【日々のこと⑮】ひと足先に
週間天気予報を見ていた。
やっと画面の右端にその日の天気が表示される。
曇りだった。傘のマークも付いている。気温も高い。
クローゼットの前に行き、その日着るのではない服について考える。
朝の情報番組は時計がわりなので、見ているようで見ていない。
その日から、天気予報の時だけは顔を上げる。住んでいる街ではない天気を気にかけている自分に気づき、そんなに楽しみにしてるのかと笑う。天気予報を見て笑う男が、テレビの前に座っている。
その日、寒さを防げるわけがないペラペラのナイロンジャケットを着て出かける。
僕の街ではペラペラ過ぎて、肩から下げた大きめのトートバッグを胸の前で抱えた。
飛行機で1時間半の街に着く。
降りてすぐにペラペラを着るのをやめる。存在感がなかったそれが、暑さの中で途端に主張してくる。しっかりと包んでくれていた。滞在中はずっとハンガーにかけられたままだった。
翌日、楽しみにしていた文学フリマに向かう。待機列におとなしく並んでいる間ずっと、右から容赦なく風が吹いてくる。髪も服も入場の時にもらったオレンジのトートバッグも、ぜんぶ左に持っていかれる。
右斜め前の人が、そんな中でも何か食べている。
風に気を取られていたけれど、太陽もなかなかで、触ったら首がだいぶ熱かった。
出店者5,619名、一般来場者13,070名と発表された会場内の熱気は凄かった。
汗ばみながら目当てのブースに向かう。
「暑いですね」と言われながら、楽しみにしていた本を手渡される。
涼しげなトマトの表紙を見ながら、この街の人も暑いんだなと思った。

会場の熱気とは別に僕の熱も高まり、高めの気持ちのまま歩き回る。トートバッグは膨らみ、だいぶ重くなったけれど半端なく満足する。帰りの電車ですぐに一冊開く。会場は後にしたが熱は冷めない。むしろ上がる。

翌日は半袖で歩く。
その日から暦は立夏。夏の気配が感じられる頃だ。立夏に今年初の半袖が似合う。
ギリギリまで楽しんで搭乗口に向かった。
手にした本を読みながらの帰路は、行きよりも早く感じる。
電車に乗り換え住んでいる街に着く。
昨日感じた風とは違う冷たいのが吹いている。慌ててペラペラを取り出す。
友人からの連絡に「寒っ」と一言だけ返信する。
今年はこの街の人たちより、ひと足先に立夏を実感する。
次の日も、予想最高気温を確かめてクローゼットの前に行き、その日着る服について考えた。
