【思い出の服】好きな服を買っても気分はパヤパヤしなかった
あれは二十歳になって間もない3月の事だ。その頃、私は転職したくて、ある会社の中途採用の試験を受けていた。その会社は本社が東京にあり、現地採用の社員も東京と同じ給与や福利厚生で働けるために、大勢の女性が試験を受けに来ていた。
採用人数1名の枠を巡る一次試験に合格する事ができており、二次試験を翌日に控えた夜にとても悲しい出来事が起きた。
明日上手くいけば内定がもらえる。
ちゃんと受け答えできるかな。
服と靴はあれで大丈夫かな。
そういう事を思いながら、落ち着かない気持ちでテレビを見ていたその時だった。
親機から無理矢理自室に引いた固定電話の子機がプルルルルと鳴った。
「はい、○○です」
「あ、みゆちゃん?俺だけど」
電話の相手は、付き合っているんだかいないんだかよく分からない、当時好きだった人だ。電話の声はなんとなくいつもと違って聞こえた。ちょっとした話の後、彼は私に告げた。
「みゆちゃん。俺さ、もうみゆちゃんと会わない」
その言葉を聞いた瞬間私の頭は真っ白になり、どうしたらいいのか、何と答えたらいいのか分からなかった。余計なプライドなのか、物分かりが良いのか、私は心とは真逆に嫌だと縋る事もせず
「分かった」
と一言絞り出してどうなったのか分からないまま電話を切った。
その後の私は、ただただ泣いた。泣いても離れた心は戻らないのに。ただ、心の片隅で明日の試験どうしようと思う冷静な自分もいた。
案の定、翌日の採用試験は散々だった。一次試験だけでなく、二次試験でも筆記試験があった。これはまあまあ上手く回答する事ができた。しかし、この後の面接の私はダメダメ過ぎてどうしようもなかった。前日に泣き腫らしたせいで顔のコンディションは最悪だし、悲し過ぎて目は虚ろになっていたと思う。何かを聞かれてもハキハキと答える事すらできなかった。面接が終わり、部屋から出る時
「ああ、これはダメだったな。絶対落ちたわ」
と妙にスッキリしたのを覚えている。
お昼前には採用試験は終わった。その日は有給を取っていたので、時間はたっぷりあった。そこで私はドライブがてら隣県の街までショッピングに行く事にした。その街までは小一時間掛かるが、消化不良気味な試験の事や私から去って行った彼の事を考えながら運転していると、あっという間に目的地に到着した。
その街は、私の地元よりも栄えていたのでブラブラと歩くのも楽しい。気持ちは塞いでいたものの、可愛い洋服を見て歩いているうちに少しは気分も上向いてきたように思えた。
ブラブラと歩いている私の足はあるショップの前で止まった。
そのショップはPAGE BOYだった。元々PAGE BOYは好きだったので、店頭のディスプレイを見た私の足はフラフラとお店の中に吸い込まれていった。店内には可愛い春物の洋服がたくさんある。私は店内の洋服を1枚1枚じっくり見て回った。
私はああでもないこうでもないと暇に任せて買う物を決めていった。
そこで選んだ洋服をレジに持っていき、会計をしてもらう。まさか買い物に行くとは思っていなかったので、あいにく現金の持ち合わせはなかった。それで作ったばかりのクレジットカードで会計してみた。なんだか少し大人になったように感じた。無事に会計を済ませ、大きな紙袋を店員さんに渡された私は少しだけワクワクした。
その時買った洋服は、こげ茶色に大きめのベージュのドット柄のてろっとした素材のシャツ、くすみピンクの薄手のブルゾン、生成り色でチノ素材のロングスカートの3枚だ。ブルゾンはリバーシブルになっていて、内側は同じくくすみピンクにオフホワイトのドット柄になっていた。当時はドット柄が流行っていたのだと思う。
可愛い洋服の入った紙袋を肩に掛け、さらに当てもなく街をブラブラと歩いた。気になるお店を冷やかしたり、お茶をしたりの時間を過ごす。平日の昼間に1人でのんびりと街を歩くのは二十歳の女の子の私には少しソワソワした時間でもあった。気楽だけど、どこか寂しくて、それでもちょっぴり自信がついたような気がした。
そろそろ帰ろうと車に乗り込むと、採用試験や1人の街歩きで緊張していた気持ちがふっと解けた。すると、それまで押さえていた失恋の悲しみが表に出てきた。悲しくても運転に差し支えるので泣かないように、それだけを思って駐車場から車を出した。
慣れた道を走りながら、私は好きなヒット曲を集めて作ったカセットテープを掛けていた。オーディオからはレピッシュのパヤパヤが流れてきた。この曲はトヨタ・スターレットのCMに使われていた曲でとてもノリのいい曲だ。パヤパヤパヤパヤとボーカルの声がする。けれど、私の心はちっとも晴れない。悲しくて悲しくて、胸が痛くて、そしてどこか腹立たしくもあった。そんな私の気持ちも知らずにやっぱりレピッシュはパヤパヤと歌っている。
平日の昼間だからか車は順調に進んでいく。オーディオからはゴーバンズのあいにきてI・ need・ you!が流れてくる。こんな時になんでそんな曲が流れてくるんだろう。カセットテープを編集したのは私自身なのだけど、この時ばかりは恨めしい気持ちでいっぱいになった。なぜなら、いくら私が「あいにきてI ・need ・you!」と願ったとて、彼はもう私に会いには来てくれないからだ。楽しい曲なのに、私の心は沈みっぱなしである。失恋して悲しいわ、採用試験もうまくいかないわでもう散々な気持ちが溢れまくり、自分で自分を持て余した。
翌日、私は買ったばかりの洋服を一式着て会社に行った。会社の女子の皆さんは新しい服に気付いてくれた。
「あー、新しい服!可愛いね」
「ありがとうございます!昨日買っちゃいましたー」
「そういえば昨日の試験はどうだったの?」
採用試験のために有給を取っていたので、試験の事を聞かれるのは当然だ。私はなるべくしんみりしないように無理して明るく事の顛末を語ったのだった。
数日後、案の定というか当然の事ながら、不採用の通知が届いた。私はその通知を見てもやっぱりなという乾いた感情しか湧かなかった。それよりも、まだ失恋の悲しさの方が勝っていた。けれど、いつまでもウジウジとしている訳にはいかない。それに、私の退職する日はもう決まっているのだ。それまでに新しい会社を決めなくてはいけない。
私はあの時買ったブルゾンをドット柄にしてサッと羽織った。また新しい1日が始まる。好きな服を着る喜びを感じながら、色々な感情を胸に収めて玄関のドアを開けた。
👕 👗 👕 👗 👕
今回はこちらの企画に参加します💛
ファッションは好きなので度々記事にもしていますが、記憶を引っ張り出して書いてみました!
この時買った服はとても可愛くて、長く着ました。
特にスカートは10年近く着たと思います。
PAGE BOYは結構好きで、ちょくちょく買っていました。
以前記事にした事のあるコートは本当に大好きで、こちらもずいぶん長い間着ていました。
さて、この話の後日談なのですが。
転職は結局上手くいきました。
この時の会社は落ちてしまいましたが、もう1通履歴書を送っていた会社に採用されました。
こちらも東京が本社で、現地採用のスタッフも同じ条件で働ける所でした。
望んで入社したとはいえ、見た目は華やかなのに実態はなかなかのハードさで大変ではありました。
この話はファッションとは関係が無いので割愛しますが、過去記事で語っていたりもします。
今でも、たまに思います。
あの電話が掛かっていなければ、あの会社の二次試験が上手くいったと実感できていたら、あの洋服たちとは出会わなかったし今の私はなかったんだろうなって。
そして、大事な試験の前日にあんな電話掛けてくんな!!って(八つ当たりですw)
失恋した彼と上手くいって、あの会社で働いていた世界はどんな世界だったんだろう・・・
あの日に車で聴いた曲です!
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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