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【クジラ短編集7】男と白いくじら #創作大賞2024

男は、人里離れた高原の一軒家に一人で住んでいた。
人とうまく話すことができず、人と関わるのが苦手だった。

数年前、一緒に暮らしていた母親がいるうちは、それでも母親と買い物に来たり、母親を病院に連れてくるために、月に何度かはふもとの村までやってきた。
しかし、少し前にその母親が亡くなると、ぱったりと姿を見せなくなった。

時折村の人が心配して様子を見に行くと、
男はドアの隙間から覗くようにして
だ、だ、だい・・・じょうぶ・・です。
と答えるのだった。

男は小さな畑で野菜を作り、時折山で野ウサギを捕まえてきて食べて生活していたので、彼自身何の不自由も感じていなかった。

そんな彼は、空を見上げている時は、心から幸せそうな様子だった。
空は男の唯一の友達で、晴れた日にはよく、屋根の上に寝ころんで空を見ていた。

ある朝男が空を見ると、
真っ白い馬が青空を駆けていた。

男は長い長いロープを持ってきて、馬を捕まえた。

男はその馬に乗って、空を駆け回ったが、しばらくしてまた馬に乗ろうとした時は、馬の姿はどこにもなく、ロープだけが残されていた。

また別の朝、男が空を見上げると
真っ白い大きな鷲が青空を飛んでいた。

男は大きな大きな網を持ってきて、鷲を捕まえた。

男は鷲の首にロープをつけて、鷲に乗って空を飛び回った。

しかししばらくしてもう一度鷲に乗ろうとした時は、鷲の姿はどこにもなく、ロープだけが残されていた。

数日後の朝、男が空を見上げると、
大きな白いくじらが、青空を泳いでいた。

男は長い長いロープを持ってきて、くじらを捕まえようとした。
ロープはくじらの尻尾にかかったが、くじらは大きくて、手繰り寄せることができない。
それどころか、男の体が空に浮き上がった。

男はロープを手繰り寄せ、なんとかくじらの背中に這い上がった。

男はしばらく鯨の背中で空を遊覧した。

少ししてくじらは、小高い丘の上に男を下ろして行った。

あなたは、我々を捉えておくことなどできないのだよ。
男はちょっと寂しい気持ちになった。


その夜くじらの言葉を思い出しながら、男は考えた。

ロープで捉えることができないのならば…

男が翌朝空を見ると、そこには、空を飛び跳ねるたくさんのうさぎがいた。

男はどこからかクレヨンを持ってると、真っ白な可愛いウサギたちの絵を描いた。
青い空をはねる白いウサギの絵は、まるで今にも動き出しそうなすばらしい出来だった。

その翌日は、気持ちよさそうに伸びをする白いネコがいた。
男は、そのネコも、絵に収めた。

男は、自分の家の中の壁を青く塗りつぶし、そこに描いた絵を貼った。

気づくと、男の家の壁という壁が、白い生き物たちでいっぱいになっていた。
白い生き物たちは、夜男が眠りにつくと、自由に動き回った。
彼も夢の中で、
白い生き物達と一緒に遊んだり、空を飛んだりして、楽しく過ごした。

朝になっても彼らは、いなくならずにいつもそこにいる。
それが男には何より嬉しかった。

ある時白いクジラが現れた。
男はクジラの絵を描こうと、キャンパスをもちだした。
するとクジラは言った。

あなたの部屋は僕には狭すぎる。
いつかあなたが自由に空を飛べる日が来たら迎えにくるから、僕の絵は描かないでおくれ。

男は、わかった
と言ってクジラに手を振った。
その時又会おう!

年月が経ち、男が最後の時を迎えた時、男の夢の中に、白い大きなクジラが現れた。
さあ、また私の背中に乗りなさい。
男は、喜んで白いクジラの背に乗った。
男は幸せな笑みを浮かべて、空を上っていった。
たくさんの白い動物たちも、彼について空に上った。

残された男の部屋には、雲ひとつない快晴の青い空の絵が一面に貼られていた。


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