川上未映子『乳と卵』に月曜から夜ふかしを重ねてしまった
※川上未映子さん『乳と卵』のネタバレを含みます。これから読む予定の方はご注意ください。※
定期的にやってくる、なんでもいいから本が読みたい期。
生活がてんやわんやで頭も心も忙しい時期のピークを少し過ぎたころ、日々なにもしてないな、という焦燥感が少し顔を出したときによく起こる感情。
そんなときは、なるべくでっかい書店を歩き回るに限る。でっかい書店にはそれだけ本がたくさんあるので、でっかければでっかいほどいい。
今年の本屋大賞も気になるな。ここに置いてあるこのミス全部読みたいな。ていうか文庫本の値段上がってない?ハードカバーの間違いでは?家で留守番している息子にも1冊買って帰ろう。
そこまで考えたところで、自分が1児の母であったことに思い至る。
週5で仕事もしているし、正直重いのを何冊も読む時間と精神の余裕はない。買ったところで積んで熟成させてしまいそう。でも本格ミステリも読みたいぞ・・・。
折衷案として、このミス受賞作でいちばん気になった1冊を手に取った。
せっかく来たしもう1冊、軽めの作品を読もうと思って歩いていると、目に入ってきた本の帯。
【一夜にして、現代日本文学の風景を変えた芥川賞受賞作】
手に取ってみると異様に軽い。センセーショナルな文章を読みたい気分だったし、このくらいなら休憩時間を使って数日で読めそうだし。本の重量と同じくらい軽い気持ちで川上未映子さん『乳と卵』も買ってみることにした。
最初の1文を読んで「うおっ」と面食らった。1つの文章なっがいなっがい。
30年ちょっと日本で生きてきて、日本語は句点が多過ぎず、読点までの1文は短いほど読みやすいものだと刷り込まれてきた。
ほぼ口語で、話し言葉をそのまま文字に起こしたような文体。しかしながら、あまりにもイメージ上の関西圏の人の話し言葉なもんだから、なぜか意味が分かる。
それだけではない。時折、ドキッとするほどがらりと文体と語彙が変わる。はじめましての作者さんだが、多分こっちが本来の文章なのだろうな、となんとなく察する。情景と心情が生々しく伝わってくる、他のどこかでは聞いたことのない言葉。今のわたしが出会いたかったものに出会えた気がして嬉しかった。
色々考えながらだったし、100ページ余りの短い物語でゴールが見えていたこともあり、時間的にはサクッと読み終えた。
謎に豊胸手術に固執する巻子と妹である主人公のやり取りに時折、巻子の娘、緑子の手記が挟まるような構成で物語が進む。
授乳をきっかけに黒ずんだ乳首と萎んだ乳房を若い頃のように戻したいと語る巻子に、娘として生まれたことを無かったことにしたいと言われているような気になってしまう、でも母には好きなようにしてほしい緑子。
母である巻子を言葉で傷付けてしまわないよう、筆談だけのコミュニケーションを選んだ緑子の葛藤。
同じシチュエーションを経験したわけでもないのに、共感してしまった。人の子として、もっと言うと母の娘として、自分の親に抱いたことのある感情に似ていると思った。終盤の卵のシーンは、気がついたらめちゃくちゃ眉間に皺を寄せながら読んでいた。
とまあ、真面目な感想はこのくらいにして。
関西人でないにもかかわらず、巻子の話し言葉を早々に克服できたのには理由がある。
月曜から夜ふかしに出ていた、
「肉はペラペラですか」
のお姉さんの声で脳内再生されたから。
容姿とか、連想される描写があったわけではない。なんか喋り方が似てる気がした、その1点のみで頭に浮かんできた。
一度そう考え出したらもう止まらない。巻子がいつ「肉はペラペラですか」と言い出すかワクワクしながら読んでしまった。
1つだけ明確にネタバレしますが、言いませんでした。
そんなこんなでなんだか巻子のキャラクターまでクセになってしまったので、続編の『夏物語』も読んでみようかなと思っています。
