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M&P LEGAL NEWS ALERT #29:米国IEEPA追加関税を巡る最新情勢と還付請求権保全の実務

トランプ前政権下において「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づき発動された関税措置について、現在、米国ではその適法性が連邦最高裁判所で争われる極めて重要な局面を迎えています。最高裁が関税を違法と判断した場合、企業が過去に支払った関税の還付を請求できる可能性がありますが、その権利保全に関して非常に重要な司法判断が、先週、米国国際貿易裁判所(CIT)で示されました。

本稿では、最新の司法判断を踏まえ、日本企業が米国子会社を通じて講じるべき法的対応について解説します。


1. 背景:IEEPA関税の適法性を巡る争点

今回の問題は、本来は経済制裁等を目的とするIEEPAを、大統領が「関税賦課」の根拠としたことが発端となっています。

・問題の所在:IEEPAは、安全保障上の脅威に対し資産凍結等を行う権限を大統領に付与するものですが、これを通商保護目的の関税引き上げの根拠とすることは、憲法が定める議会の立法権(関税設定権)を侵害し、議会が大統領に委任できる範囲を逸脱しているとの主張がされています。

・現状の訴訟の状況:連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)において、既に一部の関税を違法とする判決が下されており、現在は最高裁の最終的な司法判断が待たれている状況です。

2. 最新の司法判断:CITによる清算停止請求

2025年12月16日、CITは、輸入業者らが求めていた「関税清算(Liquidation)の停止を求める予備的差止請求」を棄却する決定を下しました。

原告側は、輸入品の清算が確定することで還付を受ける法的権利が損なわれると主張していましたが、CITは以下のとおり、現時点での差し止めは不要であると判示しました。

政府側の表明:米国政府は、最高裁でIEEPA関税が違法と判断された場合には、その判決を遵守し、CITが還付を命じる権限について争わないことを法廷で明言しています。

裁判所の回復権限:CITは、たとえ輸入品が清算済みであっても、事後に遡って再清算(Reliquidation)や還付を命じる法的権限を有していると明示しました。

行政手続:CITは、関税が課された清算済みの輸入品についての通常の行政不服申立ての位置づけについて疑義を示唆しました。

判断の意義:CITは、清算によって企業が「回復不能な損害」を被るリスクはないと判断しており、現時点で関税清算の停止を求める差止請求を提起する緊急性は低下したといえます。しかし、CITは、最終的に誰が還付を受けられるのか、また、原告以外の企業が還付を受けられるのかについて、言及していません。特に、CITが、清算済みの輸入品についての行政上の不服申立ての位置づけに疑義を示唆したことは注目されますが、これが直ちに原告以外の企業による還付請求の可否を確定づけるものかは、なお不透明さが残っています。

3. 日本企業(米国子会社)に求められる実務的対応

CITは清算後でも救済が可能と判示したものの、最高裁の判決までの間、還付請求権の失効を防ぐために、以下の実務上の対応をとることが重要となります。

(1)還付請求権の主体と原告適格

関税を実際に支払った「輸入者(Importer of Record)」である米国子会社のみが、還付請求を行うことができ、訴訟の原告になることができます。日本本社やOEM先は直接の当事者にならないため、米国子会社を通じた手続が必要となります。

(2)権利消滅時効のリスク管理

CITは、清算後であっても事後の救済(再清算や還付)が可能である旨を述べていますが、米国の関税実務上、清算確定から180日以内に異議申立て(Protest)を行わない場合、還付請求権が消滅するリスクがあると一般的に理解されてきました。特に、今回のようにIEEPAの下での大統領権限が争われている場合、米国税関当局(CBP)には判断権限がなく、CITも、通常の行政不服申立てはできないと示唆しました。

そこで、将来の還付プロセスにおいてこれらの手続がどの程度決定的な意味を有するかについては不透明な点があるものの、最高裁判決および政府の対応が確定するまでの間、PSC(Post-Summary Correction)やProtestを提出し、還付の意思を明確にしておくことは、実務上の一つの選択肢と考えられます。

(3)現時点で準備すべき事項

通関データの集計:通関業者から過去の全エントリーデータを取得し、IEEPA関税の支払額を正確に算定する必要があります。

グループ間契約の整備:還付金の帰属、訴訟費用の負担、および情報共有体制について、日本本社と米国子会社間で合意書を作成し、内部的なガバナンスを整えておくことが望ましいでしょう。

4. 当事務所のサポート体制

当事務所では、米国法律事務所と密接に連携し、企業の皆様の還付を受ける権利の保全を支援しております。

訴訟手続:今後、還付を受けるために必要となりうる訴訟または行政手続に関するアドバイス
行政手続:Protest等の提出業務のサポート
グループ間合意書の作成:最適なグループ間のスキームの構築
状況のアップデート:刻々と変化する状況を踏まえ、最新の情報と必要な対応を助言

最高裁の判決次第では、大規模な還付を求めることができる可能性があります。まずは、貴社における還付対象額の把握から着手されることをお勧めします。

今後、最高裁の判決を含め、本件に関する新たな動向が判明次第、随時情報のアップデートを行ってまいります。


Authors

弁護士 塩川 純子(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:1995年日本弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、2002年ニューヨーク州弁護士登録、2010年香港外国法弁護士登録。2025年4月から現職。東京、ニューヨーク、ロンドンの主要金融拠点において国際法務のキャリアを研鑽し、現在は米国法務を含む広範なクロスボーダー取引に従事。また、金融機関、運用会社、富裕層ファミリー、事業会社を対象としたオフショア投資ファンドおよび信託のストラクチャリング、組成、管理維持に従事。複数法域にわたるファンド組成の実務経験と国際的な視点を活かし、日本の運用会社や投資家が直面する多様なファンド組成上の課題に対する実践的なソリューションを提供する。

弁護士 越 直美(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年日本弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2010年ニューヨーク州弁護士登録、2021年カリフォルニア州弁護士登録。2020年9月から現職。日本・ニューヨーク州・カリフォルニア州の弁護士として、日米間クロスボーダー取引を専門とし、法人設立、M&Aなど様々な分野で助言を行う。米国および日本の法学修士号(LL.M.)を有し、ニューヨークの法律事務所での勤務経験がある。米国の企業、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルおよびスタートアップをクライアントとし、日本におけるM&Aや米国企業の日本進出を専門とする。また、Miura & Partners USとともに、日本企業の米国進出を支援する。

弁護士 湯浅 紀佳(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2003年日本弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2011年ニューヨーク州弁護士登録。2019年1月から現職。2004年に上海の復旦大学および東華大学に留学。その後、中国の大手渉外事務所に正式採用されて1年間勤務し、日本企業の対中投資案件のサポートにあたった。この中国上海での留学・執務経験および中国語能力、更に米国留学後の香港での執務経験を活かして、一貫して中国・アジア業務を行ってきた。特に2013年から北京にて勤務していた際には、主に中国(香港・台湾を含む)における国際仲裁・訴訟、当局対応が需要な不祥事事件・経済犯罪、労使問題、国際刑事事件を含む多種多様な紛争法務を取り扱ってきた。

弁護士 渥美 雅之(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2009年日本弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2016年ニューヨーク州弁護士登録、2017年英国弁護士登録。2019年1月から現職。国際的な紛争解決事案を多数担当している。専門分野の一つである独禁法関連の国際訴訟、調停等を数多く経験しているほか、米国・英国における弁護士資格を生かし、両国で盛んに提起されるクラスアクションに巻き込まれた日本企業を多数支援しており、証券訴訟、PL訴訟、環境訴訟などあらゆる分野における国際訴訟を経験してきている。Legal 500において、Antitrust and Competition: Independent local firms部門のNext Generation Partnersに選ばれるなど、対外的にも高い評価を得ている。

弁護士 田中 太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2013年日本弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。日本の大手法律事務所および国際連合(ジュネーブおよびニューヨーク)での執務経験を経て、2024年11月から現職。日本では、国際企業法務のほか、国内訴訟および国際仲裁をはじめとした国際紛争手続きにおいて国内外のクライアントを代理。フルブライト奨学生としてアメリカの法科大学院修了後、国際連合にて勤務し、ウクライナやミャンマーをはじめとした紛争下における国際人権法上の様々な問題に取り組む。国際刑事裁判所等において被害者を代理した経験を有する。現在は、ビジネスと人権、ESG/SDGs、D&Iのほか、国際仲裁等の国際紛争案件、アメリカ法務に関する業務を取り扱う。


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