ナイトバードに連理を Day 8 - A - 1
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早矢はコーデックボートの中で目覚めた。無数の配管が走る天井を眺めながらの覚醒はまだ二度目のはずだが、随分見慣れた景色に思えた。
そばには見張りの一人もおらず、それどころかボートの後方、開かれたハッチからは外の青空と灰色の荒野が見えた。前方、操縦席にも人の気配はない。ボートは停止していた。
早矢は自分用にまとめた荷物から鏡を取り出し、覗き込んだ。見飽きた顔と金色の光がうねる瞳が、自分を見つめ返していた。早矢は緋色のマントを纏い、そして歩き出した。
ボートの外には大きな天幕が張られ、その日陰で茶賣、甘、冶具と十人足らずの傭兵が食事をとっていた。
「戻ったか夜目殿。先に始めてるぞ」
茶賣は餅を飲み込みながら言い、早矢を手招きした。傭兵たちの不躾な視線を浴びながら早矢はハッチから降りず、ゆっくりと周囲を見回した。
雲一つない青空と起伏に乏しい地平線に囲まれた荒野のど真ん中。人数の他に見えるものは二隻のボートと、それらと三角形を作る位置に腰を下ろすアマフリ、今まででもっとも大きく近く見える首都の空転塔のみ。まるでこの世から他のすべてが消え去ったような眺めだった。
早矢がボートから降りると、それが役目という風に冶具が近づいてきた。
「おはようございます。夜目……早矢様」
「おはようございます。ここは?」
「この辺りは……いえ、地名は問題ではありませんね。ご覧のとおり門石も何もない平原です。それと……近衛様はあちらに」
冶具は早矢が寝かせられていたものとは別の、もう一隻のコーデックボートを指し示した。アマフリを運搬するスペースがない分だけ小さく、つまり早矢の知るまともな戦車に近い形状をしている。大獣との戦闘を生き残ったのはこの二隻だけだった。
「向こうも起きてるはずなんで、これを渡してもらえますか。布はあっちの方が必要でしょうし」
早矢はそう言いながら緋色のマントを外し、冶具に手渡した。冶具は恭しく受け取りながら数秒逡巡したが、何も言わずに下がった。
早矢が天幕の下に入ると、甘と傭兵たちはそれぞれの皿をもって立ち上がり、入れ替わりに日なたへと出て行った。早矢は一人残された茶賣の正面に腰を下ろした。茶賣は手ずから鍋から餅と汁物をよそい、早矢に手渡した。
「肉はないんだな」
早矢は受け取った汁を啜りながら何気なく言った。
「なんだ、狢はあまり肉を食わないと聞いたが、気に入ったのか? 残念だが保存する分までは取らなかった。ここを出てからたらふく食べるといい」
茶賣は面白げに答えたが、早矢はただ頷くだけで食事に戻った。茶賣もあえて言及はせず、二人は食事を続けた。
「どうだ、夜目殿。成果のほどは」
餅を噛み千切る早矢を見ながら自身は食後の茶を啜り、茶賣は世間話をするように訊ねた。早矢はもちゃもちゃと咀嚼しつつ、茶賣から視線を逸らした。
アマフリは動きもなくただ座っている。冶具の向かったボートでは、その上部ハッチがわずかに開き、金色の瞳が確かに瞬いた。早矢は時間をかけて餅を飲み込んだ。
「モッカに水門石はない」
早矢は茶賣の目を見て言った。茶賣は驚いた風もなく、ただ演技かかったため息をついた。
「残念だが、それがお前の答えなら仕方がない。もう一人に聞いてみるとしよう」
「無駄だ。俺たちの情報源は同じだからな」
茶賣が動くより早く、早矢はポケットから取り出した小瓶を正面に置いた。 【Day 8 - A - 2に続く】
