重なり|風まかせ文芸部
春の朝、街路に立つと、霞んだ光の中に桜が咲き誇り、ビルの谷間に花びらが静かに舞い落ちる。
人々はせわしなく行き交うが、花の香に誘われて立ち止まる人もいる。
小川のせせらぎもまた光と影を重ね、湿った土の香りと芽吹きの香りが混ざり合い心を静かに癒す。
「春風吹いて 薫りが舞って 街を染めるか さくら色」
私は立ち止まり、花に触れ、そよぐ枝を見上げ、春の喜びと儚さを心に刻む。
ベンチに腰かけ、街の音と花の香りを耳に留め、ゆっくりと深呼吸する。
春の息吹が体に染み込み、日常の小さな喜びをひとつずつ味わうのだ。
花粉症でなければ………。
夏、昼の商店街を歩くと、街路樹の木陰は濃く、照りつける太陽を和らげている。
蝉の声は聞こえなくても、冷房の室外機の低い唸りや車のエンジン音が街中の熱を震わせる。
夕立の後、濡れたアスファルトに夕陽が反射し、七色の光の帯が車のガラスに映る。
人々は傘を片手に行き交い、空と地をつなぐ虹を見上げ、束の間の安らぎを得る。
「夕立やんで 見上げてみれば 空に架かった 虹ひかる」
夜になるとネオンの灯が星の代わりに輝き、川面に映る月影も光と闇の調べを奏で始める。
私は蒸し暑く夜になっても身に纏わりつくような風に頬を撫でられながら、街のざわめきや水たまりに映る光を眺め、夏の命の息吹を深く感じた。
汗っかきでなければなぁ………。
秋、夕暮れのオフィス街では、落ち葉が風に舞い、黄金色に路面を染める。自転車や車が通るたび、葉が軽く跳ね、ささやかな音を立てる。
虫の音は少ないが、遠くの電車の音や警笛がひそやかな祈りのように耳に届く。
人々は帰宅を急ぐが、夕陽に染まる街並みに季節の豊かさと都市の喧騒が同時に心に迫る。
「落葉樹から 街に散る色 紅や黄金に 染め上げて」
私はカフェの窓際に座り、温かい飲み物を手に、落ち葉と街灯の光に身を委ねる。
秋の静けさと都市のざわめきが混ざり合い、自身の姿も秋の景色の一部になれているような錯覚におちいる。
もう少し細くなった方がいいだろうか………。
冬、駅前広場に何年かぶりに雪が降り積もり、路面を覆い隠す。
人々は厚いコートに身を包み、急ぎ足で通り過ぎる。
イルミネーションの光をも反射する白銀の世界では、静寂の中で雪を踏む音と交通の音が混ざり合い、都市の冬の思いがけない雰囲気を感じさせる。
「雪の降る夜は 音も消え失せ ただ真っ白な 世界だけ」
私は駅前のベンチに腰を下ろし、熱いコーヒーで手を温める。
通り過ぎる足音や車のライトに映る雪を目で追い、今年巡った四季の記憶をそっと思い返す。
冷たい風に頬を打たれ、冬の都市の美しさと孤独を味わい尽くす。
今年も一人だったなぁ………。
春夏秋冬、都市は自然と人の営みと光と影を重ね合わせ、歩きながら観察すれば、日常の中にも深い感動を見つけられる。
私はそれらを静かに味わおうと心に決めた。
日本が四季であるうちに存分に………。
お題:「重なり」がテーマ
iさま お世話になります。
よろしくお願いします。
Lush Life / Chara
