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何か一つだけ、心から夢中になれるものがあれば

私は他人に対して唯一羨ましいと思ってしまうことがある。

それは

その人が夢中になれるものを持っているとき


私は、心から夢中になれるものを持っていない。記事投稿やイラスト練習、ただアニメを観ることもでさえ私は心から夢中になれない。どこか空っぽ。辛いときに支えてくれたのは自分の精神だけ。

声優やアイドルに夢中になりたい。情報を1つも逃さずグッズも沢山買ってしまうようなくらい夢中になりたい。でも、私はダメだった。好きになろうとしてもどこか冷めてしまう。

私が仲良かった友人たちは夢中になれるものを持っていた。

FPSなどのゲーム。パソコン機器。お酒。声優。アニメ。アイドル。YouTube。料理。友達。

私は上記のことに興味を持って触れてみた。しかし、ハマらない。好きになれても本心から好きになれない。私は夢中になれるものに出会えるのかな、なんて少し焦ったりする。

そんな私でも夢中になれるものを見つけた。いや、気がついていないだけだった。


家にいて心が落ち着かなくなると、私はよく散歩をする。

惰性で見ていたテレビを消して、大した身支度もしないで外に出る。近くのバス停まで歩き、バスを待つ。待ち時間は過ぎゆく車を眺める。イヤホンはつけない。こういうときは、環境音が最大の癒しになることを最近知った。

バスに乗る。他人だとしても、同じ時間と同じ空間を共有できると私はちょっと安心する。でも多分、乗り合わせた人は目的地がある。私にはない。同じ場所にいるはずなのに私だけ遠くにいる気がする。

でも、なんだかそれがワクワクする。ドラマや映画に登場する組織の裏切り者みたい。1人だけ違うところを見ているって楽しい。

駅に着いて、そのまま適当な電車に乗る。降車駅は決めない。でも、こういうときはできるだけ大きな駅に降りたい。家族とかカップルとかにすれ違える駅がいい。私以外にも生きている人をみたい。絶対関わることのない人たちだけど、私の心の平穏はその人達によって保たれている。

第一ボタンを外した高校生。きっと部活やバイトをしていて、LINEのトーク履歴の一番上にはトークルームが固定された彼女がいる。

路上で夢中に絵を描く人。他の人は見て見ぬふりをしているようだけど、私はしっかり見ている。私はこんな人になりたかったのかも。

クールぶった彼氏と楽しそうな彼女。多分私にこんな付き合い方はできない。ずっとそのままでいてほしいと思う。

ベビーカーを押す夫婦。少し翳りが見える。これがきっと社会の歯車になっている。ちょっとここら辺で吐き気がする。鬱陶しい。

ティッシュを配る仕事をする人。ヒールをカツカツ鳴らして高島屋に入る女性。喫茶店が嫌ってくらい似合う茶髪の女の子。ラーメン屋に並ぶどうでもいい男。店舗型ヘルスから出てくるパーカーを着た小太りの男。

整備された美しいものを見ているだけでは、私の心は落ち着かない。綺麗な街、観光地に落ちているマックの紙コップにはなんとも思わない。ビデオボックスや風俗店が並ぶ街で見るこの紙コップこそが美しい。

珈琲館で飲む黒蜜アイスカフェオレよりも愛想のない店員のいる牛丼屋で飲む水の方が何千倍も美味しい日がある。

こういう日に気がつくこと、それが私の夢中になれることだと思う。

助けてくれたのは自分の精神なんて序盤に書いたけど、あながちそれは間違いではなかった。散歩で得たものが私を救ってくれていた。


「夢中になれること、好きなことはなんですか?」

と訊かれたら

「散歩ですかね」と答える。

相手は「えーーーいいですねーー」と言うけど、多分相手が思っているようなロマンチックな散歩を私はしていない。

私はニコッと笑いながら「いいですよ、散歩」とだけ答える。

失望させてごめん、とは思っている。相手は気がついていないけど。

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