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「ここですべてを出し切るために」─花園近鉄ライナーズ サナイラ・ワクァ

 「これは僕にとって、そして僕らの家族にとって大切なことなんだ。そう思うと、人任せにはできないよね。自分でできることは、できるだけ自分でやりたい。小さな頃からそうやって少しずつ前に進んできたから。そう、困難はすべてチャレンジだと僕は思っているよ」

 花園近鉄ライナーズの大黒柱、フィジー出身のサナイラ・ワクァは大きな体を揺らして笑った。2017年に来日、日本での生活はまもなく10年目を迎える。アスリートとして、そして妻と三人の子どもたちを支える父親として。挑戦を続けるワクァの横顔を、そっとのぞいてみた。

ワクワクの行く先へ

来日当時の思い出を語るサナイラ・ワクァ

 クラブハウスのドアをくぐって、身長202㎝、体重125㎏の大男が現れた。その圧力は半端ない。ピッチの上で出会ったらきっと卒倒してしまうだろう。大きな手をすっと差し出し、「よろしく」と笑顔を見せるワクァ。その柔らかく、優しい表情からは人柄の良さが伝わってきた。ニックネームは「ジュニア」。その呼び名からもワクァが周りから愛される理由が感じられた。

 フィジーで生まれ、父の仕事の関係でニュージーランドへ。高校からラグビーを始め、めきめきと頭角を現した。複数のチームからオファーが届く中、日本のNECグリーンロケッツ(現NECグリーンロケッツ東葛)に興味を持った。
 
 「日本はとても先進的な国だというイメージを持っていました。日本でプレーしてみたいな。どんな暮らしになるか想像もつかなかったけど、ワクワクした。“ 行こう ”と背中を推してくれたのは奥さんでした」

 2017年3月に初来日、羽田空港から都内へと向かう電車の車窓から見た高層ビル群の景色に驚いた。見たことのない街並み、知らない食べ物、難しい日本語、そのすべてがワクァにとって新鮮だった。

わからない。から逃げ出さない

身長202センチのワクァ。試合では大きな壁として対戦相手の前に立ちはだかる

 「日本人との関係性に関しては特に問題はなかった。フィジーも年上の人をリスペクトする文化があるからね。そこは日本と同じだったから。食事も問題なかった。日本食はどれも美味しい。

 苦労したのは日本語と日本の行政手続き。わからないことだらけだったよ。だから僕は自分で市役所に行っていろいろと聞いてみたんだ。この手続きはどうすればいい?この申請は何処でできますか? って」

 市役所に突如現れた大男に職員もきっと驚いたことだろう。たどたどしい日本語で行う初めての手続き、不安でいっぱいのワクァに職員たちは丁寧に接してくれたという。

 「みんな優しかった。わからない部分を何度も説明してくれた。チームメートに詳しい人がいればその人にやり方を教わることもあった。僕は日本や日本人のことをどんどん好きになっていった。今もその気持ちは変わらない」

 2020年、花園近鉄ライナーズへ移籍し、拠点を関東から関西へと移した。新たなチーム、新たな街での生活が始まった。

できること、できないこと。すべては大切な家族のために

 新たなるスタート。それは膨大な手続きとワンセットだ。ワクァにとって何よりも大切なもの、それは『家族』の存在だ。一人のアスリートであると同時に、一人の父親として子どもたちの学校や保育園、医療や福祉。家族が安心して暮らすための手続きが山ほどあった。

 「以前、自分でやったという経験があったからこそ、今度も大丈夫と思えた。もちろんまだまだわからない部分もたくさんある。職員の皆さんから教わりながら少しずつ前に進んでいるよ」

 大阪の街が好きだ。道を聞けば誰もが優しく教えてくれる。素敵な人々、美味しい食べ物、楽しい場所がたくさんある。『ここで長く暮らしたい』。そう意識した時、家族が幸せに暮らせる新しい住まいがほしくなった。条件はワクァの頭がぶつからないハイドア、そして子どもたちがのびのびと生活できる一軒家だった。

 「家を借りようと思ったんだ。でも外国人が日本で家を借りるというのはハードルが高い。そこには僕ら外国人のことを深く理解し、そして専門的な知識を持ったスペシャリストの存在が必要だった。頼るべきことは、頼れる人に任せることも大切だ。多くの人の助けもあって、今は家族みんなで幸せに暮らしているよ」

 プライベートの充実はプレーにも現れる。チームでの献身的なプレーが認められ、2022年には日本代表として桜のジャージーに袖を通すという夢を叶えた。

チャレンジは終わらない

チームの柱として全力で戦うワクァの姿が、見る人の心を熱くさせる

 日に日に上達する日本語力、ワクァの先生はかわいい子どもたちだ。家では覚えたての日本語が毎日飛び交う。お気に入りの場所は近所の公園、時間が合えば子どもたちと遊びに出かける。家族との時間をたっぷりと。それはワクァにとってラグビーから離れ、心と体を癒す大切な時間だ。

 「しっかり走り、しっかりぶつかる。ラン(走力)とコリジョン(激しくぶつかる局面)を意識して戦っていきたい」

 プレーについて尋ねると、優しい父親の目からアスリートの目に変わった。目指すのは最高のプレー、そしてチームの勝利だ。スペシャルなサイズとパワーを兼ね備えたワクァの元には毎年のように他国や他チームからオファーが届くという。

 「オファーの全てを今は断っている。奥さんがね(笑)。彼女は日本をとても気に入っている。もちろん僕も日本を第二の故郷だと思っている。そしてまだまだこのチームでプレーを続けたい。日本でキャリアを全うしたいんだ。僕は日本で全力を出し切りたいんだ」

 近鉄花園ライナーズ、サナイラ・ワクァ。日本でのチャレンジはまだまだ続く。

【編集後記】外国人アスリートが、日本を「第二の故郷」と呼べる社会へ

ワクァ選手が語ってくれた「言葉の壁」や「行政手続き、家を借りる際のハードル」。これは、日本で生きるすべての外国人トップアスリートと、そのご家族が直面する共通の課題です。

ワクァ選手は持ち前の強さと周囲の支えで乗り越えられましたが、複雑な日本の制度を知らないことで、不利益を被ってしまう選手も少なくありません。

私たちPink Rose(ピンクローズ)は、外国人トップアスリートが「知らないことで損をしない」生活インフラの整備を専門知識でトータルサポートしています。(取材協力 イワモトアキト氏)

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