「ゲーム障害」に悩む世界中の人々を救うサービスを、東北から
MiTOHOKU 3期採択クリエーター紹介。最終回となる今回は、ネット依存・ゲーム障害の課題解決に取り組む「レックスチェック」のお2人、ケンダルさんとハンスさんです。スウェーデン出身の2人は日本での法人設立を目指し、2025年に日本に移り住みました。なぜMiTOHOKU Programに応募し、日本で事業を始めようと思ったのかお話を伺いました。
東北大学留学をきっかけに日本の「ゲーム障害」の課題を知る
「レックスチェック」の発案者、ケンダルさんが日本に興味を持ったきっかけは、スタジオジブリの映画でした。そこから日本文化に関心を抱くようになり、高校生の時に友人から「一緒に日本語を勉強しないか」と誘われたことをきっかけに日本語の勉強を始めました。

その後、学際的な教育が特徴のリンショーピング大学に進学しました。大学では、経営工学を主専攻(メジャー)、日本語を副専攻(マイナー)として学びました。ケンダルさんの日本への興味はさらにふくらみ、2023年、大学3年生の時に日本への留学を考えました。スウェーデンは自然豊かな国。仙台や東北大学のキャンパスも自然豊かな場所にあり、東北大学への留学を決めました」と語ります。
ケンダルさんは日本に留学中、子どもたちの「ゲーム障害」が深刻な課題になっていることを知りました。実はケンダルさん自身も高校時代、インターネットやゲームに没頭し、引きこもり状態を経験しています。当時は学校に行けず、孤独な時間を過ごしていたそうです。留学前にも、スマホ依存を解決するために起業することを考えていたほどでした。
調べていくとスウェーデンよりも日本の方が問題は深刻で、ゲームやスマートフォンの使いすぎが学業や人間関係に悪影響を及ぼし、引きこもりにつながるケースもあることを知りました。ゲーム依存は単なる個人の問題にとどまらず、社会全体に影響を及ぼす問題だと実感しました。ケンダルさんは「まず日本の子どもたちのゲーム障害を解決し、そこから世界に広げたい」という思いを抱くようになりました。
そしてケンダルさんは留学生という立場ながら東北大学ビジネスアイデアコンテストに出場。さらに「ACADEMIA IN ACTION」という東北大学のビジネスコンテストでは大賞を受賞しました。

ビジネスコンテスト出場をきっかけに知り合ったメンターの方の紹介で、ケンダルさんは仙台市や病院関係者へのヒアリング、依存症治療を受けている病院の見学を進めます。なかでも、病院を見学した時に子どもがゲーム依存によって日常生活に支障をきたしている様子は、ケンダルさんに強い印象を残しました。
スウェーデンでチームを結成しアイデアを具現化
1年間の留学を経てスウェーデンに帰国したケンダルさんですが、引き続きゲーム障害の課題解決に取り組もうと構想を進めていました。そこで真っ先に相談したのが大学の先輩で同じサークルに所属していたハンスさん。お母さんが日本人でスウェーデン人と日本人のハーフ。日本で生まれ、京都大学にも留学した経験を持ちます。ケンダルさんが留学に行く前、「スマホ依存を解決するために一緒に起業しよう」と伝えていた先輩でした。

ハンスさんもまた、幼少期からSNSやゲームに没頭し、友人たちがゲーム依存によって引きこもる姿やSNSをきっかけとしたトラブルに巻き込まれることを目の当たりにしていました。また工学を専攻するエンジニアであり、ケンダルさんの構想を形にするスキルを持っていました。
ゲーム障害に苦しむ人々を支援したいという共通の課題意識を持つ2人。当初のアイデアはSNSやゲームの過度な利用を「制限する」アプリのようなものでした。しかし、日本でのヒアリングを踏まえると病気の治療が必要であるにもかかわらず、実際に治療を受けている人が少ない、「治療ギャップ」という課題があることに気づきました。
WHO(世界保健機関)が2019年にゲーム障害を病気として認識しているにもかかわらず、実際にゲーム障害の治療を受ける人は極めて少ないです。その背景には、親が子どもの依存を認めたがらないことや、治療までの道筋が長く複雑であることがあると考えました。
そこで2人は、AIと機械学習を活用し、早期にゲーム障害の兆候をチェックしスクリーニングを行う仕組みを開発するという方向にアイデアが発展していきました。
MiTOHOKU Programに応募したきっかけ
スウェーデンよりも日本で引きこもりやゲーム障害の問題がより深刻であることを実感していた2人は、日本での事業開始を構想していました。そんな中、ケンダルさんが入っていた仙台市の「TOHOKU STARTUP BIOTOPE」のSlackに「MiTOHOKU Program」の応募者募集の告知が流れてきました。2人はMiTOHOKU Programのホームページを見て、経験豊かなメンターや人的ネットワークに魅力を感じました。
また、過去の採択者同士のコミュニティや主催であるWasshoi Labの社風を見て、ゲーム障害に陥っている子どもたちとは逆の豊かな人間関係が育まれていることもプログラムに興味を持った1つの理由だと話します。

MiTOHOKU期間中、特に重視しているのが、現場でのヒアリングです。これまで医療機関や研究者からのフィードバックを中心にアイデアを検討してきましたが、今後は学校の先生や塾関係者、保護者、子どもなど、幅広い立場の人々の声を直接聞いていきたいと考えています。ネット・ゲーム障害の兆候を早期に捉え、本人や保護者、学校・医療関係者が適切な支援につながる環境を作ることを目指しています。
最終的には、ヒアリングで得た情報をもとにプロトタイプを柔軟に改善し、学校や家庭で使える形に実装化することを目指しています。また、スクリーニングだけでなく予防のためのサービスも視野に入れており、より早期に介入できる方法を検討しています。
日本から世界へプロダクトを広める
ケンダルさんは、日本だけでなく世界中のゲーム障害に悩む人々を助けたいという強い夢を抱いています。そのためには、持続可能なビジネスモデルを作り、課題解決を長期的に続けられる仕組みをつくることが重要だと考えています。
日本にルーツを持つハンスさんは、日本に深い愛着を持っていますが、海外から見ると日本の成長が鈍化しており、多くの日本人が日本の未来に希望を持てずにいることに悲しみを感じています。
ハンスさんは、「この状況を変えるために、自分たちの挑戦を通じて、少しでも日本に希望を取り戻したい」と語ります。また、2人は小中学校のころからスマートフォンに親しんできました。少し上の世代は子どものころからスマホに親しんだわけではありません。だからこそ、世代の変わり目である自分たちがこの課題に向き合うべきだと考えています。
こうした思いの中で、二人は、アメリカの非営利団体「Center for humaneTechnologyの「技術は人間のために働くべきだ」という理念に深く共感しています。ゲームという技術によって生まれた依存症の問題は、本来の技術のあり方ではありません。技術に振り回されるのではなく、技術を味方につけることで、人々の生活を豊かにする道を切り拓こうとしています。
ゲームやスマホが人を支配するのではなく、人が技術を活かせる未来。それを実現するための第一歩を、東北から踏み出します。

