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M&P LEGAL NEWS ALERT #31:米国連邦最高裁がIEEPA関税を違法と判断 ~過去の関税還付の見通しと、代替発動された新関税(通商法122条)への実務対応~

2026年2月20日、米国連邦最高裁判所は、トランプ大統領が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠として発動した関税措置について、大統領に同法に基づく関税賦課権限はないとする重要な意見(Learning Resources Inc. v. Trump事件)を判示しました。

これを受け、トランプ大統領はIEEPAに基づく関税措置を終了させる大統領令を発令しました。しかし同時に、別の法的根拠(1974年通商法第122条)を用いて、新たな10%の追加関税(150日間)を即座に発動しており、米国向けビジネスを展開する日本企業にとっては、依然として不安定な通商環境が続いています。

本稿では、企業の皆様が直面する「過去に支払った関税は還付されるのか」「今後の対米輸出はどうなるのか」という実務的な懸念事項を中心に、本最高裁意見の影響と今後の対応策を解説します。


1. 本件の概要

今回の事案は、M&P LEGAL NEWS ALERT #29:米国IEEPA追加関税を巡る最新情勢と還付請求権保全の実務でも解説した通り、本来は安全保障上の脅威に対して経済制裁(資産凍結等)を行うことを目的とするIEEPAを、大統領が広範な「関税賦課」の根拠として利用したことが発端となっています。

・IEEPA関税の発動と問題の所在:トランプ大統領は、カナダ・中国・メキシコに対する「フェンタニル関税」や、その他の国々に対する「互恵的(reciprocal)関税」を課す法的根拠として、IEEPAに依拠しました。さらに、日本、韓国、マレーシアなどを含むさまざまな国との貿易交渉において、このIEEPAに基づく関税発動を交渉カードとして利用してきました。しかし、これを通商目的の関税引き上げの根拠とすることは、憲法が定めた議会の立法権(関税設定権)を侵害するものであるとの強い批判を集めていました。

これまでの訴訟の経緯:このIEEPA関税の適法性を巡っては、主に米国国際貿易裁判所(CIT)およびコロンビア特別区連邦地方裁判所の2箇所で法的異議申し立て(訴訟)が提起されていました。両裁判所はいずれも「IEEPAは大統領に関税を課す権限を付与していない(すなわち、IEEPAに基づく関税措置は違法である)」と判断しました。これに政府側が上訴した結果、これらの事件は連邦最高裁判所での最終的な司法判断に向けて併合されていました。今回の最高裁判決は、この一連の法的論争に対する最終的な結論となるものです。

2. 最高裁判決の法的要旨

最高裁の多数意見の中心的な判示は以下の通りです。

① 関税は「税金」である:税金を課す権限は、合衆国憲法第1条に基づき連邦議会に専属している。
② 大統領への権限委任の不在:議会はIEEPAを通じて、関税を課す権限を大統領に委任してはいない(=大統領の越権行為である)。
③ 管轄裁判所の明確化:関税率表(HTSUS)の変更を伴う関税措置への法的異議申し立ては、いかなる斬新な法理論に基づくものであっても、CITが専属管轄権を有する。

一方、カバノー判事ら3名による反対意見では、「大統領は依拠する法律を間違えただけであり、他の連邦法(通商法等)を用いれば同様の関税措置を正当化できたはずだ」と指摘されており、これが実際に上述の「第122条」の即時発動へと繋がっています。

3. 過去に支払ったIEEPA関税は還付されるか?

最高裁判決によりIEEPA関税の違法性が確定したことで、企業が過去に支払った莫大な関税が還付される可能性が高まりました。しかし、本判決では還付の可否や具体的なプロセスについては直接言及されておらず、以下の点に留意が必要です。

還付の実現可能性:本件の専属管轄権を有するCITにおいて、司法省は過去の審理で「(最高裁で違憲判決が出た場合)政府は還付を支払う」と合意しており、CITも「政府が還付の可否に関する立場を覆すことは禁反言(エストッペル)により許されない」との見解を示しています。一方、トランプ大統領は、判決後の記者会見において、「おそらく今後何年か法廷で争うことになるだろう」と述べ、直ちに還付されない可能性があります。

不透明なプロセス:CITは、事後に再清算を命じて関税を還付させる法的権限を有しているとしています。しかし、個別の訴訟手続や裁判所命令に依らず、行政手続のみで自動的に還付が行われるのか、その具体的な枠組みやスケジュールは現時点では未定です。実際に還付金を受領するまでには、相応の時間を要することが見込まれます。

4. 新たな関税リスク:通商法第122条に基づく追加関税の発動

IEEPA関税が終了した一方で、トランプ大統領は直ちに別の通商法を活用した代替措置を講じました。企業のサプライチェーンに直結する重要なポイントは以下の通りです。

新関税の概要(第122条に基づく発動):国際収支の不均衡是正を目的とする「通商法第122条」に基づき、2026年2月24日から同年7月24日までの150日間、米国に輸入されるすべての物品に対して10%の関税を課す大統領令が発令されました。また、トランプ大統領は21日、税率を「15%に上げる」と表明しました。

重要な適用除外:特定の重要鉱物、エネルギー・同関連製品、一部の農産物(牛肉など)、医薬品、および特定の車両(自動車関連)などは、新たな関税の適用対象外とされています。自社製品がこの除外リストに該当するかどうかの早急な確認が求められます。

延長の可否:第122条に基づく関税は、150日の経過により失効し、延長には議会の承認が必要です。中間選挙を11月に控える議会での承認が得られるかは不透明です。また、トランプ大統領が失効後に再度、第122条に基づく関税を課すことも考えられますが、同様の内容の関税を発動した場合、再び訴訟が提起される可能性があります。

その他の関税権限の行使リスク: 大統領には、第122条以外にも関税を発動し得る権限(第201条:セーフガード、第232条:国家安全保障、第301条:不公正貿易慣行など)が残されており、今後もこれらの法令に基づく突発的な関税措置が発動されるリスクが残っています。

5. 既存の通商協定への影響:日米関係への波及リスク

トランプ政権はこれまで、韓国、日本、マレーシアなどとの間で、IEEPAに基づく「関税の脅し」を交渉カードとしてさまざまな通商協定を締結、あるいはインドやベトナムとの間で協定の枠組みを構築してきました。 今回、その交渉の根底にあった「IEEPA関税の法的根拠」が最高裁によって完全に否定されたことで、日米間の通商関係にも予期せぬ波及効果をもたらす可能性があります。ただ、日本政府は既に第一弾の対米投融資案件を決定しており、その決定を履行する方針と報道されています。

6. 日本企業(米国子会社)に求められる今後の実務対応

以上の状況を踏まえ、米国ビジネスを展開する日本企業におかれては、以下の対応を速やかに進めることを推奨いたします。

(1)還付請求に向けた社内体制とデータの整備

還付の具体的な枠組みが発表された際に迅速に行動できるよう、米国子会社(輸入者)を通じて過去のIEEPA関税の支払実績(全通関データ)を精査し、還付対象となる概算額を把握しておくことが重要です。

(2)新関税(第122条)の適用有無とサプライチェーンへの影響評価

2月24日より適用される新たな10%関税について、自社製品が適用除外項目(特定の車両、医薬品等)に該当するかを確認し、原価計算や価格転嫁、今後の調達ルートの再評価を行う必要があります。

(3)最新の司法・行政・政治動向の継続的なモニタリング

ホワイトハウスの新たな大統領令の発令や、CITにおける還付手続の決定など、状況は日々目まぐるしく変化しています。加えて、11月の中間選挙や2028年大統領選挙によって、米国政府の方針は大きく変わり得ます。現地の動向をタイムリーに把握し、法務・事業部門間で連携する体制を構築してください。

7. 当事務所のサポート体制

当事務所では、米国法律事務所と密接に連携し、企業の皆様の還付権利の保全や、新たな米国通商法上の関税措置への実務対応を強力にサポートしております。本件に関しご不明な点や具体的な対応策のご相談がございましたら、当事務所の担当弁護士までお気軽にお問い合わせください。


Authors

弁護士 塩川 純子(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:1995年日本弁護士登録、2002年ニューヨーク州弁護士登録、2010年香港外国法弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2025年4月から現職。東京、ニューヨーク、ロンドンの主要金融拠点において国際法務のキャリアを研鑽し、現在は米国法務を含む広範なクロスボーダー取引に従事。また、金融機関、運用会社、富裕層ファミリー、事業会社を対象としたオフショア投資ファンドおよび信託のストラクチャリング、組成、管理維持に従事。複数法域にわたるファンド組成の実務経験と国際的な視点を活かし、日本の運用会社や投資家が直面する多様なファンド組成上の課題に対する実践的なソリューションを提供する。

弁護士 越 直美(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年日本弁護士登録、2010年ニューヨーク州弁護士登録、2021年カリフォルニア州弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年9月から現職。日本・ニューヨーク州・カリフォルニア州の弁護士として、日米間クロスボーダー取引を専門とし、法人設立、M&Aなどさまざまな分野で助言を行う。米国および日本の法学修士号(LL.M.)を有し、ニューヨークの法律事務所での勤務経験がある。米国の企業、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルおよびスタートアップをクライアントとし、日本におけるM&Aや米国企業の日本進出を専門とする。また、Miura & Partners U.S.とともに、日本企業の米国進出を支援する。

弁護士 湯浅 紀佳(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2003年日本弁護士登録、2011年ニューヨーク州弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2019年1月から現職。2004年に上海の復旦大学および東華大学に留学。その後、中国の大手渉外事務所に正式採用されて1年間勤務し、日本企業の対中投資案件のサポートにあたった。この中国上海での留学・執務経験および中国語能力、さらに米国留学後の香港での執務経験を活かして、一貫して中国・アジア業務を行ってきた。特に2013年から北京にて勤務していた際には、主に中国(香港・台湾を含む)における国際仲裁・訴訟、当局対応が需要な不祥事事件・経済犯罪、労使問題、国際刑事事件を含む多種多様な紛争法務を取り扱ってきた。

弁護士 渥美 雅之(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2009年日本弁護士登録、2016年ニューヨーク州弁護士登録、2017年英国弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2019年1月から現職。
国際的な紛争解決事案を多数担当している。専門分野の一つである独禁法関連の国際訴訟、調停等を数多く経験しているほか、米国・英国における弁護士資格を生かし、両国で盛んに提起されるクラスアクションに巻き込まれた日本企業を多数支援しており、証券訴訟、PL訴訟、環境訴訟などあらゆる分野における国際訴訟を経験してきている。Legal 500において、紛争解決分野のRecommended Lawyerに選ばれるなど、対外的にも高い評価を得ている。 

弁護士 田中 太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2013年日本弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2024年11月から現職。日本の大手法律事務所および国際連合(ジュネーブおよびニューヨーク)での執務経験を経て、現職。日本では、国際企業法務のほか、国内訴訟および国際仲裁をはじめとした国際紛争手続きにおいて国内外のクライアントを代理。フルブライト奨学生としてアメリカの法科大学院修了後、国際連合にて勤務し、ウクライナやミャンマーをはじめとした紛争下における国際人権法上のさまざまな問題に取り組む。国際刑事裁判所等において被害者を代理した経験を有する。現在は、ビジネスと人権、ESG/SDGs、D&Iのほか、国際仲裁等の国際紛争案件、アメリカ法務に関する業務を取り扱う。


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