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第十一話 昭和の時代にアンティークディーラーになったのよ 骨董屋になってみた

早速、武蔵野警察の防犯科に行ったら、手続きはえらく簡単で、「前科者」じゃない限り、『古物商』にはなれるらしい。
「古物商許可証がおりるのは1ヶ月ほどかかるけれど、『申請中』ということで、仕事をしてもいいですよ」
仕事と言われても、主にちり紙交換で集めた古着を、適当な場所で適当に売っているにすぎない。
しかし、由々は晴れて『古物商』になったわけである。ただ、古物商っていうのが、いったい何をどうすればいいのかはわからない。
「すごいですねぇ、骨董屋さんですねぇ、かっこいいですねぇ」虎郎が別におだてるでも茶化すでもなく、普通に感動している。
「骨董屋さん?ってつまり、あの高そうな江戸時代とかの茶碗を売っていたり、訳のわからん掛け軸とかを売っている人ってこと?」
「そう、そういう骨董屋さんと同じ仕事をしているってわけですよ。そうだ、あのアンティーク屋さんっていうのとも同業者ですね」
「アンティーク屋さん?」
「ほら、外国の骨董品を扱う人たちですよ。国分寺の駅の近くにある「アンティーク屋さん、知りません?行ってみましょうか?」
「う、うん、そうだね」
 
その店は、国分寺駅に近い坂の上の古い建物の半地下にあった。
薄暗くて、ジャズ喫茶みたいな音楽が流れている。
ものすごく細くて、美人で、おかっぱ頭のおねえさんが、お客らしい男女とコーヒーを飲んでいた。
なんだかわからないけれど「パリみたいだ・・・」と思った。
うろうろ見回していると「何か・・・?」とおかっぱ頭のおねえさんが声をかけてきた。
思ったとおり、ちょっと低い、かすれた声だ。
「古物商なんです・・・」すっとんきょうな声を出していた。
おねえさんは、表情ひとつ変えるわけでもなく「そう、お店はどこ?」
「いや、あの、店なんてなくて、いろんな所で古着を売っているんですけど」
「ああ、露天商のリサイクル屋さんね。あのね、リサイクルとアンティークは全然違うのよ。うちの商品はみんな、ロンドンかパリで買ってきているのね」
おねえさんは、さらさらした髪をちょっと掻き分けた。鼻先が「ツン」と音をたてた気がした。
「あ、あの人形・・・」まさしくあれだ!あのマドリッドの「ラストロ」でハリウッド毛皮女が「50万ペセタ」とこともなく言ったあの人形だ。
「えぇ?あのジュモーのこと?」
おねえさんは、かなり嫌気がさした声で振り向く。
マドリッドの鐘の音が、頭の中でこだまする。
暗い店内は、目が慣れてくるとさまざまな商品であふれているのがわかる。
ガラスの壷、陶器の人形、銀色の蝋台、ぬいぐるみ・・・。
「なるほど・・・これが、アンティーク屋さんなんですね」
由々が、細い息をふうーっと吐いてつぶやくと、澄ましたおねえさんの顔が緩んだ。
「アンティーク屋になりたいの?」
「いや、よくわかりません。ただ、こんな高そうな人形、すごいなぁって思って・・・」
「そう、ビスクドールっていうんだけど、そうね、これは120万円なの。確かにすごい値段なのかもしれないわね。・・・アンティーク屋になるのは簡単よ。ただヨーロッパやアメリカ、好きな国に行って、アンティークを自分の買える分だけ買ってきて、売ればいいだけ。嫌な客には売らないし、好きな客には安くする。ふふふ」
「ありがとうございました」
おじきをして外に出た。夕日が沈んだ国分寺は、まだ少しだけ残った明るさの中で別の町みたいに見える。頬に触れたなまぬるい空気が、そのまま街路樹にあたって、葉っぱを揺らしていた。
ポンコツライトバンは、相も変らぬ陽気さで、たよりないエンジン音を響かせる。美人のおねえさんの「ふふふ」がそのたよりなさに拍車をかける。
「人形1体が、120万円か・・・」
「すごいですね」
「なろうか、アンティーク屋」

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