あざとい|片想い文芸部
事務所に残っているのは俺と彼女だけだった。
夏の日没は遅く、夕陽が彼女の横顔を照らしていた。
側にいられるのはこれが最後だと思うと切ない。
「清水さん、これまでありがとう」
机の上を整理しながら、横目で彼女を見ながら声を掛けた。
彼女は振り返って少しだけ困ったように笑った。
誰にでも優しくて、いつも気さくに話しかけてくれる彼女は、その態度に期待すること数度。その度に落胆させられた。
でも、そんな笑顔が俺は一番好きだった。
「こちらこそ、いろいろありがとう」
短くそう言うと彼女は荷物をまとめ始めた。
俺の言葉など彼女にとってはなにほどの意味もない。
それでもいいと思った。
どうにかしようなんて勇気は最初から持ち合わせていないのだから。
「来週からは別々の場所だね」
「転勤だから仕方ないけど、寂しくなる。もっと一緒にいたかったのにな」
本心かどうか、もう分からない。
彼女の言葉に何度も期待して勝手にトキめいて、結局は一人で空回りしてきた。
それでも、この片想いの時間は俺を支えてくれていたように思う。
「写真、撮ってもいい?」
「もちろん」
スマホを構える手が少し震えた。
これが最後の想い出になるのだろうな。
そう思うと激しい衝動が湧いてくるのを感じた。
シャッターを切った瞬間、彼女が俺に寄り添うように肩を並べてきた。
そして何気ない仕草で俺の腕を抱いた。
「そういうとこズルいずよね」
思わずこぼれた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
彼女は「ん?」と首を傾げて何も知らない風な顔で笑っていた。
その笑顔にどれだけ心を奪われてきたんだろう。
「なんでもない。元気でね」
「あなたもね」
それだけ言うと、彼女は軽く手を振って事務所を出ていった。
ドアの閉まる音が片想いの終わりを告げる。
追い掛けるか?
どうせ……………同じだろ。
そう分かっていたから足は動かなかった。
俺は窓辺に立って、西日に顔を向けた。
今日までの想いを、全部消すように深く息を吐き出す。
淋しくはなるけど後悔はしていない。
彼女を好きになれたことだけは本当に良かったと思っている。
でも……………。
でもね……………。
あの優しさも、無防備な笑顔も、誰にでも同じように向ける仕草も――
あまりにも、あざとい。
ナルさま 今回もお世話になります
よろしくお願いします
Zach Bryan / River Washed Hair
