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【SS小説】夢からのメッセージ


中学生の頃、「書字委員会」という同好会を立ち上げようとした。
結局はメンバーが集まらなくて、私にそんなことはできなかったけど。



私は、小さい頃から引っ込み思案で、事なかれ主義だった。
みんなが言うなら黒も白だし、それはいけないことだと分かりながらも、白と答える弱虫だった。


小1の頃からずっと同じクラスに、「数馬」と言う男子がいた。

みんな一回は全員と違うクラスになるのに、中3までずっと一緒。
時には数馬を含めた男子にからかわれていじめられることもあったけど、数馬は口では悪口を言うけど、実際には手を出したりボールをぶつけてくることはなかった。

中3まで一緒だと、変なからかわれ方もしたけど、特別なことは何もない。


ある、夏休み前の昼休み。

「アレ、数馬、ボタン取れてるぞ」

男子のグループから、声が上がった。

「いっけね、さっき引っかかったんだ」
「裁縫道具持ってるか?」
「おー、ここにあるは……ず、だけど。白い糸切らしてたんだった……」

なんてことない会話だった。

「まぁここならバレんでしょ!」
「そっか? 今日の帰り指導でチェックあるぞ」
「それよりバスケしようぜ!」
「そうこなくっちゃっな!!」


男子のグループはいなくなった。

私は、手持ちのティッシュに裁縫箱の中から30cmくらい、白い糸を出して切り取り、包んだ。
ティッシュの表に、小さく「糸→」と書いて、数馬の机に置いた。



ふと、そんな夢を見たんだ。



目が覚める。
スマホのアラームが鳴っている。
出勤前の準備の時間だ。

朝ごはんを体に流し込み、洗顔後の軽いメイクをして、オフィス用のブラウスに着替える。

アレから13年、彼氏もいなければ、仕事もイマイチ。
なんとなく大学を出て就職し、「仕事がザツ」といびられ、目の下には強くクマが刻まれている。

どこにだって似たような人はいるんだろう。
そんなことを思い、今日も出社する。



あの朝も私は、数馬に、会いたかった。



夜、寝た時に思った。

また数馬の夢が見たい。

あの時の、その続きーーー。



夏休み明け、移動教室で理科室に行った。


先に私の席に、何かが置かれていた。

一冊の黄色い表紙のブックファイルと、小さな包み。

なんだろう、と小さな包みから見てみる。
見覚えのある「糸→」という字が外にある。

中を出すと、小さいマッチ棒が1本、入っていた。
ティッシュの中面に「←マッチ」と、書かれている。


ブックファイルの中身は検討がつかなかった。
でも、開いて私の頬は、ほうっと温かくなった。


書字委員会(同好会)のメンバーを募集しています。
書字委員会発起人:進藤 夏芽

参加してくれる人の名前
[おれ かーちゃん とーちゃん ゆあ シロ ばーちゃん
 じーちゃん となりのかえで 真司 桃矢 勇気 蒔絵]
これで同好会発足だな!


「おれ」って……。

数馬の方を見ると、にやっと笑っていた。

私も気づいたら笑顔になっていて、恥ずかしくなってファイルで顔を隠した。


その日の放課後に、真司くんと桃矢くんと勇気くん、蒔絵ちゃんが席に来てくれて、散々数馬の「おれ」をいじってから、書字委員会を発足させた。


「お前さー、ここ名前ちゃんと書かないと行けないじゃん!」
「うるせー!! お前らだって下の名前だけじゃん!」
「いやだって、じーちゃん、ばーちゃんって、これどう見ても正式な書類として認めらんねーよ」


そんな夏の思い出。



続けて見れた夢に、ハッとした。



そうだ、私は「ノートをとる字をきれいにしたい」と思って、書字委員会を立ち上げたんだった。

そのあと結局、活動が認められなくて書字委員会を正式な同好会にはできなかったけど、この5人とはノートを見せ合いっこしながら勉強して、高校受験に成功したんだった。
メンバーは集まっていたし、私はノートも勉強も、丁寧にする人だった。


仕事に向かう私は、目の下のクマをコンシーラーで丁寧に隠して、今日はチークもちゃんと入れた。
カサカサの唇にリップクリームを塗って揉んでから、口紅を差す。


それから仕事は丁寧にやるようになった。
相変わらず御局様にいびられるけど、ちゃんと手書きの字はきれいに書いて、書類も見やすいように作るように心がけた。


そのうち「進藤さんは仕事が丁寧ですね」と褒められるほどになった。

会社のことも悪くないと思えたし、仕事が少しだけ好きになった。



数馬は、高校に進学した春に、交通事故で呆気なく死んでしまった。
私たちはそれぞれの高校の制服に身を包んだまま、お葬式に向かったのだ。


そうだよ。
数馬に誓ったんだった。

「私は丁寧に生きるよ」って。
「あなたの分も、頑張る」って。誓ったんだ。




「進藤さん、今日飲み会あるんだけど、行く?」
「同席していいなら、今日は空いています!」
「今日は得意先の同期の人も来るんだって。
 えっと、柿田 桃矢ってエンジニアさんと、斎藤 真司って営業職の。
 なんか、『もし進藤って2017年入社の社員がいたら、誘って欲しい』って言っていたわよ」

先輩が見ている名刺には、桃矢くんと真司くんの顔写真が入っている。
間違いない。


「嬉しそうね。最近仕事も頑張っているし」


「はい! 約束していたことを、思い出したので!」

「? そう、楽しいのなら、なによりじゃないの」
先輩は、ニヤッといたずらっぽく笑って言った。

その笑顔が、赤の他人の誰かさんと、似ていた。


「私、頑張るって、誓った人がいるんです!!」




【夢からのメッセージ】 Fin.

このお話はフィクションです。

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