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【日々のこと⑥】 水落とし

出かける準備の仕上げに服を選ぶ。
しばらく履いていないデニムを見つけ足を通す。
一番上のボタンを留めようとして「あっ」となる。
冬だな。

僕の体は季節に従順なのだ。寒くなるとせっせと脂肪を蓄える。毎年必ずだから、かなりの勤勉さだ。
体で冬を実感した途端、今日はいつもより寒い気がしてぶるっと震える。


一人暮らしを始めた頃、生活することが下手くそだった。怠けると綿ぼこりが部屋の隅で巨大に成長することを知ったのもその頃だ。

冬の朝、寝ぼけながらトイレに行った。いつものトイレなのだがほんの少しだけ違和感がある。違和感がなんなのか分からないまま蓋を開けようとしてニ度見した。タンクに水を注ぐ銀色の管がいつもより長かった。よくよく見てみると五センチほど上に伸びていた。

テレビから流れるそのフレーズをよく聞いてはいた。
「今夜は水道の凍結にご注意ください」

マイナス四度より下がると水道の凍結に気をつけなくてはならないのだそうだ。今まで意識していなかったことが目の前で現実になる。
凍って堆積を増した氷が注ぎ口を押し上げ長くなっていた。よく見ると注ぎ口の下の方は、管の形をした丸くて長い氷だった。

凍てつく夜には水落としする。この町で暮らすための技術だ。
テレビから聞こえるそのセリフに敏感になったし、旅行に行く時には水を落としたかどうか確認してから出るようになった。
今はもうあの頃よりも暖かい家で暮らしている。水を落とすことをしばらくしていない。

帰宅してすぐにストーブをつける。音を聞くためだけにテレビをつける。部屋はすぐに暖まる。携帯を触ってはいるけれど何も考えない時間が続く。
テレビからあのセリフが聞こえてくる。今でも自然と顔を上げ画面を見つめてしまう。

今朝も天気予報は今週の寒さについての話題だ。
週末にかけて日本列島は大寒波に覆われるらしい。
どうりで寒いはずだ。
下っ腹に力をこめてデニムの一番上のボタンを留める。

#大寒 #私の二十四節気 #大寒波 #凍結 #日々のこと #天気予報


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