力学/反応速度論について議論した[25]。これら2本では、in vivoでATP合成を齎すDROSを報告した先駆研究者(光リン酸化(Tyszkiewicz & Roux, 1987), 酸化的リン酸化(Mailer, 1990))を引用している。

Nath博士は自説に反する(かつMurburn説に支持的な)こうした重要な事実/論拠を都合よく回避している。Murburnモデルの核心部分や詳細に触れず、自身の研究が他者の成果の漸進的発展である一方、私の見解はこの分野の理解を悉く「台無し」にするだけだと繰り返すばかりである。私の尽力を「危険な」結果を招きかねない「小賢しい馬鹿の曲芸 stunts of a smart fool」だという。

関心を寄せる研究者は2019年11月9日にOSFプレプリントにアップロードされた私の最新論文を参照できる。ロシア科学アカデミーの熱力学専門家Nikolai Bazhin教授との共著論文である。この画期的な論文で、NADH+プロトン+酸素の代謝的役割を詳述し、水/浸透圧の生体恒常性細胞生理学および膜電位観測との関連性を明らかにした。この研究は熱力学と反応化学に堅固に改めて立脚している。

そう、私はホリスティックな現象学が魅力の理論構築を謳っており、(Nath博士のように!)複合体Vだけに縛られていない。Nath博士は「より整合性を図る」私の努力は「見当違いな利己的挑戦」であり、特定の領域は選ばれた一部の者に委ねるべきだと「謙虚に」述べている!私は彼の交渉に屈しない(この旧態依然としたアプローチのせいで研究者は表1の通りにHPO ヘムペルオキシダーゼ, mXM ミクロソーム分画薬物代謝, 酸化的リン酸化に共通して一電子酸化還元中心とDROSが関与することに気付けなかった)。

私の探究はより巨大な物理化学の全体像を齎すアイデアを発見して整合性を図ることを意図している。私にはヘム-フラビン酵素学(ミトコンドリアの呼吸器系そのもの)に関する20年以上にわたる実践的研究経験がある。科学者としてこれまでも認識を変えてきたし、根強い信念体系を問い直す権利がある。真に価値ある科学者ならば公平かつ合理的に議論を交わす道義的かつ知的責任を負い、問題の核心から焦点を逸らすべきではない。Nath博士は我々の発表論文、特に2019年のJBSDとABB(著名な編集委員会と数十年の刊行実績を持つ標準的学術誌!)掲載の2本は通読すべきである[25,26]。Nath博士にその気がない以上、次項では、博士の説に反する(かつMurburnモデルに支持的な)これら2本に提示した関連文脈に言及するにとどめる。

(D)関心のある方はJBSD論文[25]の4.3から4.5節を参照されたい。Murburnスキームに基づく酸化的リン酸化の詳細な証拠が提示されており、シアン化物の毒性論文[29]と併せて読解すれば見識ある読者ならば判断を下せるだろう。次にABB論文の1~30項では、定説とMurburnモデルで項目別予測可能性の比較を実施している。そして5.3節と末尾から2段落目、末尾の論拠A~Eにて、生理的ATP合成酵素としての複合体Vの機能を扱っている。6節では熱力学/反応速度論的分析を実施し、複合体VのATP合成がピコモルレベルに過ぎない点から生理的ATP合成酵素になり得ないことを示した[26]。7節ではMurburnスキームでミリモルレベルのATPが生成される仕組みを紹介した。最後に9節では、NADH酸化がATPを生成する一電子結合スキーム(即ちMurburn構想)を支持するシンプルかつ直接的な5つの理由を提示している。

ただオープンマインドで追究する必要がある

膨大な数のタンパク質がこれほど多くの(酸素にアクセス可能な)一電子酸化還元中心とADP結合部位を持ち、DROSを生成するのは何故か?

我々は既に、ATP合成が複合体Vによる緻密な膜貫通型の電気機械的な妙技ではなく、単純な化学反応の産物だという十分な根拠と論拠を発表してきた!酸素に相応の評価を下す時が来たのだ!間違いなく酸素は水が生まれるまで複合体IVでただ座して待っているわけではない!(真に関心を寄せる方々には本稿末尾2段落を勧める。KMBモデルへの反論を総括し、Murburnパラダイムの支持で結論付けている。)

II. EMBO機関誌掲載の2編(Wolf, 2019; Schlame, 2019)

UCLAのOrian Shirihaiグループ所属のWolfらが『European Molecular Biology Organization 欧州分子生物学』(EMBO)機関誌に極最近発表した論文:「同一ミトコンドリア内のクリステは個々に膜電位が異なり、機能的に独立している」[37]と、NYUSMのMichael Schlameが同号に彼の考えを支持する論文:「代謝的エネルギーの絶縁変圧器としてのミトコンドリアのクリステ」[38]を掲載し、この2本が私の批判的関心を呼んだ。

この論文は明らかに波紋と反響と呼び、メディアの脚光を浴びた。EMBO誌編集長に反論の機会を要請した時(関連論文を添えて論文著者達をccに入れた)、編集チームは私の論拠が「無関係」だと拒否をした!私はこれまで以上に強固に異議を唱え、科学界にはこの問題の審判を要望している。ここに要約から該当部分を抜粋し、画像(図2)を示す。

ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)は酸化的リン酸化の主要な駆動力である。ミトコンドリア内膜(IMM)はクリステと内境界膜(IBM)で構成され、均一なΔΨmを保持するものとされる。だが酸化的リン酸化成分がクリステ膜に隔離されている事実は、IMMの等電位モデルの再検討を必要とする。我々は、個々のクリステの解像度でΔΨmをモニタリングする手法を開発した。その結果、IMMはクリステとIBMに対応する、異なるΔΨmを持つセグメントに分割されていることが判明した。ΔΨmはIBMと比較してクリステでより高かった。オリゴマイシン処理はΔΨmの不均一性を増加させたが、FCCPは減少させた。MICOS複合体構成要素またはOpa1の欠損によるクリステ構造の障害は、このミトコンドリア内ΔΨmの不均一性を減少させた......総合的に、我々のデータは、同一ミトコンドリア内のクリステが独立した生体エネルギー単位として機能し、特定のクリステの機能不全が他の部分に広がるのを防ぐという新たなモデルを支持するものである。

文献[37]
Wolf DM, Segawa M, Kondadi AK, Anand R, Bailey ST, Reichert AS, van der Bliek AM, Shackelford DB, Liesa M, Shirihai OS. Individual cristae within the same mitochondrion display different membrane potentials and are functionally independent. EMBO J. 2019 Nov 15;38(22):e101056. doi: 10.15252/embj.2018101056. Epub 2019 Oct 14. PMID: 31609012; PMCID: PMC6856616.

図2: Shirihaiグループ発の概念を支持するSchlameの画像を併記しつつWolf論文の主旨を再構成
端的に言えば、研究者達はプロトンの数を完全に誤認している指で数えられるにもかかわらず!Schlameは電子伝達系の整然とした配列とプロトンの周期的な方向流動で彼等の発見を支持している!このような願望的描写は化学の基礎的な分子構造の理解に対する裏切りである。

単純な(オッカムの剃刀に従う)概念上の理屈では彼等の論文にある図11の構造スキームを支持できない。提案の構造は2次元では「説得力」を持つが、3次元や現実の観念ではこじつけである。何故なら、構造理解によると、クリステは単なる二次元的絨毛や内境界膜(IBM)の指状の内突起ではないからだ。これは以下の単純なミトコンドリアモデルの修正画像(図3)に描かれている。

図3: 一般的なミトコンドリアクリステでWolfらの提案を実現する為に必要なMICOS Mitochondrial Contact Site and Cristae Organizing System(ミトコンドリア接触部位およびクリステ形成システム)複合体の空間配置(他のミトコンドリア形態も付記)

クリステの大部分はむしろ球端円柱型のミトコンドリア断面全体を(様々な密度で)隔てる棚状の内境界膜の陥入 表面の折り畳みである。クリステ内に於けるMICOS複合体の機能とされる「ピンチオフ」効果(全次元で数ナノメートルの絶縁を齎す筈のもの)が「マトリックス内に孤立したクリステ管腔プール」を生むというのは「考えられない」(他に適切な表現がない!)。この効果には、
・3次元幾何学が「ア・プリオリ」に定義する内境界膜上の長く切れ切れの点に沿って決定論的に配置・機能するMICOS複合体
・培地に存在しない成分でイオン培地を絶縁する未知の方法
が必要となる(画像中にミトコンドリア遠位側の太い青の縦線で示す)!こうした要件は高度に「還元不可能な複雑性」や「超分子知性」「認識不可能な力/メカニズム」などの理屈に依拠してのみ正当化される。

(「百聞は一見に如かず」的な)実験的証拠は著者らが提案するスキームを支持しない。クリステに決まった形状やパターンなど存在せず(図3右)、またミトコンドリアの形状と内部クリステ構造は、環境条件の変化に応じて、任意の細胞型の内部で数分以内に大きく変化し得ることは顕微鏡学者の間では周知の概念である。ミトコンドリア内の二次的な水性のプールは内境界膜に於けるクリステ接合部の閉塞や融合で生じるとは認識されていない。マトリックス(所謂ハニカム構造)内で時々クリステの吻合が観測されるが、これは内境界膜クリステ接合部での如何なる狭窄にも起因しない

投影されたシナリオは化学的浸透圧を守り続ける為のミトコンドリアの構造/構築に対する「盲目的な」見解である。私は数々の研究者が撮像した数百点に上るミトコンドリアのTEM画像を数十年に渡って精査したが、著者達が提唱するスキームを裏付ける視覚的証拠は未だ確認できていない。一方、外周面のクリステ接合部は収縮ではなく広い断面を示すのみである!

TEM画像は著者達が使用した蛍光顕微鏡技術より遥かに優れた分解能を持つ。明らかに(ミトコンドリア外膜近傍)内境界膜のクリステ接合部に於ける膜融合や、「MICOS複合体による魔法の絶縁状態」は単なる推測に過ぎない(これは今、余計な化学的浸透圧-プロトン駆動力の説を存続させたい固定観念に必要とされている)。繰り返すが:TMPは酸化的リン酸化の駆動力ではなく、その結果である生理的状態のミトコンドリアにプロトンは約6個しか存在せず、Wolf論文の図11が表す程に豊富ではない。

 Wolfの解釈を支持するSchlameへの反論:

ミトコンドリアは実際には非プロトン性であり、(空間に磁力線を描くように!)「プロトン駆動力線の空間分布」を表す幻想的な図を理解できるのは彼しかいない!例えば、複合体Vが押し出す ポンプするプロトン(ミトコンドリアに押し出せるプロトンなど殆ど存在しないと改めて強調しておく!)が複合体V上方へ移動する理由は何か?ミトコンドリア外膜が細胞質と平衡状態にある以上は内境界膜への移動の方が遥かに良策にも関わらず?

現実世界にプロトン駆動力の実例など存在するのか?金属線を介した電気伝導の実例(電子駆動力)に於いても、伝導体の端から端の実空間で電子が光速(金属の実効伝導率)で移動することはない。また、電子の質量は実質的に無視できる上に、プロトンに比較して最小限の空間しか占めない!著者とSchlameがグロッタスの「プロトン・ジャンプ」機構的な環状膜貫通経路に沿う水素結合ネットワークを介したバケツリレーを論じているなら、TMPは構築できない[20,22]。

この図全体が幻想であり、不可能で想像すらできない!こうした誤った概念を既に解体した批判的作品をこの研究者達が通読しない理由は何だ?電子伝達系の概念が要請する整然とした直線配列を膜複合体に求めるのは誰/何なのか?これらは現実的基盤を欠く単なる推測に過ぎない。

何より「独立的に機能する個々のクリステ」や「代謝的エネルギーの変圧器」とは何を意味するのか?膜電位の測定とは何か?蛍光プローブ(単一分子)が電位差という2点的概念をどうやって伝達できるのか?

 Wolfらの発見をMurburn構想で説明:

TMPはDROSの存在で生じる。分子プローブは明らかにDROSに感受性である。ミトコンドリアには高密度のDROSが存在する部位があり(DROSを生成する酸化還元タンパク質が高密度に存在する為!)、この為当該部位で高い蛍光が観測される。

(界面DROS/プロトン調節因子の)FCCPを添加すると、DROSのダイナミクスが変化・均質化し、TMPが低下する。オリゴマイシンを添加すると、複合体Vのカチオン性細孔 cationic poreが遮断され、マトリックスへのプロトン流入が最小化される。結果、その場でアニオン性DROSの蓄積が増加し、TMPが上昇する。明らかにMICOS複合体の変性はクリステ構造を破壊し、従ってDROSの時空間分布に影響する。彼等の実験結果で彼等の主張通りのメッセージの解釈・関連付けがされるものなど存在しない!彼等の研究はMurburnモデルを支持している。

上記EMBO論文に続き、メディアがミトコンドリアを(Schlameがクリステを「絶縁変圧器」と呼んだ為)テスラ社のバッテリーパックに譬えて報道したことは興味深い。

ミトコンドリアは単純な化学反応装置であり、膜の屈曲構造で触媒(タンパク質複合体)の負荷を高め、ラジカル反応プロトコルを使用する。テスラ社のバッテリーは通常、2つの端子間に固定電位差を供給する設計(消耗後も殆ど発熱せずに再充電可能)のイオンベースの特許技術である。この為、同社は所定の構成で複数の独立セル 単電池を使用し、一定の電位差を発生させている。

この電位をミトコンドリアのTMP(著者が膜電位として誤って使用)に譬えるのは深刻な概念的誤りである。Wolf-Shirihai系に於けるミトコンドリアのクリステはテスラバッテリーのセルと比較できるものではない。バッテリーの配置とは異なり、ミトコンドリアは特定2点間の電位差を利用することはない為である。即ち、ATP合成反応はミトコンドリアマトリックス/内膜界面に於いて時空間的に離散化されており、一つの位置に限定されない!また、テスラバッテリーの電位は我々の有用な仕事に利用されるが、ミトコンドリアのTMPはマトリックスで生じるATP合成という有益な活動の結果である。端的に、構造的、機能的モジュール性において類似点は存在しない。この相違が理解されることを願う。こうした無駄な方向へ突き進む必要性が生じるのは、依然としてMitchellのTMPがATP合成の駆動力と考えている為に他ならない!

III. Nature論文(Momcilovic, 2019)

Momcilovicら[39]の論文(David Shackelfordがリーダー)がNature誌に最近「非小細胞肺癌におけるミトコンドリア膜電位の生体内イメージング」と題して発表された。要約の一部を以下に再掲する。

........ミトコンドリアは、電子伝達系によって生成される膜電位勾配を形成することで酸化リン酸化を維持し、ATP合成を駆動する。......ここでは、4-[¹⁸F]フルオロベンジル-トリフェニルホスホニウム(¹⁸F-BnTP)⁴と呼ばれる電圧感受性陽電子放射断層撮影(PET)放射性トレーサーを用いて、非小細胞肺癌における生体内のミトコンドリア膜電位を測定した。......¹⁸F-BnTP PETイメージングの利用により、生きた腫瘍におけるミトコンドリア膜電位の機能的プロファイリングが可能となった。

また、図2左上の「パネルa」はミトコンドリアの生体エネルギー学とその実験戦略の模式図である。

彼等はプローブ(¹⁸F-BnTP)の分子構造を提示する。これがミトコンドリアに取り込まれれば、電子伝達系駆動スキームにより生体エネルギー学的全体像が得られると主張する。

上記の件に数点の懸念を抱いている。図解のスキーム(電子伝達系とプロトンポンプ)は何度も指摘してきた通り誤りである[20,22,25,26]。TMPは牽引する輓獣ではなく、牽引される荷車である!そして研究者達はTMPを全く測定していない。彼等は分子プローブが中継するシグナルを観察しただけであり、それは分子プローブ自体の物理化学的状態や、その周辺環境の性質を反映しているに過ぎない

分子では2点的概念を反映することはできない。TMP測定とは、その名の 膜「貫通」電位の通り、2点の現象である。この場合、Mitchellの提案に従うなら、TMPはマトリックス内と膜管腔内の2点に電極を刺して測定すべきである[22]。現時点で誰もこれを実施しておらず、また直近の未来でも不可能である(その為の技術が存在しない為)。この生体エネルギー学分野における巨大な誤りを我々は指摘している[22]。

彼等が使用した分子プローブは明らかに正のリン中心を持ち、スーパーオキシドラジカル等の活性酸素種の影響を受けやすい。彼等の記述はTMPではなく、その内部環境中にある様々な活性酸素種と相互作用したレポーター分子の局所的影響である。

また、FCCPやオリゴマイシンがミトコンドリア内でどのように作用するか、本稿で先ほど詳述した。これを元に解釈も修正される必要がある。

IV. nature cell biology(Spinelli and Haigis, 2018)

Nature誌はMitchellの研究/構想をずっと支持しており、数十年に渡って化学的浸透圧/プロトン駆動力のような非科学的概念の文献を発表してきた(再三にわたる反論を認めることすらしなかった!)。

この件に関する最新の総説論文が姉妹誌Nature Cell Biologyに掲載された。SpinelliとHaigis[40]の『細胞代謝に対するミトコンドリアの多面的貢献』である。だがこれはDROSの基本的な役割を一切正当に評価しておらず、提唱されている概念には大幅な見直しが必要である。

V. Science(Murphy et al.,2019)

KuhlbrandtグループのMurphyらがScience誌に最近発表した論文[41]『ミトコンドリアのATP合成酵素の回転サブステップがF₁-F₀カップリングの基礎を解明』では、複合体VがATPを生成する仕組みを掘り下げている。要約から関連部分を再掲する。

F₁F₀-アデノシン三リン酸(ATP)合成酵素は、細胞内のエネルギー消費プロセスに利用できるエネルギーをプロトン駆動力により生成する。.....13の明確な回転サブステップを3次元分類で分離すると、cリング回転に伴う分子運動の詳細な像が得られ、これがATP合成を齎す。特に重要なのは、F₁head が各120°の一次回転ステップの最初の約30°において中心軸 central stalkとcリング回転子と共に回転し、化学量論的不一致のF₁サブ複合体とF₀サブ複合体の柔軟な結合を可能にすることである。......プロトンアクセスチャンネルに保存された金属イオンがcリングのプロトン化を回転と同期させている可能性がある。

我々の研究は、複合体Vが生理的にATP合成酵素でなくATP加水分解酵素としてのみ機能することを合理的疑問の余地なく実証している[25, 26]。実際のATP合成機能は複合体Iから複合体IVが担う。複合体VはADP/ATPと結合可能であり、平衡駆動型ATP合成を促進する可能性もある(この事実を否定する者はいない!)が、親和性はATPの方が遥かに高い。

必然的に複合体Vの役割はATP加水分解酵素となり、この活性は純粋な酵素/タンパク質によるin vitro実験でも実証されている。小胞 vesiclesによる平衡駆動型(ATP)合成の実験系は(単一分子実験含め!)生理学的に殆ど意味を持たない。著者達は、我々がこの件に齎した新たな熱力学/反応速度論的洞察を評価せねばならない。

とにかく、ABB論文[26]図6に掲載した単純化した複合体Vの構造を参照しつつ、Murphy論文の構造機能相関について議論したい。

文献[26]図6より

cリングの異なる構造は「低エネルギー」ドメイン内に生じた3次元構造の微妙な変化であり、膜タンパク質ではこうした結果が予想される。同じタンパク質でも僅かな変化で複数のコンフォメーション 立体構造を取ることはあり得る。これが機能的に重大な意味を持つかどうかは分からない。例えばmXMシステムでは、Harren JhotiとEric Johnsonの研究グループがCYP2C9のような膜タンパク質にそれぞれ別々の構造を報告した[42,43]。

「プロトン化でcリングを回転させる能力」を金属イオンに帰属するのは無理があるように思える。「F₁head全体が120°のパワーストロークごとに25%回転」の提案に異論はないが、これも推測に過ぎないだろう。

こうした思考回路は、「複合体Vが回転様式でATPを合成する」と仮定した昔の経典による制約から生じている。複合体Vは非対称構造であり、3つのαβ二量体それぞれが、底部のコアにある非対称の中央γ軸や、その上部の非対称δコネクターと共に同じ効率で可動すると想定するのは明らかに無理がある。

このシナリオに於ける新たな提案では、F₁headが移動/回転するには、上部のδコネクターを利用してγ軸から外れるか、δコネクターから解放された後にγ軸-cドラムと共に回転しなければならない。構造的観点では後者の可能性が遥かに高い。何故なら、側方の位置では再現性あるトルク ねじりモーメントが得られないが、中心の位置ならば可能だからだ(また、プロトンがcリング側から侵入するシナリオを想定する力学的根拠は乏しい!)。一方、αβ二量体-三量体バルブが静止するには、αβ二量体が上部でδコネクターと強固に連結し、底部コアでγ軸とαβ二量体-三量体バルブとを解離させねばならない。

つまり、新構想では
・cドラムとγ軸の強固な結合
・上部のαβ二量体と着脱可能なδコネクターの相互作用
・αβ二量体コアと底部γ軸との着脱可能な結合
が必要となる。そしてcリングに隣接して移動する数個のプロトンにより全体か一部が回転し、同時に固定子a+bとの近接が保持されねばならない。

そして、これら全ての機能が完全に可逆的に稼働しなければならない!これはMichael Beheのいう「還元不可能な複雑さ」である。間違いなくこんな構想は現実や進化との関連性は低いだろう。

するとATP合成の決定権は単にcリングにあることになる。プロトンが膜管腔側に到達すればATPを生成し、マトリックス側に到達すればATPを分解する。この仕組みでは最終的に非方向的プロセスに行き着く。また、これらの推測はATP合成の熱力学、反応速度論や反応化学と何の関わりも持たず、明らかにラジカル化学の方が巧く説明する。

VI. PNAS(Voila et al., 2019)

次に私の関心を鷲掴みにしたのは、Voilaら最近PNASに発表した「シアノバクテリアに於けるチラコイド膜間電界の探査」[44]である。要約から重要部分を以下に抜粋する。

.....光合成/呼吸膜に発生する膜間電界を直接測定することを可能にする。ここでは、膜間電界のプローブを特徴づけた。.....植物、藻類、および一部の光合成細菌では、光合成膜間の電界を感知する光合成色素のElectroChromic Shift(ECS)が光合成伝達鎖の活性の定量法として広く用いられている。シアノバクテリアでECSシグナルが生理学研究に利用された例はないが、チラコイド膜に絡み合った呼吸系および光合成電子伝達鎖の構造と機能を研究するユニークなツールとなり得る。.......我々は、これらのプローブがin vivo光合成生理学研究、例えば、暗所に於けるプラストシアニン/シトクロムc₆に予め結合されたphotosystem I(PS I)中心の画分(本実験では両シアノバクテリアで約60%)、チラコイド膜の導電性(主にATP合成酵素の活性を反映)、光合成電子伝達経路の定常状態速度を研究する上で理想的なツールであることを実証した。

前述の通り、好気呼吸における電子伝達鎖の概念は否定されており[22]、これは酸素発生型光合成にも該当する[28](後者の研究は未発表)。PS IとPS IIの接続性もZスキームモデルではあり得ない。電子回路に関する基本知識に反するからだ。そしてATP合成に関するプロトンポンプに基づく理論もチラコイドでは機能し得ない!

更に、前述の通り、「膜間電界」測定に色素を利用するのは明白な概念的欠陥である。電界や電位差測定(例:電圧系)は2点間の概念である。膜の片側や膜内に局在する単一の色素が膜を隔てた対側の状態を反映することは不可能である。二つの領域の「自由電子密度」は参照系により相対的に比較しなければならない。

この研究では拡張π電子系カロテノイド分子系が使用され、これは局所的な活性酸素種(ROS)の雰囲気を敏感に反映するものと予想される。従って想定上の理論的概念や実験の採用技術は、その言葉が表すものを含意しない。

VII. Biomolecular Concepts(Neupane et al.,2019)

最後にNeupaneらが2019年にBiomolecular Concepts誌に掲載した総説論文『ATP合成酵素:構造、機能および阻害』[45]を本稿で取り上げる。

....複合体V(F₁F₀ATP合成酵素やATPaseとも言われる)は、ミトコンドリア内膜を横断するプロトン勾配で生成される電気化学的エネルギーを使用するADPのリン酸化を通じてATPを生成する役割を担う。膜を横断するプロトン勾配に沿って機能するポンプのように機能するマルチサブユニット構造はATPの合成と分解だけでなく、電子伝達の促進も可能にする.....

ATP合成を可能にするのはTMPではないこと、複合体Vの機能は生理的ATP合成酵素ではないことを示す論拠を幾つも提示してきた[20, 22, 25, 26]。複合体Vが電子伝達を促進し得る既知の方法は存在しない。KMBモデルでは電子伝達モジュールとATP合成モジュールに繋がりがない為である。この総説のメッセージは全面的見直しが必要である。我々の論文、過去の議論、および本稿の結論は、この分野における関連する進展を示している。

KMBモデルの5つの評価項[22]

  1. 電子伝達系概念は動態全体を説明できず、分子状酸素の必要性と反応性と相容れない。また、この説はシアン化物の毒性を説明できない。シアン化物は酸素と同じ部位 ヘム鉄に結合するとされるが、酸素がシアン化物より容易に結合する条件下でも毒性が確認される

  2. 利用可能な「遊離プロトン」(生理的pHで約6個)および膜酸化還元タンパク質の分布(推定プロトン輸送体約10⁶個)では、プロトン中心生体エネルギー学やATP合成パラダイムは説明できない。

  3. 「密閉鍋」スキームの下、全く同一のイオンが全く同一のミトコンドリア内膜を双方向的に(共)輸送されても有益な仕事は発生しない。従ってKMB(旧来)説は熱力学に違反し、NADH酸化に関する反応の化学量論を説明しない

  4. ATP合成は単純な化学反応であり、ATP合成より加水分解に長けた分子剤(複合体V)でそれが達成されることはあり得ない。その実現の為には複合体Vが超分子知性でなければならないが、明らかにそれは有していない。

  5. ADP/Piが存在すると反応速度が増大(酸素とNADH消費量増加)する現象についてKMBモデルには一貫性のある説明は存在しない。何故なら電子伝達系がATP合成から切り離されている為である。NADH酸化とATP合成の化学反応的連結性は、酸化的リン酸化に必須かつ最も顕著な生理学的特徴である!

Murburnパラダイムに支持的な論拠5点[26]

  1. DROSはin vitro還元主義的環境およびin situ生理学的環境の両方でATP合成を促進する。複合体IからIVはそれぞれADP結合部位を有し、またNADH/コハク酸および酸素の存在下でDROSを生成する。

  2. スーパーオキシド/ペルオキシド(活性酸素種)の生成濃度はNADH/コハク酸+供給酸素量に正比例し、これは酸化的リン酸化触媒系における圧倒的な量の一電子酸化還元中心を直接的に裏付ける。

  3. TMPの強度と合成ATP量は検出される活性酸素種に正比例し、酸化的リン酸化に付随するDROS(スーパーオキシド/ペルオキシド)の生成なしにATPは合成できない。従って、ATP合成を駆動するのはTMPではなく、ミトコンドリア内でのDROSの触媒活性である(DROSはリン酸エステル結合を形成してTMPを生成可能だが、TMPがリン酸エステル結合を生成する既知の経路は存在しない!)。

  4. DROSの仲介やその生成を含む反応式は以下の点を巧く説明する
    ・全体的な反応化学(結合エネルギー, 反応速度論, 収率, 化学量論など)
    ・酸化的リン酸化の高い効率性
    ・全体的な現象論
    ・複合体Vの役割(定常状態でプロトンを供給するカップリング剤)
    ・反応成分(タンパク質触媒と反応剤)の構造機能相関
    ・複合体IIIとIVの高い密度分布

  5. 最大の重要性は、DROS介在ATP合成が電子伝達現象とATP合成/熱発生との間に直接的な化学反応的連結性を齎すことであり、これによりADP/Piが存在すると吸収酸素量とNADH消費量が増大する理由が説明される。

立証終了
Murburn構想が主導する細胞代謝および細胞生理学のパラダイムシフト[20]が詳らかになることを願う。


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