おとしもの
⇩⇩⇩こちらの企画に参加させていただきます⇩⇩⇩
コッシーさん お世話になります。
よろしくお願いします。
①【おとしもの】にまつわるエッセイもしくは小説を作成してください。
②期間:7/16(木)~7/31(金)23:59※期間はあくまで目安です。過ぎても全く問題ありません
③【#チャレがや】を記事につけてください。※【#おとしもの】や【#みくまゆ会】などのハッシュタグをつけてくださると見つけやすいかもしれません。またこちらの記事を貼りつけていただけると助かります
④みくまゆ会メンバー以外の方でも気軽にご参加ください
交番に財布が届けられた。
黒い革の、ごくありふれた財布だった。現金もカードもそのまま。免許証も入っている。落とし主は七十八歳の男性。届けた若者は「駅前のベンチに落ちていました」とだけ言って去った。
事務的な手続きが済み、警察官が落とし主へ連絡する。
「財布が見つかりましたよ」
電話の向こうで、男はしばらく黙ったあと、小さく笑った。
「そうですか。ありがとうございます」
翌日、男は財布を受け取りに来た。
ところが、受け取った瞬間、男の表情が変わった。
財布を開き、中を何度も探る。
「ない……」
「何か入っていましたか?」
「紙切れです。レシートくらいの大きさの……」
現金もカードもそのままなのに、その紙だけが消えていた。
「大事なものだったんですか?」
「妻の字なんです」
二年前に亡くなった妻が、震える手で書いた最後の言葉。
あなたは、生きて。
たったそれだけ。
妻が亡くなり希望を失った男は、その紙を財布に入れ、死にたくなった日はそれを読んで過ごした。
「昨日も、川へ行ったんです」
男は静かに言った。
「でも、妻の字を見て思い留まったんです」
警察官は言葉を失った。
「変でしょう。紙切れ一枚が命綱だなんて」
三日後。
男の元に差出人のない封筒が届いた。
財布を見つけ中身を確認した時、この紙が風で飛びました。
追いかけて拾いました。
読むつもりはありませんでしたが、見てしまいました。
返せなくなりました。
私は死ぬつもりでした。
最後に財布を拾ったのは偶然です。
私にも向けられた言葉のように思えました。
何度も何度も読みました。
生きる希望をいただきました。
遅くなって申し訳ありません。
持ち主にお返しいたします。男は、その手紙を何度も読んだ。
「そうか……」
妻は自分だけを生かしたのではなかった。
名前も知らない誰かまで救ってしまったのだ。
男は紙を財布に戻した。
落とし物係の棚には、今日も傘や鍵や財布が並ぶ。
その中には、ときどき価値の量れない落とし物がある。
それは、持ち主すら気づいていない。
誰かの明日を支える、小さな命そのものかもしれない。
尾崎亜美 / 瞑想
