エモーショナル短編 落ちる
落ちている…
暗い穴の中を、ひたすら落ち続けている。
最初は恐ろしさに声を上げてしまったが、やがて慣れ、周囲の状況を冷静に観察できるほどの時間が経っていた。
いつこんな状況になってしまったのか?
確か午前中は、サボりもせずに授業を受けていた。
それに学校の周辺には、人が落ちるような大きな穴なんてなかった筈だ。
あったとしても怖ろしくて近寄らないと思うし。
そういえば以前、何かで読んだことがある。
もし地球を貫く穴があって、そこに落ちたらどうなるのか…
地球の中心に向かって加速し、通り過ぎれば減速し、また中心に戻って……。
結局は、地球の中心で止まってしまうらしい。
なんて怖ろしい事だろう。
穴がうまい事 地球を貫通していたとしても地表には帰れないし
途中までしか穴が続いていなければ穴の底に叩きつけられる事になる。
どう考えてもこの状況は詰んでいる。
落ちていく先が明るくなっているのが見えてきた。
それは場違いな光景だった。
明るい光は壁に付いているサッシ窓からのもので
下へ下へと連続して窓がずっと壁に続いている。
落ちながら見ているその窓は、景色の一枚一枚が連続したパラパラ漫画のように連なっていて
そこに見えてきたのは2人の男女の後ろ姿だった。
男性は自転車を押し、女性と歩調を揃えて歩いている。
男性が何かを話かけると、女性は笑いながら男性の肩をペシペシと叩いている。
声が聞こえないのがもどかしい。
目を凝らして見ていたが、やがてその人影は消えてしまい、次に見えてきたのは窓に手をかけ、こちらに向かい手を振る人影だった。
何かを喋りながら手招きしているように見える。
なんだろう、ほのかに甘い香りが僕の鼻をかすめる。
どこかで低い大きな音が鳴りだした。
その音を聞いていると急激にまわりが明るくなっていく。
気がつくと開いた教科書の文字が目の前にあった。
隣のクラスの陽菜が忘れたので貸したものだった。
返ってきたその教科書を開くと下の方に小さく
【 すき🩷 】
と書いてあった。
そうだ僕は、恋に落ちたのだった…
落ちるの数年後↑
