「手に職をつけた幸せな女性を増やしたい」福岡電気工事業協同組合女性部が伝えるキャリアの選択肢
腰に工具を身に付けて男性と肩を並べて働く、かっこいい女性の姿を見たことはありませんか? 令和のいま、施工管理や重機オペレーター、大工など、あらゆる職種で女性が活躍しています。その中でも特に注目したいのが、国家資格を必要とする専門職種・電気工事士です。
電気工事士は、住宅の電気配線から工場の設備工事まで担う、電気工事のプロフェッショナル。資格の取得条件に性別は関係なく、努力次第で誰でも活躍できるため、女性にとって大きなチャンスが広がっている職業でもあります。
現在、福岡は「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」などの大規模再開発が進んでいる真っ最中です。建設中のビルも多く、電気工事士の需要は高まっています。
そんな追い風の中、福岡電気工事業協同組合(以下、福電協)に女性部が誕生しました。福岡市周辺の電気工事会社が集まったこの組合で、熱い想いを抱いた女性メンバーが福岡の電気工事業を盛り上げるべく活動を続けています。実際にどんな活動を行い、どんな想いを持って取り組んでいるのでしょうか。じっくりお話を伺ってみました。
福岡電気工事業協同組合「女性部」とは?
福電協は、比較的小規模の電気工事会社が多数を占める団体です。労災保険加入申請や電気工事業の登録手続きなど、面倒だけどやらないといけない大事な仕事を代行してくれます。
さらに、九州電力送配電から委託を受けて、一般家庭の電気設備チェックも行います。自宅のブレーカー点検のために業者が訪問したという経験がある人はほとんどでしょう。これは法律で定められた調査であり、感電事故や電気火災を防ぐ重要な安全確認です。
ちなみに電気工事士とは、住宅や工場などの電気設備の工事・取扱い時に必要とされる国家資格を持つ専門家です。新しくマンションを建てるときや、工場で設備改修するときなどが、電気工事士の活躍の場といえます。私たちが何気なく使っているコンセントも、電気工事士が施工したものです。さらに電気工事士は、火災・感電・停電のような事故や災害を未然に防ぎ、社会の安全を支える役割も担っています。

社会インフラを支える電気工事士ですが、人手不足が深刻化しています。この状況を打開するため、上部組織である全日本電気工事業工業組合連合会が新たな取り組みを始めました。それが女性部の立ち上げです。女性の力を活用して、後継者育成や入職者拡大を目指しています。
福電協もこの方針に沿って女性部を設立。福岡の電気工事業をもっと元気にするために、PR活動を行っています。
「女のくせに」という偏見。男社会だった業界の壁を乗り越えて
福電協女性部の部長を務めるのは、創伸テクニカルサービス株式会社の代表取締役・黒岩幸子(くろいわゆきこ)さんです。同社ではエアコンや太陽光発電の設置工事などを手がけています。
13年前、家業の内部分裂をきっかけに突然社長に就任した黒岩さん。準備期間もなく業界の知識も十分でない中での船出となり、そこには予想をはるかに超える高い壁が立ちはだかっていました。

「周囲からは『女のくせに』『現場に入っても何も分からないくせに』と言われ続けました。不当な扱いを受けたこともあり、本当に悩みました。もし私が男だったらこんな目に遭わなかったのではないか……そう思うと悲しくなる日もありましたね。でも、家業を継いだからにはという気持ちで、愚直に目の前のお客様に向き合い続けたんです」
実は、黒岩さんは、かつては電気工事会社に良いイメージを持っていなかったそう。「過酷で大変そう」という先入観があり、仕事の価値が分かっていなかったそうです。小さい頃から電気工事士である父親の働く姿を見ていましたが、自分には関わりがない世界のように感じていたといいます。
しかし社長として電気工事の仕事の本質を知るうちに、その考えは大きく変わりました。
「職人の皆さんは、クレームにも真摯に対応し、些細なことには怒らずに、無理な要求でも嫌な顔をせずに聞くんです。そんな姿を見て心から敬意を抱くようになりました。まるで俳優の高倉健さんのように、仕事に対して真っ直ぐな人ばかりなんです」

黒岩さんの社長就任から年月が経ち、業界の状況は大きく変わりました。女性の電気工事士が少しずつ増えており、性別による偏見が薄れてきています。黒岩さんは「今が一番楽しいです」とキラキラ輝く笑顔で話します。
今を楽しむ黒岩さんだからこそ、女性部部長の役割が回ってきたのでしょう。福電協理事長の堀内重夫(ほりうちしげお)さんは、「女性も一緒に業界を盛り上げよう」と黒岩さんに就任を依頼しました。堀内さんが目指すのは、老若男女を問わない、誰でも働きやすい職場環境を作ること。その思いに深く共感した黒岩さんは、迷うことなく女性部部長を引き受けました。
老若男女で盛り上がる!業界の間口の広さを証明したファッションショー
女性部に期待されているのは、組合の存在を広く世間に発信することです。現在はInstagram発信や企業訪問を通じて、電気工事士という職業の魅力を伝えています。

それらの活動の中で注目を集めたのが、2024年に福岡国際センターで開催された業界展示会「カンサイフェア」での作業着をPRするファッションショーでした。この展示会は業界関係者だけでなく一般の来場者も多く、小さな子どもでも楽しめる催しも行われています。
ファッションショーでは、多彩な作業着を着たモデルがランウェイを歩きました。従来の作業着は男性向けのデザインが中心で、女性には不評だったそうです。しかし時代の変化とともに、色やサイズなどが多様化し、女性向けの作業着も充実してきました。そんなおしゃれで気持ちが上がる作業着を知ってもらうことが、ファッションショー開催の目的でした。

大切にしたのは、ファッションショーを、女性だけのイベントにしないこと。「男性や親子にも出演していただきました。展示会に参加していたメーカーさんは家電製品を抱えてランウェイを歩いたんですよ」と黒岩さんは振り返ります。
このように出演者の多様性を大切にした理由について、黒岩さんは「誰かが嫌な気持ちになるのは違うから」と語ります。もし女性だけが主役扱いされてしまうと、不満を抱く男性もいるかもしれません。しかし女性の特別扱いは、女性部としても黒岩さんとしても不本意。そのため女性以外にも出演してもらい、電気工事業界全体で盛り上げるファッションショーにしました。

反響は予想以上。男性女性という性別を問わずにみんなが楽しめるイベントを作り上げることで、電気工事業界は誰でも挑戦できるフィールドが広がっていることを来場者に伝えることができました。
手に職をつけたい女性に「電気工事士」を勧める理由
電気工事士を取り巻く環境は、現在追い風が吹いています。インターネットやさまざまな家電の普及により、電気工事の需要は上がっています。有資格者でなければ施工できないため、まさに電気工事士は引っ張りだこ状態。受注金額もひと昔前と比べると値上がりしており、収入面でも魅力的な職種となっています。
「女性の電気工事士は増えているんです」と黒岩さんは実感を込めて語ります。興味深いことに、最初から電気工事士を目指すのではなく、事務や経理として電気工事会社に入社した女性が、現場を知るうちにこの職種に興味を持って資格取得するケースが増えているそうです。
資格を取得した女性たちのキャリアパスは多様です。事務・経理業務と並行して設計や電気工事士を務める人、ステップアップして施工管理技士を取得して現場の全体管理をする立場に就く人もいます。どの女性も意欲的に仕事に取り組み、着実にキャリアを積み重ねています。

電気工事士は手に職をつけられる上に、男女の性別が問われない職業です。技術力で評価されるため、男性と同等に給料をもらえます。頑張れば頑張るほど収入が増えるので、経済的自立が必要なシングルマザーにも、向いている仕事です。
黒岩さん自身もシングルマザーとして仕事を続けています。さらに、黒岩さんの周りにも、資格を取得して子育てと両立させているシングルマザーが何人もいるそうです。
「電気工事士は社会インフラを支える仕事だから、景気に左右されにくく、子育て中でも安心して働けます。月給制で収入が安定しているから、将来設計も立てやすいです。現場で経験を積んで施工管理技士などの資格を取り、将来は管理職や経営に進む道も開けるんですよ。ただ稼いでいくだけでなく、キャリアアップもできる職業として、これほど魅力的なものはないと思います」

実際に、電気工事士の仕事は若い女性からの関心も高まっています。太陽光発電や電気設備工事を手がける理事長の堀内さんの会社は、女子学生の多い商業高校からインターンシップを受け入れています。電気工業界を知った学生たちの中には、就職を希望する人も多くいるそうです。「成長意欲が高くて、向上心も強い女性がたくさんいるんですよ」と黒岩さんは嬉しそうに話してくれました。
きちんと稼げる女性を増やしたい。女性部が業界を変えていく
女性部の今後について聞くと、「小中学校を訪問して、電気工事士という選択肢があることを子どもたちに伝えたいんです」と黒岩さん。
また、県内工業高校に対しては、福電協の青年部が技術的な指導を行っていますが、女性部ではそれとは異なるアプローチで、未来を担う若者に電気工事士の魅力を紹介したいと考えています。
「電気工事業界の間口を広げていきたいんです。男女どちらでもチャレンジできる仕事であることをもっと多くの人に伝えたいと思っています」と黒岩さん。可能性をたくさん秘めた若者への教育活動に、意欲を燃やしています。
取材後の雑談タイムでも、同席していた女性部メンバーとの会話は尽きません。女子高や小中学校への説明会、心の支えとなるコミュニティの必要性など、電気工事業界を知ってもらうためのさまざまなアイデアが飛び交います。「彼女たちは福電協を盛り上げてくれる、心強い存在なんですよ」と理事長の堀内さんも誇らしげでした。

電気は生活に欠かせないライフラインです。もし電気工事士が不足すれば、家の建設や街の安全に影響が出てしまいます。だからこそ、これまでは男性が中心となって支えてきた業界ですが、今後は女性の力も欠かせません。
「手に職をつけて自分らしく生きる女性を増やしたいです。みんなで幸せになれたら、より良い世界になると信じています」と黒岩さんは、未来について語ってくれました。幸せになる女性を増やすという使命感を抱いて、今日も福電協女性部は走り続けます。
▼この記事を書いた人

