怨念
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コッシーさん お世話になります。
よろしくお願いします。
①【怨念】にまつわるエッセイもしくは小説を作成してください。
②期間:7/1(水)~7/15(水)23:59※期間はあくまで目安です。
③【#チャレがや】【#怨念】【#みくまゆ会】を記事につけてください。
④みくまゆ会メンバー以外の方でも気軽にご参加ください
恨みを抱くようなことをしたつもりはない。清く正しくとは言いにくいかもしれないが、過去の彼女と比べても何ら違和感のないお付き合いをしているつもりだったのに………。
ある日突然、彼女が豹変し言葉も態度も行動も、すべてが暴力的になった。原因やキッカケは思い浮かばない。でも、ただひたすら罵倒され、睨みつけられ、小突き回されるようになり、時には平手を喰らうこともある。
だけど、次の瞬間には、ぼろぼろと涙をこぼし、私が悪いとひたすら謝り続ける。
誰が見ても情緒不安定なのは間違いないだろうけれど、何かに憑りつかれているんじゃないかとも思えた。
だから、俺は知り合いの神主に頼んで祈祷をしてもらうことにした。
「そこな陰陽師、お前は何をしに来やった? まさかこやつとの間を引き裂こうとの魂胆かえ? じゃがそれは無理な相談というものじゃ。こやつとは古からの因縁があってのぉ、いずれ恨みを晴らさねばならぬのじゃ。それともお前が身代わりになるかえ?」
「美沙子、君は一体誰なんだ? それに俺は誰なんだよ」
「わらわが誰かなど知ってどうする? 名を知ったとて小僧には誰が誰やら分からぬだろうて」
「じゃあ俺は?」
「それとて、同じことじゃ。何せ千年ほども前の話じゃからな」
「千年も前?」
「そんなことよりこの娘がおかしくなったのは、こやつが浮気をした時からじゃぞ。それまでわらわはこの娘の幸せの中にどっぷり浸かり、うたた寝三昧の日々であったのじゃ」
「俺は浮気などしてない」
「ほかの娘と床を同じゅうしたじゃろうに」
「風俗のことか? あれは先輩に連れられて………」
「この娘にとっては、自分かそれ以外なのじゃ。その相手が誰であろうが、惚れた腫れたの間柄であろうが関係ない。自分に向けられてない視線が耐えられんのじゃ」
「それだけでこんなになるものか!」
美沙子はゆっくりとこちらを向いた。その瞳は彼女のものではない。
「ならばお前が何者かを教えてやろう」
神主が祝詞を奏上することもなく、美沙子の言葉を止めた。
「申してはなりません」
「なぜじゃ?」
「彼は耐えられない」
「知ることと耐えることは別じゃぞ」
「いいから教えてくれ!」
「……後悔するぞ」
「構わない!」
しばらく沈黙が流れた。
「千年前、お前は武人であった」
「武人……?」
「わらわは、お前に嫁いだ」
「嘘だ」
「戦に敗れ、お前は敵方へ寝返った」
「知らない!」
「その証として、お前は妻を差し出した」
胸がざわついた。
「わらわは生きたまま土蔵へ閉じ込められた」
「やめろ!」
「三日三晩、水もなく」
頭の奥で、女の悲鳴が響いた。
「やめろ!」
「四日目、お前は蔵の前まで来た」
「違う!」
──あなた。
──寒い。
──開けて。
──お願い。
「お前は開けなかった」
知らないはずの光景が次々に浮かぶ。
蔵。
縄。
錠前。
女の爪が板を掻く音。
そして振り返らず歩き去る男。
その背中。
……俺だった。
「違う……」
「違わぬ」
「だから申し上げたのです。前世の記憶など、人は耐えられません」
「なぜ今さら!」
「因縁は終わっておらぬからじゃ」
美沙子が笑った。
「ようやく巡り会えた。今度こそ、お前を苦しめるためにな」
頭の中で何かが弾けた。
……違う、違う、違う。
そこに映っていたのは千年前ではない。
マンションの一室。
割れたマグカップ。
泣いている美沙子。
震える私の手。
頬を打つ音。
「ごめんなさい!」
泣いているのは……美沙子ではなく私だった。
「違う……」
「思い出したか」
「違う!」
「お前はいつも忘れる」
美沙子の声が低く響く。
「殴っておいて、首を締めておいて、翌日には覚えておらぬ」
神主が私を見た。
「あなたは以前にも相談に来ています」
「え……?」
「三年前です」
「そんなはずは……」
「恋人が自分を怖がる理由が分からないと」
私は首を振った。
「初めてだ!」
「いいえ」
神主は古びた帳面を開いた。
そこには私の署名があった。
日付も、電話番号も。
「二年前にも、半年前にも、そして一週間前にも」
全部、私だった。
「毎回、同じことを言うのです」
「彼女が急に暴力的になった。何もしていないのに理由が分からないと」
神主は静かに告げた。
「ですが診断書には、彼女の肋骨骨折、左眼窩底骨折、頸部圧迫痕と記されています」
「嘘だ」
「では、鏡をご覧なさい」
神主に向けられた鏡には、私の姿が映っていた。
いや、私の肩には幾人もの女が折り重なるようにしがみついていた。
若い女。
老いた女。
着物姿の女。
血まみれの女。
そして、一番上で私の耳元に口を寄せる、土にまみれた女。
「ようやく、思い出したの」
それは、美沙子ではなく、千年前に蔵へ閉じ込めた女だった。
「彼女ではなく、あなたに憑いていたのですよ」
女は静かに笑った。
「こやつが何度生まれ変わろうとも、わらわを捨て続けたのじゃ。仕方なかろう」
美沙子は最初から壊れてなどいなかった。
壊れていたのは、私の記憶だったのだ。
アイナ・ジ・エンド / 死にたい夜にかぎって
