私の父は醤油おかきに似ている【味ごのみ】
あなたは「味ごのみ」というお菓子を知っているだろうか。
ブルボンから出ている、数種類のおかきや豆菓子の詰め合わせである。
子供のころ、母方の祖母の家に行くと、いつも買ってくれてあった。
弟と一緒に袋を開けては、好きな具を取り合いながら食べていたものである。
その中に、「海苔醤油豆」というおかきが入っていた。
醤油味のまん丸なおかきの表面に、小さな海苔がまばらに貼り付いている。
子供のころの私はそれを見るたびに、
「父ちゃんに似てるなぁ」
と思っていた。
まず、色が似ている。
建築現場で働いている父は年中日焼けしていて、いつも黒光りしていた。
それが、醤油色のおかきとよく似ている。
形も似ている。
父は丸顔である。
海苔醤油豆もまん丸である。
模様も似ている。
父は雑な坊主頭で、ヒゲもいつもジョリジョリしていた。
そのため、表面に海苔がまばらに付いている様子まで似ていた。
全てにおいて、父は海苔醤油豆にそっくりだったのである。
だが、子供のころの私にはまだ良心があった。
そんなことを本人に言ったら傷つくかもしれないと思い、父にも他の家族にも黙っていた。
やがて、味ごのみを買ってくれていた祖母も亡くなり、味ごのみを食べる機会も減った。
私は父がおかきに似ていると思っていたことすら忘れてしまった。
そして約20年後。
衝撃の事実が発覚する。
1年ほど前、近所のスーパーで味ごのみを見つけた。
三十路になった私は懐かしくなって購入し、家に持ち帰った。
家族に一袋ずつ配布し、食べていた時のことである。
大人になってすっかり良心を失った私は、つい言ってしまった。
「私さ、子供のころ、この醤油おかきが父ちゃんに似てると思ってたんだよね」
するとどうだ。
弟が即座に言った。
「わしもそれ思ってた」
そんなことあるか?
姉弟そろって、
『父は醤油おかきに似ている』
という同じ結論に到達していたのである。
なんたる偶然。
いや、待て。
2人が独立して同じことを考えていたということは、むしろ偶然ではない。
父は本当に醤油おかきに似ているのだ。
これが客観的事実というやつである。
その場は大爆笑になった。
父は怒りながら笑っていた。
怒っていたが、笑っていたのでたぶんセーフだと思う。
その後も私はときどき、味ごのみを買って帰る。
面白いことに、父が一番たくさん食べる。
父はうちでいちばん味ごのみが好きなのだ。
海苔醤油豆も普通に食べる。
自分そっくりなおかきをガリガリ食べている様子は、実に面白い。
私は毎回、「共食い」という言葉を飲み込む。
三十路の私にも、それぐらいの良心は残っているのだ。
だが、四十路になった頃にはしゃべってしまっているかもしれない。
そして弟が「わしもそれ思ってた」と言い出すのだ。
