おはぎとけいこの往復書簡|おはぎ→けいこ「はじまり」
けいこさんのことは米粒ほども知らない。
共通点が一つだけあるのを知っている。シェア型書店の同じ空間に棚があるということだ。我々の棚は向かい合っているけれど、微妙に遠い。だから並んでいる本が見つめあっていることもない。
そのシェア型書店の棚オーナー仲間でZINEを作った。けいこさんも僕も、そこに参加している。ZINEが完成した時にお会いしたのが「はじめまして」で、今のところお会いしたのはその一度きりだ。
帰り際、時間にして数分の会話の中でけいこさんが言う。
「往復書簡やりませんか。往復書簡やるの夢なんです」
人の夢に参加できるなんてものすごく光栄なことだ。
「いいですね」
すぐに返事をした。本当にやりませんか、うんうん、やりましょうよ、と前のめりになった。だって何より、前から往復書簡をやってみたかったのだ。
ところでよく夢をみる。僕の夢は色付きだ。夢は心理状態を表すとも言われているらしい。色鮮やかだと運気上昇、暗い色はネガティブで、パステルカラーは不安定な状態を表すのだそうだ。
最近の自分の夢はどうだっただろうか。
昨晩は熟睡して、夢を見なかった。
カフェや電車で近くの人の会話が耳に入ってくることがある。
先日、老舗の純喫茶に行った。カフェではなく喫茶店に行きたかった。向かっている街には喫茶店がたくさんあるから、どの店に行くか電車の中で調べた。
見つけた店はとても人気があるらしい。開店5分前に行ってみると、すでに5、6人の列ができていた。
前に並ぶのはおしゃれな白髪のご夫婦。
「ナポリタンが美味しいらしいのよ。あなたナポリタンになさいよ」
お店の人が出てきて説明する。
「ナポリタンは隣の店舗の方で、こちらは喫茶メニューなんです」
色々と説明を聞いた2人は納得して、並んでいる方のお店に入った。
その純喫茶のメニューはしっかりと調べていた。座ってすぐに注文する。
注文して少し待つ。目の前に届いたのは、いちごジュース。見た目がすでに美味しい。不揃いに砕かれた氷。優しい甘さのジュースを、ゆっくりゆっくり飲む。
けいこさんのことは、ほとんど何も知らない。目の前に真っ白な紙が置かれているような感じだ。これからのやり取りで、どんどん色がついていけばと思う。どんな色になるだろうか。
まずは遠く離れた街にある、あの店のいちごジュースを勧めてみよう。

「いちごジュース」
