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好気呼吸:(回転ATP合成/化学的浸透圧原則/プロトンポンプ/電子伝達系)が関与するプロトン駆動型への批判

Manoj, K. M. (2018). Aerobic Respiration: Criticism of the Proton-centric Explanation Involving Rotary Adenosine Triphosphate Synthesis, Chemiosmosis Principle, Proton Pumps and Electron Transport Chain. Biochemistry Insights, 11, 1-23. https://doi.org/10.1177/1178626418818442

最近Kelath教授はtwitterに顔を出されていないようだが、まだ呟かれていた時に紹介されていた論文を翻訳する(※教授は一時期ミトコンドリア関連のアカウントに突撃を仕掛けまくっていたが、あまりに無反応なので多分諦めたのだろう)。Murburn構想を理解する上での前提となる最重要論文らしい。

~古典的生体エネルギー学に対するMurburn構想の影響~
2017~18年にかけて
・電子伝達系
・プロトンポンプ
・化学的浸透圧
・回転ATP合成
が完全に見当違いだと証明した。これにより、細胞生物学の基盤全体が崩壊し、生物学/生化学の教科書にあるノーベル賞級のアイデアが無効となり、それは細胞機能を理解し、実験データを解釈するための新手法が必要となったことを意味する。添付の画像は、古典的生体エネルギー学に対する私の批判論文(PMID: 30643418)が、多くの研究者に読まれたことを示している
(この雑誌で最多ダウンロード数を誇るが、論文の出版から数カ月後に廃刊となった!)

ミトコンドリア関連の論文は継続的に増えている一方、私の論文の出版以降、化学的浸透圧/プロトン駆動力をテーマにしたものは減少している。これは権威あるNature誌とPubmedの大量の文献で証明されている。私の追求に異論がある者は、自身の名前と資格を公開すべきである。歴史は永久に記録しているのだから。ブラインド・レビュアーに居座る似非専門家達はこれまで卑劣な手段を行使してきた。論文が出版されようと、指導者の影響で若手研究者達は受容できずにいる。結果、若い世代は誤ったアイデアを教えられ、重要な臨床/研究データを誤読し続けているのだ。我々は、決定的に反証されたアイデアを採用し続けるなど間違っていると真に理解しなければならない。

最近インドのテレビ番組でインタビューを受けられたようだ。現地の取材の方が忙しいのかもしれない。ツイッタランドなんぞにうつつを抜かす暇もないのだろう。

今回翻訳するのは、まさにその「多くの研究者に読まれた古典的生体エネルギー学に対する批判論文(PMID: 30643418)」である。


要約

ミトコンドリアの酸化的リン酸化(細胞呼吸)関連の学説では、4つの要素(回転ATP合成 Rotary ATP synthesis化学的浸透圧原理 Chemiosmosis principleプロトンポンプ Proton pumps電子伝達系 Electron transport chain…以下RCPE仮説に省略)で成立する決定論的プロトン中心スキームが高く評価されている。

本稿では、ミトコンドリアの構造、タンパク質の分布、構造機能相関、それら相互作用のダイナミクス、全体的な反応化学、反応速度論、熱力学、進化論などの観点から、RCPE仮説を批判的に分析している。

その結果、RCPE仮説は、酸化的リン酸化に纏わる生理学上の具体的な課題や総合的観点から説明不足だと判明した。従って酸化的リン酸化の新たな説明の追究が不可欠である。


好気的細胞呼吸に関する様々な見解の調査

「顕微的微小生物」ことミトコンドリアは、20世紀初頭の時点では細胞の感染性寄生体と誤解されていた。20世紀半ばのHans Krebs、George Palade、Fritiof Sjostrand、Britton Chance、Albert Lehningerらパイオニア達の健闘により、当時は摩訶不思議だった細胞内小器官に関する知識が整備された[1-3]。現在では好気性真核生物の「発電所」とされるミトコンドリアは、生命の「仕事」を遂行する上で必要な化学エネルギーの大部分を生成する中心的役割を担う存在となっている。

細胞呼吸は、アデノシン三リン酸(ATP; 偏在する貯蔵・輸送可能な化学的通貨)を生成する代謝的ルーティンであり、専門用語で「ミトコンドリアの酸化的リン酸化」と呼ばれる。酸化的リン酸化の前提条件として、多炭素還元分子(グルコース/脂肪酸/アミノ酸等)の電子(又は水素原子)を系統的にトリミングし、徐々に除去した後に炭素数2のアセチル部位を生成する。その後このアセチル基はミトコンドリアのクレブスサイクル クエン酸回路へ取り込まれ、完全に酸化された2分子であるCO₂を排出する。

プロセス全体を通して、還元分子(NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)/FADH2(フラビンアデニンジヌクレオチド))が生成され、これがミトコンドリア内膜で酸素分子による酸化を受け、この細胞内小器官 オルガネラのマトリックス内部でATPが合成される。

この「酸素分子による還元等価物の酸化およびミトコンドリア内でのATP合成」が酸化的リン酸化の正式な定義である。

1950年から1975年にかけて、科学界はミトコンドリアの重要な代謝活動である酸化的リン酸化のメカニズムを巡って二分した。Edward Slaterを中心とする一派は「酵素結合型の高エネルギーリン酸化中間体」[4]を、Peter Mitchell率いるグループはATP合成を駆動する「プロトン駆動力」を発表した[5]。酵素をリン酸化する中間体を特定する長年に渡る努力は失敗に終わり(Paul Boyerが「ホスホヒスチジン」を提唱する段階も含む)[6]、プロトン勾配仮説が有力となった[7-11]。

また、化学的浸透圧という提案は
・電子伝達系(膜結合型酸化還元活性タンパク質集合体と拡散性低分子のメドレー)
・F𝑜F₁ATPase(複合体V(カップリング因子))
の連結性を構築できた。

Mitchellは、電子伝達系の構成要素に、プロトンにミトコンドリア内膜を横断させて膜管腔に輸送する役割を仮定した。こうして膜管腔に生じた"プロトン過剰"がプロトン駆動力や膜貫通プロトン電位(TMP)を生み、マトリックス内でのATP合成を促進すると述べた。

こうした進歩に触発されたPaul Boyerは、プロトンが(F𝑜モジュールを介して)マトリックスに再突入することで、複合体VのF₁モジュールによる回転ATP合成が生じると述べた[12]。

また、続々と仮説が提唱された。

(1)Lehninger-Kasumovは、複合体VがCa²⁺/H⁺/K⁺/Cl⁻ポンプとして機能する仮説上の機械的化学的浸透圧モデルを提唱した[13]。また、
(2)Nathの捩れ機構[14,15]では、複合体Vが膜を介したアニオン/カチオン勾配/交換によってリン酸カップリングのエネルギーを得ていると仮定する。

これらの説明もまた、ATP合成の主要な原動力は膜貫通現象であると捉えている

1980年代から現在に至るまで、この分野を牽引する総説論文[16,17]や教科書[1-3]の酸化的リン酸化の記述は、化学的浸透圧やプロトン中心カップリングが主流となっている。この高評価を受ける説は以下4つの要素で構成される。
1.(複合体Vによる)回転ATP合成
2.ミトコンドリア内膜を横断して作用する化学的浸透圧原理
3.プロトンポンプ
4.(複合体I-IVの)電子伝達系
便宜上、上記の4つの要素を含むプロトン中心仮説を以降RCPE仮説と呼ぶことにする。

ベテラン研究者達(RJP Williams, Gilbert Ling, Edward Slaterなど)の中には、化学的浸透圧(RCPE)がノーベル賞を受賞しても尚、その実行可能性に懸念を表明し続けた者もいた[14, 18-23]。特にEdward “Bill” Slater(2016年逝去…この分野を牽引する科学雑誌(BBA-Bioenergetics)の編集を務めた先駆的生化学者)は、化学的浸透圧を超克するよう科学者に要請していた[22]。

私は2017年にこの要請への返答として、化学的浸透圧の決定的反証となる定量的根拠と共に、酸化的リン酸化の酸素駆動型Murburnスキームの証拠を発表した[24, 25]。この新たな造語は「Mured(closed:閉じた) burning(燃焼)=閉鎖的燃焼」に由来し、「軽微で非制限的な酸化還元触媒のパラダイム」を意味する[24-30]。この新規メカニズムは、生理的ATP合成を呼吸鎖複合体近傍で発生する「一電子反応の分散型スキーム」の結果と説明する。

本稿(我々の研究の第一部)では、長年君臨したプロトン中心(RCPE)仮説の主たる構成要素を要約し、批判的に分析した(Murburn説は別の記事で詳述している[24,25])。

酸化的リン酸化のプロトン中心RCPE仮説

RCPE説では(酸化的リン酸化は)次の経過を辿る(図1)。

図1.酸化的リン酸化の主たる構成要素をプロトン中心スキーム(複合体I 電子伝達系の場合)で表した概念図
左側の3つの多量体複合体(※複合体I/III/IV)は電子伝達系を構成し、右側の1つの多量体複合体(複合体V)はATP合成の「回転酵素」を構成する。
タンパク質の寸法、それぞれの位置や分布密度に対する縮尺は考慮していない。

  • 還元を受けた基質から電気的陰性の酸素分子へ至る電子の下り坂リレーが、大/小分子による連続的で専用の「鎖/回路」(電子伝達系)を通過して生じる

  • 電子伝達系は、上り坂の膜貫通型(マトリックスから外側へ)プロトンポンプのプロセスと自発的に連動しつつ、3つの複合体(I, III, IV)を介して生じる

  • このプロセスはミトコンドリア内膜を横断するプロトン勾配(膜管腔に余剰プロトン)を生み、そこで化学的浸透圧を駆動させる

  • ここで複合体Vが回転様式で稼働して化学的浸透圧を利用する。プロトンが膜のF𝑜モジュールを通じてマトリックス方向へ自発的に移動すると、マトリックスの複合体のF₁ドメイン上の無機リン酸(Pi)とアデノシン二リン酸(ADP)がエステル化される

プロトン中心型の酸化的リン酸化を、3つの異なる観点で研究したい。
・現象論
・化学(化学量論)
・電気化学的メカノエネルギー論
(以降の節で議論する内容の引用文献は、先に引用した教科書から入手可能)

RCPE型酸化的リン酸化の現象論

プロセス全体には
・5つの多タンパク質複合体
・溶解性タンパク質
・親油性の拡散性分子
これ等の関与が不可欠だと理解されている。

ミトコンドリア内膜(マトリックス側)上でNADHとコハク酸から除去された電子が膜タンパク質複合体IとIIに渡される。両複合体は複数のタンパク質で組織され、補因子としてフラビンとFe-S中心を持つ。

次に、これら複合体は電子対をコエンザイムQ(CoQ)に中継する。CoQは長鎖/短鎖のイソプレノイド-キノンであり、ミトコンドリア内膜の内部を自由に拡散している。CoQは、(外側から)グリセルアルデヒド-3-リン酸や(内側から)アシル-CoAなどの他の基質からも電子を受け取れる。これら電子伝達プロセスはすべて特定のフラボ酵素(デヒドロゲナーゼやオキシドレダクターゼ)を介する。

CoQは次に、内膜上に配置される二量体の複合体III(主たる補因子にヘムbとcを持ち、リースケタンパク質を含むFe-S中心を持つ)へと電子を中継する。ここでシトクロムc(Cyt.c…膜管腔内部にあるヘムc含有の拡散性小タンパク質)が膜結合型複合体IIIから一電子等価物を収集する。その後、Cyt.cは膜間水性微小環境をシャトル移動し、複合体IV(内膜に配置されたヘムa-銅多タンパク質複合体)に電子伝達する。

この間、二原子酸素分子は、複合体IV(…のヘム鉄および銅という二元金属錯体中心/部位)に「結合」状態である。この部位は最後の"electron sink"として機能し、電子4個とプロトン4個が結合酸素分子に反応/付加するとされる。このステップが完了すると、二原子酸素 ジオキシゲンは分裂して二分子の水になる。

特筆すべき点は、複合体I~IIIに含まれる豊富なFe-硫黄 Sタンパク質である。全ての複合体(I~IV)には酸化還元酵素 オキシドリダクターゼ/脱水素酵素 デヒドロゲナーゼの機能があり、またプロトンポンプ機能も持つとされる(注:複合体IIはプロトンの膜間輸送はしないが、プロトンを膜に流し、それをCoQが再利用するとされる)。

電子は時空間的に連続した回路を介して調和的に流れるものとされる。以下に酸化還元電位の高い順に羅列する。

NADH⇒フラビン(複合体I)⇒CoQ⇒ヘムb-ヘムc(複合体III)⇒ヘムa(複合体IV)⇒O₂

Cyt.cの中継を除き、分子間の電子伝達は全て電子対により達成されると考えられている。だが、あるタンパク質複合体の内部では電子は主に1つずつ移動する

最後の複合体Vは(膜を挟んだ電気化学的勾配を「感知・利用」する)多タンパク質の集合体であり、その孔にプロトンを通過させてマトリックスへと戻そうとする化学機械的モーターとして機能する。このプロセスのお陰で、回転触媒戦略による効率的なATP合成が可能になると考えられている。b-, c-サブユニットを通じて侵入し、F𝑜ドメインにある出口を通じてマトリックスへのアクセスを得る前に、プロトンはc-サブユニットに付着して完全な回転を経る。(b-δサブユニットで固定された)交互配列(α-β二量体)の三量体を介してγ軸が1回転(360°)しつつ、ATP三分子が複合体VのF₁部分によりマトリックスへ放出される。

RCPE型酸化的リン酸化の理論化学

酸化反応およびリン酸化反応(NADHとコハク酸がそれぞれ1分子ずつ酸化し、酸素1分子が還元される4電子反応)の全体式はBox1の式⑤と⑥に表される。

現状パラダイムは本質的に2電子スキームである。電子が複合体I/III/IVを通過する時に一定量のプロトンが(プロトンポンプか酸化還元ループ機構で)膜管腔に放出される。効率的に結合した酸素分子の還元に関する(全体の質量および電荷の係数調整済)方程式をBox1に示す。

--Box1--
RCPEスキームに基づく反応の化学量論

  • 複合体I = NADH + 5Hᵢ⁺ + CoQ ➡ NAD⁺ + CoQH₂ + 4H𝑜⁺ …(1)

  • 複合体II = (C₄H₄O₄)² + CoQ ➡ (C₄H₂O₄)² + CoQH₂ …(2)

  • 複合体III = 2CoQH₂ + 4Hᵢ + 4Cyt.c ➡ 2CoQ + 8H𝑜⁺ + 4Cyt.c*⁻ …(3)

  • 複合体IV = 4Cyt.c*⁻ + 8ᵢH⁺ + O₂ ➡ 4Cyt.c + 4H𝑜⁺ + 2H₂O …(4)

  • ETC = NADH + (C₄H₄O₄)²⁻ + 17Hᵢ⁺ + O₂ ➡ NAD⁺ + (C₄H₂O₄)²⁻ + 16H𝑜⁺ + 2H₂O …(5)

  • ATPase = (4or5)ADP³⁻ + (4or5)Pi⁻ + 16H𝑜⁺ ➡ (4or5)ATP⁴⁻ + (4or5)H₂O + 16Hᵢ⁺ …(6) 

※Hᵢ:マトリックス内プロトン/H𝑜:〃外(膜管腔)プロトン
--Box 1--

従って、電子伝達系および複合体IVの2経路で水が生成される。必要な4個の電子が(複合体I および/または 複合体IIを経て)電子伝達系に入る仕組みは兎も角、複合体IVは常に2分子の水を生成する。

Box1の混合型電子伝達スキームでは、[酸素1分子の還元ごとに]マトリックスでプロトン1つが消費され、複合体IVで4か5分子の水/ATPが生成される。
複合体IVの反応(式(4))に関する限り、2H⁺/2eが引用される新コンセンサスに留意が必要である。また、その後のコンセンサスでは、複合体Vの(3or4)H⁺/ATPに進化したようで、これで4電子混合スキームによる(4or5)ATP生成を説明する。

複合体Vの完全な回転には12個のプロトンが必要となる(これは最近1回転あたりプロトン9-10個へと微調整された。エネルギー効率の計算問題に対処する為に)。オリジナルのMitchell-Boyer説に合致する耽美モデルとして、複合体IVの4H⁺/2eスキーム、複合体Vの4H⁺/ATPスキームという既成の見解を図1に表した。複合体IとIIIが4H⁺/2eでポンプ駆動するなら、複合体IVにできない理由はない。更に、4H⁺/ATPの化学量論性は、120°刻みに360°回転するF₁モジュールの三量体的性質や、F𝑜モジュールの12種類のc-サブユニットに適合する。

更に、当初の研究者らは、プロトン4~5個の膜貫通運動とATP1分子の合成との相関を報告していた。そして阻害剤が示す3つの「ATP合成部位」も図1の理論化学を裏付けている。

従って、以降は主に図1の化学量論をテーマとする。図1の通りに反応が純粋に複合体Iを起点に電子伝達系を介する場合、マトリックス内でプロトン2個を消費し、複合体Vで6分子の水/ATPを生成する。一方、仮に電子伝達系が純粋に複合体IIの入力に依存する場合、内部でプロトンの消費はなく、複合体Vは4分子の水/ATPを生成する。

この通り、電子伝達系と複合体Vとの間には
・(複合体I/III/IVを介する)プロトンポンプ輸送
・(複合体Vを介する)逆輸送
これ以外の物理化学的関係性は皆無である。では仮に4個の電子が2個ずつ複合体IとIIを通じて侵入するとすれば、スキームの混合により複合体Vで水とATPが5分子ずつ生成されることになる

RCPE版酸化的リン酸化の電気化学メカノエナジェティクス

化学では、NADH⁺/コハク酸分子のセットが内側に電子4個とプロトン3個を与え、ミトコンドリア内膜を介して膜管腔へと~20個のプロトンを一方向に流入させるとされる。前述の通り、プロトン3~5個の内向き移動はATP1分子の合成と相関関係にあるとされる

実験では、適切なカップリングの系では、酸素1分子の還元により、基質酸化に応じてATP2~6分子が生成されると分かった。コハク酸2分子が基質の場合はATP2~4分子が、NADH2分子の場合はATP4~6分子が得られる。

通常の細胞条件(...と結合エネルギー計算)では、NAD⁺/NADHからO₂/H₂Oへの2電子輸送の自由エネルギー変化項は約-220kJmol⁻¹であり、フマル酸/コハク酸からO₂/H₂Oの場合は約-150kJmol⁻¹である。プロトンが荷電体である以上、その運動にはプロトン濃度差の他に、電場の存在も重要な役割を果たすと考えられている。

Mitchellの主張通りに、電場は主に膜間の電荷差に起因し、これは内膜の高い抵抗(10⁷~10⁹Ωcm²)が維持するものとされている。こうした力と機構がATP合成の駆動力を生むとされる。ここに、関連のエネルギー/力の項を計算する(Box2に示す)理論式が採用されている。

--Box 2--

$${\mathrm{ΔG° = ΔG° + 2.3 RT log [(C_{ADP}C_{Pi}C_{H⁺})/(C_{ATP})]}}$$
$${\mathrm{Δμ_{H^+} = –FΔΨ + 2.3 RT (pH_P – pH_N)}}$$
$${\mathrm{[pmf = ΔΨ – 59 (pH_P – pH_N)]}}$$

--Box 2--

この式に於けるΔG°は標準ギブス自由エネルギー変化、ΔG°は(生物学的条件の)生物学的標準ギブス自由エネルギー変化、$${\mathrm{C}_{ADP},\mathrm{C}_{Pi},\mathrm{C}_{H^+},\mathrm{C_{ATP}}}$$は(添字の)反応物の実際の濃度、Rはモル気体定数(8.314Jmol⁻¹K⁻¹)、Fはファラデー定数(96485C/mol⁻¹)、Tはケルビン単位の温度、「P」と「N」はそれぞれカップリング膜の正/負の荷電部位、ΔμH⁺はJmol⁻¹に於ける膜間の電気化学的プロトン勾配を指す。プロトン駆動力=ΔμH⁺/FおよびΔΨ(膜間電気的勾配)はいずれもmV単位である。

生物学的条件では、ATP合成の標準自由エネルギー変化はおよそ+30から+40 kJmol⁻¹の範囲である。Rosing & Slater[31]は+33.5 kJ mol⁻¹を、一方のMilo  & Phillips[32]は標準条件で+35~+38 kJ mol⁻¹を引用している。そこで+35 kJ mol⁻¹がコンセンサスとなっている。

ATP加水分解/合成のエネルギー項はpH, Mg²⁺, 反応物および生成物の濃度に依存する。加水分解のエネルギー項は、ATP濃度が上昇すると数値的により負の値となり、ADP/Pi濃度が上昇すると負でなくなる。

化学的浸透圧仮説では、プロトンの膜間輸送には単位当たり約22 kJ mol⁻¹のエネルギー消費を伴う為、この消費エネルギーはプロトンが自らマトリックスに戻って来る際にリサイクルされると仮定する。この仮説では、プロトンの上下移動でATP合成が十分に起こり得るという。1分子のATP合成につき凡そプロトン4個が関与する想定の為、88kJmol⁻¹のポテンシャルエネルギーが「再利用」可能となり、これは合成エネルギー項~35kJmol⁻¹より高い。

但し、(実際のATP合成段階に於ける)エネルギー消費は、複合体Vの活性部位内部で生じたATP分子の放出のみに必要とされる。Mitchellの説では、電気的およびプロトン-浸透圧電位差の合計は、(マトリックスがマイナスの場合)ミトコンドリア内膜間で約+180~+200 mV付近ないし超過する可能性があり、これはATP合成の駆動力になるだろう。

また、「代謝阻害剤」の効果から明らかな通り、電子伝達系に「沿って」ATP合成「部位」が最低3つ存在する。この発見は、「複合体I(ロテノンで阻害)、複合体III(アンチマイシンA)、複合体IV(シアン化物)がそれぞれ電子対を受け取る度にプロトン4個を汲みだす」という解釈の裏付けだと考えられている(図2)。

図2. (主要段階に於ける古典的代謝阻害剤(下線強調)と共に)入力と消費のエネルギー項、並びに電子伝達系の明確な「エネルギー窓」
ATP:アデノシン三リン酸
CoQ:コエンザイムQ
NADH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド

RCPE仮説の作業論理まとめ

(図1, 図2, Box1の)RCPEスキームでは、化学的浸透圧原理を擁護したいが為に、プロトンと電子の時空間的分離(顕著な距離/時間、別々の巨視的位相を超えて)が起こる。膜タンパク質の構造変化がその(燃料分子の酸化で得た電子による)還元で起こる為、これがプロトンポンプやATP合成を支える主な理由となる。更に、膜ベースの電子回路やプロトン運動モーターは、高度に同期した別々のモジュールとして機能するとされる。

このスキームでは、拡散性活性酸素種(DROS)は有害で不要な副産物となる。図3に示す通り、一般的なRCPEパラダイムは、エネルギー的には自動車の機能的要素、その(電子伝達系+プロトンポンプ除く)構造要素は水力発電所(ダム)に譬えることができる。

図3. 酸化的リン酸化のRCPE仮説に関する機能性の類推を図解表現
(いずれも、実際の部品/要素は通常フォント、類推部分はイタリック表記)
ATP:アデノシン三リン酸; ETC:電子伝達系; IMS:膜管腔; IPLM:リン脂質内膜; mOxPhos:ミトコンドリア酸化的リン酸化; NADH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド

左側の類推図では、プロトンは水力発電所(ダム)に於ける水の役割との類似点を見出せる。そこでは、複合体Vは水力タービンに似ていると言える(この比較には電子伝達系やプロトンポンプの構造的類似体が欠けている)。

右側の類推図には、電気化学的エネルギーの利用/補足、その化学機械的仕事への利用が描写されている。ミトコンドリアの化学的浸透圧モデルを自動車のような人工の機械に譬えると、以下の機能的モジュール構造の実体が求められる。

  1. バイオエンジン
    (電子伝達系:NADHを燃焼させて作業用エネルギーを生成し、複雑で連続的、区画化された「有機的」回路全体に渡って電子供与/受容の酸化還元対の荷電差を維持)

  2. バイオダイナモ
    (プロトンポンプ:内膜間にプロトン-電気化学的勾配を生成)

  3. バイオバッテリー
    (ATP合成酵素:化学的仕事の遂行能を備えるエネルギー通貨を周期的合成する力学-エネルギー変換器として機能)

  4. バイオセンサー、バイオレギュレーター/ペースメーカー
    (化学的浸透圧:プロトン濃度, 電子輸送を自己分析・制御、電場の補足等の後、プロトン駆動力に基づく分子モーターの運動/同期を制御)

RCPE仮説の様々な側面に関する批判的分析

本稿では、支配的パラダイムに対して率直かつ批判的攻撃を展開する。これは科学の進歩に不可欠であり、この分野に求められる合理的な説明を早急に得る為にも必要と考える。

プロトンポンプと化学的浸透圧原則

Mitchellの説に対する定量的反論は最近出版の論文で既に述べている[24]。以下はその論拠の要約である。

  1. 最重要の事実は、ミトコンドリアマトリックスには、「外向き」のポンプ活動に十分なプロトンが存在しないことである。精々指で数えられる程度(生理的pHで10¹未満)であり、一方の膜貫通型のタンパク質複合体(プロトンポンプ?)の数は10⁴~10⁵個である。化学的浸透圧説では、酸素1分子の還元にプロトン24個(NADHが燃料の場合はCoQH₂/水の形成で更に+2個)のポンプ排出を要求する以上、この量的不一致は解消されることはない。この説がTMPの構築に「閉鎖系」の視点を求める一方で、イオン緩衝や「膜貫通型プロトンホッピング」がプロトン補充に貢献するという説明は矛盾している。水のO-H結合の解離やNADH由来プロトンも供給源になり得ない。ごく僅かなプロトンの差で高い膜貫通電位が生じることが理論的に確認されようと、その電荷密度は各ミトコンドリアにある多数の複合体Vを駆動するには足りない。従って、こんな化学的浸透圧原則或いはミトコンドリア機構では、初期状態から起動・作動し得ない

  2. 仮に(予期せぬ"分子的承認"で)十分量のプロトンが確認されようと、数千もの分子ポンプの機能の同期が不可能である以上、定常状態でシステムは機能し得ない。仮に顕著なTMP生成の為にポンプ活動を同期させる不可解な分子的制御があろうと、その電位は連続的であり、高度に散逸的なミトコンドリアシステムではこれを汲み取ることはできない。タンパク質がコンフォメーション変化の「活性-弛緩」サイクルを経るには、時間的にずれた電位の発現と消失が必要となる。複合体Vがプロトンやプロトン駆動力/TMP単独で駆動するとしても、システムの「一方向性」は説明できない。プロトンダイナミクスの観点からすると、化学的浸透圧説は、ミトコンドリアマトリックスが(プロトンポンプ作動に)必要なx個のプロトンと、(プロトン駆動力/TMP構築に)必要な~0.00x個のプロトンを同時に保持するというあり得ない前提を要求している。従ってこのシステムは単なる「想像上の機械」に過ぎず、定常状態で機能し得ない。

  3. この説は同一モダリティの散逸的な力/エネルギーの再利用を仮定しており、これは熱力学の基本法則への違反である。即ち、閉鎖系に於いて、同一の膜を往復するプロトンは有用な仕事をする実行可能な機械になり得ない。

  4. この説の支持者は、酸化的リン酸化では、NADHとコハク酸からはそれぞれ1分子あたり僅かATP2.5分子と1.5分子しか得られないと主張する(所謂P/O値)[33]。これは、細胞代謝に明らかにより高い効率が要求される状況である[24]。更に、1940年代以降の著名な研究グループ[34]から(NADHとコハク酸それぞれ1分子あたりATP3.5分子と2.2分子という)顕著に高い収量が一貫して報告されている事実があり、これは直近数十年でも強調されている[34,35]。

  5. 更に、単純かつ非モジュール的なミトコンドリア構造並びに膜タンパク質のランダム分布(...と、タンパク質自体の構造)は、プロトンポンプ/化学的浸透圧ベースのTMP蓄積の実現可能性を支持しない。端的に、膜/F₁サブユニット内でF𝑜モジュール回転用のトルクを僅かなプロトン輸送で生み出せる可能性は極めて低い。この文脈に於いて、数千ものプロトンで回転を生むとされる(全く異なる分子集合体の)鞭毛モーターと比較するのは不適切である。

  6. 表1は複合体IやIIを介する2電子入力の編集である。仮にプロトンポンプが機能すれば、NADH1分子の酸化につき、複合体I, III, IVはそれぞれ(合計僅か9つのプロトンのうち)最大3, 1, 5個をポンプ可能となる。これに関するRCPE仮説のコンセンサスは4, 4/2, 2/4である。この量的格差は即ち、教科書的説明は徹底した調査や検証に晒されていないことを意味する。また、完全にプロトンを数え間違えている(当初の説明では、複合体I, III, IVそれぞれからプロトン4個が排出される想定であり、つまりNADHから2電子が電子伝達系を横断する度に合計12個のプロトンが排出される)。以前はこの12個のプロトンがATP3分子を生む複合体Vの1回転分に全て必要とされ、これはcドラムが12のサブユニットで構成される点で一定の構造的妥当性があった。だがこの仮定は(4の指摘通り)「権威あるコンセンサス」で都合よくプロトン10個(複合体Vの120°分の回転やATP1分子の合成に僅かプロトン3個)へと変更された。10個への変更の為に最初のコンセンサスでは、複合体IIIが僅か2個を、複合体IとIVがそれぞれ4個ずつプロトンを押し出すことになった。その後、複合体IとIIIが4個、複合体IVが僅か2個へと都合よく変更されたのである。

  まとめ

以上の批判的分析は(pH計算と測定が効率よく可能な)原核生物という盛んに研究されたシステムから決定的な支持を得ている[24]。これら(大腸菌パラダイムのような)細胞系では、内部pHがケモスタット化 連続培養のシステム化されており、ペリプラズムのpHは外部環境と平衡化する。プロトンの数とpH勾配を考慮すると、プロトンポンプに基づく化学的浸透圧説は(真核生物のミトコンドリアと同様に)同じ解消できない矛盾が生じる。

細胞質pHが~7.5の大腸菌は御存知、腸内でpH=9の環境でも生存・増殖する。明らかにプロトンポンプスキームによるATP合成など不可能であり、先述のシナリオなら細菌は死滅せねばならない!また、RCPEが、プロトンポンプの作動にマトリックス内の豊富なプロトンを要求すると同時に、(定常状態の条件のような)pH勾配の形成には内部プロトンを存在させない点は受け入れ難い。仮にごく僅かなプロトン濃度の変化が起ころうと、これではミトコンドリアや細胞生理を説明することはできない。最後に、ミトコンドリアの構造や関連タンパク質の構造/分布からは、プロトンポンプやその駆動力/TMPを自然利用する如何なるメカニズムも支持されない。

電子伝達系

電子伝達系の各要素をまず検討した後、系全体の作業可能性の総合評価を行う。

  複合体I (or細菌のNADHデヒドロゲナーゼ)

複合体Iは、大きな膜貫通アンカー領域とマトリックス側への突起を持ち、1つのフラビンと9つのFe-S中心を含む巨大な多タンパク質複合体である[36]。図4と表2は、複合体Iの全体構造、電子伝達系スキームとプロトンポンプの模式図を表す。

Top: a schematic representation of the existent ETC route and proton-pumping sites within Complex I. Clearly, the purported proton-pumping region and intra-molecular Fe-S ET have little connectivity. Bottom: the expected structure for a respiratory complex that could have potentially abided by the RCPE system. The prevailing ETC seeks a smaller matrix-ward projection (with a direct transfer of two electrons from the source to the membrane portion, without intervening solvent-accessible cavities), the burial of redox centers within TM region and specific relay of membrane-soluble redox relay agents. Then, such a series could have served as a kind of electron relay which could aid interspersed proton-pumping along the ET route. CoQ, coenzyme Q; ET, electron transfer; ETC, electron transport chain; FMN, flavin mononucleotide; IMS, inter-membrane space; IPLM, inner phospholipid membrane; mOxPhos, mitochondrial oxidative phosphorylation; NADH, nicotinamide adenine dinucleotide.

酸化還元中心のN5およびN6bは、高度に最適化した「還元」条件でも酸化状態を維持すると判明した[37]。どちらも比較的「不利な」段階(表2)に挟まれている為と思われる。また、Fe-S中心のN4には、哺乳類系と原核生物系双方に於いて溶媒を通じて容易にアクセスできる[25]。更に2つのFe-Sクラスター(N1aとN7)は想定上の「配線された」電子伝達経路上に位置していない[36]。特に重要なのは、想定上の電子伝達経路とプロトンポンプの座は高度に分断されていることだ。そして表2の通り、仮説上の経路には複数の段階で不利な勾配/距離が存在する。表1より、このタンパク質に帰属されるプロトンポンプはエネルギー的に実現不可能と推測される[36]。

  複合体II

複合体Iと同様、複合体IIも単一のフラビンを持つ多量体タンパク質であり、ヘム鉄もあるが、Fe-Sクラスターは僅か3つしかない。ヘム鉄は膜貫通領域内に位置し、電子伝達経路の一部とは見做されていない[42]。この複合体内部の電子伝達の分析を表3に記す。

見ての通り、電子輸送の段階3の確率は低い。一部の研究者曰く、この複合体には2つのCoQ結合部位があり、従ってQサイクルにも関与する可能性がある[43]。研究者らは複合体Iiが膜貫通プロトンポンプとして機能し得ない理由を2つ挙げている。

(1)複合体IIは比較的小型のタンパク質複合体であり、リン脂質膜を全体的に貫通しているわけではない
(2)この領域内のドナー-アクセプター間の電位勾配が、膜貫通プロトンポンプの遂行には小さすぎる

プロトンポンプが他の複合体にできて、この複合体だけにできない理由は不明である。

  複合体IIIとQサイクル

図5に示す通り、複合体IIIでのCoQの循環スキーム(Qサイクル,CoQは、複合体I経由のNADH由来, 複合体II経由のコハク酸由来の電子等価物との回路接合部を形成(図2))は、RCPE仮説に欠かせない要素である[46,47]。

The various steps and circuitry of Q-cycle transpiring at Complex III. The two CoQ-binding sites are marked in square boxes and the Cyt. c-binding site is marked by ellipse. The x and y prefixes for CoQ and Cyt. c connote two different molecules (not numbers). CoQ, coenzyme Q; Cyt. c, IMS, inter-membrane space; IPLM, inner phospholipid membrane.

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