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ナイトバードに連理を Day 5 - A - 5

【前 Day 5 - A - 4】

(974字)

 小さな丘の頂上。茶賣のいる洞窟から狢たちの天幕群を挟み、斜向かいに基地全体を見下ろす位置にアマフリの天幕はあった。早矢たちの物よりはるかに高く広がるそこは、訪問客を歓迎しないという意思表明のように孤立していた。唾を呑んでたじろぐ早矢の前で、頼は馴染みの店の暖簾を捲るような気軽さで天幕の入り口を押し上げた。

「夜目殿をお連れしました」
「おい、良いのか」

 一人慌てる早矢を全く無視し、頼は天幕の中に顔を突っ込んで呼びかけ続けた。その答えは早矢の耳まで届かなかったが、振り向いた頼はにこやかに早矢を手招きした。

「ほら、入れってさ」

 早矢は頼の正気を疑い、今にもアマフリが飛び出て自分を踏み潰すのではないかと天幕をじっと見つめた。しかし何事も起こらず、やむなく、頼に促されるまま中に入った。

 その瞬間、何よりも早く早矢の五感を揺さぶったのは香辛料の匂いだった。甘く、鋭く、焦がれるような空気。味と刺激に飢えた鼻腔がどうしようもなく膨らみ、顎が痛くなるほど涎が湧いた。早矢はどうにかそれを飲み込み、意識を集中した。

 天幕の中央に、腰を下ろし足を投げ出すアマフリがいた。昨日より間近で見るその姿は早矢の記憶にあるものとは違う。その背中が蛹のように開いていた。まるで"中身"がそこから出て行ったかのように。

「ちょっと待ってて。いま、お茶を沸かすから」

 そのやや低くも少女めいた声は、早矢の凝視する先、アマフリの背後から起こった。早矢は思わず後から入ってきた頼の方に振り向いたが、頼は叱るような表情で無下に顎を前に振るだけだった。

 正面に向き直った早矢は、アマフリの前に立つ一人の少女を目にした。

 薄い肩に掛からないほどの黒い髪、さらに黒い瞳と青白い顔、肩から手足の先までを覆う白い外套。早矢よりやや高い背丈。鼻は高くも低くもない。年は近そうだが、見知った顔ではない。そう認識するまでの数秒間、早矢は間抜けに口を開けたままだった。

「……人だ」

 早矢がどうにか絞り出した感想はそれだけだった。隣で頼がため息をつき、向かい合う少女は首を傾げた。その表情と振る舞いは落ち着いたものではあったが、少女らしい外見相応の無邪気さも確かにあった。

「天狗ですけど」

 少女はわざとらしく不満そうに言い、演技であると強調するようにすぐに笑った。その口から僅かに覗いた犬歯の鋭さがやけに早矢の目を引いた。 【Day 5 - A - 6に続く】



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