ラベンダー畑、帰る場所。¦第1巻
🪻第1巻『猫とゴールデンレトリバー』

「こんにちは。」
森のはずれで、
ゴールデンレトリバーは、
あの日と変わらない笑顔で頭を下げました。
猫は少し照れながら言います。
「……なんだお前。」
それが、
二匹のはじまりでした。
次の日も。
その次の日も。
猫は、 気付けばラベンダー畑へ足を向けていました。
「今日は何してんの?」
「ちゃんと休んでる?」
「無理すんなー。」
ゴールデンレトリバーは、
嬉しそうに笑います。
「うん。」
その笑顔を見ると、
猫も少しだけ笑顔になりました。
毎日会うことが、
少しずつ当たり前になっていきます。
猫が森を走れば、
ゴールデンレトリバーは、
その姿を優しく目で追いかけます。
猫が近くへ来れば、
自然と隣へ歩いていきます。
森のみんなは笑いました。
「あのゴールデンレトリバー、
猫がいると嬉しそうだね。」
猫は少し照れながら言いました。
「……変な犬。」

季節が少しずつ変わるころ。
ゴールデンレトリバーは、
綺麗な花を見つけました。
「これ。」
猫へ差し出します。
またある日は、
丸い石。
赤い木の実。
色づいた葉っぱ。
「君に似合うと思って。」
猫は笑いました。
「また見つけてきたの?」
そう言いながら、
どれも大切そうに抱きしめました。

ある日。
ゴールデンレトリバーは、
猫を、
大好きな場所へ連れて行きました。
一面に広がるラベンダー畑。
風が吹くたび、
紫色の花が優しく揺れました。
猫は目を輝かせます。
「きれい……。」
ラベンダーよりも、
その笑顔の方が綺麗でした。
「また来よう。」
猫が言います。
「うん。」
「何度でも。」
その日から、
ラベンダー畑は、
二匹だけの特別な場所になりました。

ラベンダー畑では、
猫はたくさん笑いました。
走って。
笑って。
風に耳を揺らして。
ゴールデンレトリバーも、
そんな猫を見て笑いました。
「猫は、
笑ってる方がかわいい。」
猫は照れて、
少しだけ顔を隠しました。
でも、
夕日が沈み始めると、
猫は少しだけ静かになります。
帰る時間。
猫はラベンダー畑を見つめたまま、
なかなか立ち上がりません。
「また明日。」
ゴールデンレトリバーは、
いつも通り笑います。
「また明日。」
猫も笑います。
でも、
その笑顔は、
どこか少し寂しそうでした。

ゴールデンレトリバーは、
その小さな変化に気付いていました。
でも、
理由は聞きません。
話したくなった時に、
話してくれればいい。
そう思っていました。
猫は帰り道、
一度だけ振り返ります。
ラベンダー畑は、
夕日に照らされて、
とても綺麗でした。
「また来よう。」
その小さな約束だけが、
猫の明日を支えていました。
その日から、
ラベンダー畑は、
ただ綺麗な場所ではなくなりました。
そこは、
ふたりが安心して笑える、
帰りたくなる場所になっていました。

──小さな幸せは、少しずつ広がっていきます。
その幸せを、
小さな蜂が見つけるのは、
もう少し先のお話です。
🍯第2巻『ラベンダー畑の蜂』
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