上海のイマーシブシアターにみる空間性と没入度の関連性について
こんにちは。
建築家のケンシロウです。
今回は、ひょんなことから2泊3日で5つのイマーシブシアターの体験廻りをしに上海に行ってきた。
建築・空間的な目線から、未だ形が揺れ続けている「イマーシブシアター」なるものの輪郭を捉えてみようと思う。
結論から言うと、イマーシブシアターは、既存の舞台空間から逸脱した「新たなエンタメの生まれ方」をしている。
今回、上海で体験したのは以下の5つ。
『Immersive Arcane』(Punchdrunk)
『sleep no more』(Punchdrunk)
『ABEIL』(UMEPLAY)
『MUSE』(UMEPLAY)
『HAVEN』(UMEPLAY)
コンテンツのネタバレは含まないようにするので、安心して読んでいただきたい。

イマーシブシアターは新たな劇場の型である。
映画館や、舞台演劇を思い起こしてみてほしい。
目の前にスクリーンや演者があり、きっとあなたは座ってそれを眺めていると思う。
イマーシブシアターでは、物語があり、“そこ”に、“あなたも”いる。
イマーシブシアターでは、物語が起きている環境そのものをつくり出しているといえる。
あなたは、その環境に足を踏み入れている。

建築計画学では、「劇場」は舞台空間と客席の配置から、「プロセニアム・ステージ」と「オープン・ステージ」の2つに分類できる、とされてきたが、イマーシブシアターはそのどちらにも該当しない。

今後、建築の教科書が変わる可能性がある分岐点に、いま私たちはいる。
イマーシブシアターの分類
「環境」の生み出し方の観点から「イマーシブシアター」と呼ばれる舞台(や試み)は大きく3つに分類できる。

【探索型】
非日常と化している一定の空間内を自由に歩き回るタイプ。
『Sleep no more』の試みが顕著で、あらゆる出来事が同時多発しているホテルをおよそ3時間探索することとなる。

移動の主導権は基本的に自分にあり、どこをみていてもよい。
思うがままに探索するもよし、気になった演者について回るのもよし、同じ部屋に留まり続けるのもよいだろう。

探索型で何よりゾクゾクしたのは、誰もいない薄暗い廊下を1人で歩いているときだ。
ここを歩くのであっているのか、という不安(夜の学校に忘れ物を取りにこっそり入ったときの感覚に近い)を持ちながら歩く。
面白いのは、“みる・みられる”が発生していなくても、「状況」は生まれ続けている点だ。
一般に、舞台演劇は、舞台空間とそうではない空間があって、例えば舞台袖を覗くと素の状態の役者がみえるだろう。
“みられている”から“演じる”ということが発生する状態だ。
一方で、探索型のイマーシブシアターでは、役者は「状況」を演じている。
つまり、“みられている”が無くても演技は続いているのだ。

空間的に解釈すると、舞台=舞台袖=客席
ということになる。
作品によっては、役者の着替えでさえもその場で行われることがある。

「舞台」という虚構世界をつくるために、舞台袖という現実世界で諸々の準備を済まし、客席から虚構世界を目撃する従来型に対して、
舞台も客席も舞台袖の区別すらなく、虚構世界という環境そのものをつくってしまう試みと捉えられる。
【誘導型】
演者から誘導を受けながら空間を移動していくタイプ。
「こっちへ行きましょう」や、「あっちへ逃げて!」といった具合に演者の誘導を受けながら次々と場所を変えていく。UMEPLAYの作品に多くみられた。

探索型のような自由な歩き回りはない一方、誘導型では演者から積極的に会話などのコミュニケーションを求められる。
つまり、その物語に自身が登場人物として登場し、演者に反応されたり、進行に影響を与えるのだ。

空間的には、しっかり舞台袖があるだろうことが推測される。
その分、【探索型】に比べてしっかりストーリーを追うことができる。
なにしろ、【探索型】は自分の行動によって重要なシーンを見逃してしまったり、同時に出来事が起こっているためにそもそも見れないシーンがあったりするのだ。
【探索型】と【誘導型】は、空間性 / 上演の人数 / 客の能動性、によって特徴づけることができる。

そして、これらの型は、
一時的に逆転する現象が起きる。
これが、「イマーシブシアター」を面白くしている要素だと考えている。
【探索型】においては、「1on1」と呼ばれるミニイベントが突発的に発生する。

探索して出会った演者を大勢で眺めていると、役者がこちらに突然手を差し出してくる。
思わず手をとってしまうと、1人だけ個室に連れて行かれる。
個室には鍵がかけられ、演者と2人きりになってしまう。
ここでは、演者と自分は一対一の関係。
どちらが“みられる”側でもなく、お互いに“みている”。
狭く、少人数で、対話に能動性のある誘導型の性質になってしまうのだ。
実際これをやられると、ドキドキがヤバい。
あえて伝わりづらい表現をすると、
《付き合ってまもない恋人の趣味に付き合って初めて入った謎の空間に行った時》のドキドキに似ている。

【誘導型】においては、「アレがここらへんにあるはずだから、探して!」と、探索時間がとられ、探し物をしたり、あるいは、逃げ回ったりすることがある。

それまで空間的な立ち位置は演者に誘導されていたが、突然その誘導から解放され、能動的な移動を求められる。
それまで物語の登場人物として関与していただけに、なんとか探してあげなくては!という物語の文脈にのった感情とともに探索をする。
イマーシブシアターは、型が逆転するときに“没入感”が高まる
【探索型】から【誘導型】へ。
【誘導型】から【探索型】へ。
「型が逆転する」ときが最も没入度があがる瞬間であり、無我夢中になる瞬間でもある。
あなたがイマーシブシアターを体験するときは、逆転について、体験後に思い返してみて欲しい。
体験中はこんなことは考えないでよろしい。
体験に没入していただきたい。
“イマーシブシアター”は、いま急速にあらゆるタイトルが立ち現れ続け、定義や輪郭が曖昧な黎明期にある。
上海では、イマーシブシアターが数多く上演されているし、
日本国内でも様々な「イマーシブ」が行われ始めている。
今回の【探索型】【誘導型】の中間にくる形式が生まれるかもしれないし、
そもそも今回の型に全く当てはまれないものが生まれるかもしれない。
そんな新たなエンタメの産声を、このnoteに記録した。
