貢献できる場所〜『アルプス席の母』読書感想文
最近になって私の心にググっときた言葉がある。
貢献。
貢献とは、
ある物事や社会のために役立つように尽力すること。
社会貢献とか、〇〇の発展に貢献するとか、スポーツなんかではチームに貢献する、みたいによく耳にする言葉だし意味は分かる。ただ、私が何かに貢献している、という考え方が私には無かった。私は私の出来ることで家庭や職場に貢献している、と、そんな風に言っても良いのかも知れない、その言い方はなんだかカッコ良いじゃないか、と。だから“貢献”という言葉が好きになったのだ。
アルプス席の母/早見 和真

まったく新しい高校野球小説が、開幕する。
秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?
補欠球児の青春を描いたデビュー作『ひゃくはち』から15年。主人公は選手から母親に変わっても、描かれるのは生きることの屈託と大いなる人生賛歌! かつて誰も読んだことのない著者渾身の高校野球小説が開幕する
確かに、先程も書いた通りスポーツの世界ではよく“チームに貢献する”という言い方をする。その場合に思い浮かぶのは例えば得点で競う競技ならば得点を入れてチームを勝利に導いた人や、逆に相手チームの得点場面でそれを阻止した人に対して使われている時だ。要するに試合に出てる人。もちろん試合に出ていなくても貢献は出来る。例えば箱根駅伝なんかでは試合に出ていない部員が走っているチームメイトに並走しながらドリンクを渡す場面がある。ああいうのは目に見える貢献だ。
スタート社の人気グループ、timeleszがオーディションで新メンバー5人を選んだ。Netflixで配信されていたそのオーディションを私は楽しみにしていた。新メンバーが一人ずつ発表されたその場で、最後に選ばれたメンバーが口にした貢献という言葉の使い方が何故かズシンと心に響いて私は泣いてしまった。
歌もダンスもどちらのスペックも高い彼がグループのメンバーに選ばれたことでグループそのものが彼が“貢献”出来る場所となり、グループに“貢献”したい、“貢献”出来ることが嬉しい、と語った。ソロの活動でももちろん貢献は出来る。だけどグループ活動でしか得られない貢献の仕方があり、喜びがあるのだろう。
その日から貢献するという事がずっと頭にあった。自分でいうのもあれだけど、私も家庭に、仕事に、貢献しているのだと初めて思えた。
本の話が出てこないじゃないかと思われたかも知れないが、本作にも貢献という言葉が出てくる。プレイヤーとしてではなく伝令として試合に登場した航太郎を見てカッコ良いと憧れた親子、その母親が言った。
こういう貢献の仕方もあるんだって
精神的支柱ったやつだ。試合に出てなくても得点を入れなくても、チームを鼓舞し昂めることの出来る存在。
自分以外の誰かの思いを背負えるところ。背負うことで、パフォーマンスを向上させられるところ
うん、確かにカッコ良い。
本当は女の子のお母さんになりたかった
から始まる本作。私は娘しかいないから逆に男の子のお母さんになりたかったとずっと思っていたし、本作を読んだ今もやっぱりそう思う。
アルプス席の母は大変だ。アルプス席じゃなくても母は大変だ。
「ずっとやってきた」という呪いの言葉に縛られて納得いかないことをやらなければいけなかったり、その「ずっとやってきた」を辞めてしまうのはもっと大変。人が集まればルールが出来、年数が経つと細かいルールが増えていく。ルールを守らない人は非難される。
母たちは日々そういうしがらみと戦っている。母たちは子どもたちが健全な人生を送れるよう、陰で貢献している。それはアルプス席であろうとなかろうと。高校野球を、母親側から描いているからこそ共感出来る。男の子のお母さんでも女の子のお母さんでも、お母さんじゃなくてもどこかしらに共通の悩みがある。
作者の早見さんは野球の有名校・桐蔭学園の野球部出身とのこと。妙にリアルな裏話はゴシップみたいで読んでいて楽しい。
本作は今年の本屋大賞ノミネート作。読後に元気をもらえる一冊でした。
