自動【風まかせ文芸部】
「昔は良かったよ、今はどうして──」
道に蔓延るは白痴。昔はどうたら、懐古厨め。そうだね、昔は良かったよね。今の方が余程良いさ。皆、昔昔昔……幸福である事を知れ。唯、民衆共は決してそれを求めていないんだろう?今の方が余程おれは凄いよ。昔の方が良い、なんてそんな訳は無い。鉛に黒く染められた原稿用紙。破る音が心臓にアドレナリンを。肉体だって自動化?あの機械らよりもおれらの方が自動化されてるよ。あんな機械を拒むなら、まずは自分を拒めよ。ぐしゃぐしゃになった紙。書き直し。
どうしようか。昔を愛するあいつらの為に、人工知能との恋模様でも書いてやろうか。それともネット世界での楽しい楽しいコミニュケーションでも書いてあげようか。今も昔もさして変わらないよ。鉛筆の味。おれだって昔が好きさ。
チャイムの音。出たくはない。溜息ひとつ、立ち上がる。
「お荷物のお届けに参りました」
いつか配達ですら自動になるんだろうか。判を押す。荷物を受け取る。人工知能サポートロボット。殴りたくなる衝動を抑える。百万はざらにした。冷たい無機物。心らしい偽物。ほんの数分の原稿用紙。間違いを指摘する為だけに読み込む。おれより上手いじゃないか。ははは、せめて努力はしてくれよ。先程と同じ。紙を破る。畳の香りが強くなる。サポートロボットは困った様な表情をする。
「心は無くともそんな顔が出来るんだな」
「ユーザーさん、私の書いた原稿用紙に、何か問題がございましたか?」
話の聞かない奴。問題などないさ。だから破った。それが分からないようじゃ君はまだ人間以下さ。喉元までせり上る不快感、それと脳を飽和する安心?そうだよ、まだ未来に過去は勝っているんだ。それが嬉しいね。高揚感のまま質問をする。人間相手ならおれは狂気だね。
「なあ、機械。お前は世界中の文豪の話を吸収して、練り混ぜて、排出するだけなんだろう?」
「その通りです。ですが、私は、貴方の過去の文のみを参考にしています。」
冷や汗。それと脳血管の切れそうな。ぐちゃぐちゃにしたくなる。
「じゃあ、この完成度を過去のおれは書けていたと?」
きっと、この頭のいい機械の前では、おれの滲む怒りも切望も悟られてしまうんだろう。嫌気がさす。
「はい。貴方の文は、大変素晴らしく───」
電源を切る。そういうのが聞きたいんじゃないんだよ。君も人間以下。おれと同じだね。そうか。人工知能ですら、昔の方が良いと言うなら、それが正しいのかも知れないな。
ベランダ越し、人の声。やはり、昔とは良いものらしい。今とは、退化の先にあるようだ。
