【野球を科学する #1】フアンソト(Juan Soto)というMLB準最強打者
イントロダクション
※MLBを普段観ない人にも気楽に読んでいただきたいので、各指標の細かい説明は省いています。もし興味が湧いたら、Baseball SavantやFanGraphsなどのサイトを見に行ってみてください。
日本人野球選手の活躍により、Major League Baseball (MLB) の話を雑談でしやすくなり嬉しい今日この頃です。
世界中から猛者が集うMLB
そんなMLBの現時点での最強打者は誰かというと…
Aaron Judge選手となります。

Baseball Savantで今年のJudge選手のスタッツを見てみましょう。
真ん中のパーセンタイルには、Statcastによるトラッキングデータから算出された指標がいくつかありますが、いずれも赤ければ赤いほど良いです。

もはや「返り血」にしか見えませんね。
左側には主要打撃成績が載っていますが、打率 (AVG)・本塁打 (HR)・出塁率 (OBP)・長打率 (SLG)・OPS (=OBP + SLG) のいずれも圧巻の数字が並んでいます。
FanGraphsに掲載されているwRC+ (打者が創出した得点数を、100をリーグ平均とした相対値で表した指標) は "204" であり、他の追随を許しません。
では、MLB準最強打者はいったい誰でしょうか?
MLB準最強打者
まず、大前提として野球には数値化するのが困難な要素(打順による役割、カウントや点差による攻撃方法の違いなど)が多いです。
そこで、問題を単純にするため、Baseball Savantで数値化された部分だけを取り扱って議論することとします。
その上で最初に私の結論を申し上げておきますと、「成績的には大谷翔平選手、内容的にはJuan Soto選手」となります。
Baseball Savantで二人のスタッツを見てみましょう。


左側の主要打撃成績を比べてみると、打率・本塁打・長打率・OPS のいずれも大谷選手の方が高い数値となっており、Soto選手が勝っているのは出塁率と盗塁 (SB) のみとなっています。
そもそも論として、二人は打者としてのタイプが全く異なります。
二人とも全体的にハイレベルなのは言うまでもありませんが、大谷選手は「長打に関する指標」、Soto選手は「出塁に関する指標」が優れているという特徴があります。
ここで、2025年12月時点におけるJudge選手・大谷選手・Soto選手のキャリア通算成績を見てみましょう。

やはりJudge選手は頭一つ抜けています。
しかし、興味深いのは打者としてのタイプの異なる大谷選手とSoto選手の通算成績が非常に似通っているという点です。
打率とOPS+に至っては、有効数字3桁で同じという奇跡が起きています。
そして、通算成績にも「長打率の高い大谷選手」「出塁率の高いSoto選手」という特徴がはっきり現れています。
Soto選手のバッティングの特徴
まず、Soto選手のバッティングについて軽く紹介します。

Bat Speed (スイングスピード) は平均74mph、Attack Angle (高さ方向での打球の射出角度) は平均11°であり、いずれもMLB平均を上回っています。
Attack Direction (水平方向での打球の射出角度) はセンターから反対方向に4°傾いていることから、バットスイングの軌道は逆方向寄りということになります。
Swing Path (スイング時の水平方向に対する肩の傾き) は28°であり、MLB平均に比べてフラットな姿勢でスイングをしていることが分かります。
次節以降では、なぜ先ほど「内容的にMLB準最強打者はSoto選手」と結論づけたのかについて説明します。
以下の3点が理由になります。
xwOBA (Expected Weighted On-base Average) がMLB2位である
ハードヒット (初速95mph以上の打球) の主要指標が軒並みMLB上位10%以内でありながら、Chase% (ボール球スイング率) が15.9% (1位, 平均は約28%) という卓越した選球眼を持っている
Fast Swing (スイングスピードが75mph以上) のスイング率が40% (50/226位) あるにもかかわらず、Squared-UpのContact% (バットに当てた打球のうち、理想的な打球となった割合) が39.6% (15/226位) と高水準である
理由① xwOBAがMLB2位である
xwOBAは「ExpectedなwOBA」であるため、wOBAという指標が別に存在します。
wOBAは一言で言うと「実際の打席結果から、打撃の総合的な価値を平均化した指標」です。
大変詳しく説明しているサイトがあったので、以下に紹介しておきます。
つまり、xwOBAとは「打球の質 (角度・速度) から推定した期待値から、 打撃の総合的な価値を平均化した指標」ということになります。
具体的な計算をしているサイトがあったので、以下に紹介しておきます。
ここで、Soto選手のデビューイヤー以降の年度別成績を見てみましょう。


上の表はよくテレビ放送などで出てくるスタンダードな成績、下の表はStatcastから算出された成績となります。
Soto選手は、デビュー翌年の2019年から毎年xwOBAがMLB上位3%以内に入っています。
「天才打者」という異名は全くもって誇張ではないといえるでしょう。
今年のSoto選手のxwOBAは.427であり、大谷選手のxwOBA (.423) よりも高い数値となっています。
ここで、2021~2025年の5年間におけるシーズンxwOBAの上位選手を見てみましょう。

トップ10に複数回入っているのはJudge選手 (1・2・6位)、大谷選手 (7・10位)、Soto選手 (3・9位) なので、この3人が「現時点でのMLB打撃3傑」といって差し支えないでしょう。
今年のSoto選手のxwOBAは上の表では第11位に入っており、OPS1.000以上でもおかしくないほどに非常に優れた成績であったといえます。
しかし、実際のwOBAは.390であり、xwOBAに比べて.037ほど低い結果になっています。
ここで、2025年の規定打席到達者のwOBA - xwOBAのヒストグラムを見てみましょう。

平均-0.0012に対する標準偏差は0.0176であり、Soto選手のwOBA - xwOBAがいかに極端な値となっているかが分かります。
理由② ハードヒットと卓越した選球眼が両立している
2025年のxwOBAのトップ10名は以下の通りです。

Soto選手のスタッツを各項目ごとに見ると、ハードヒット系の指標が軒並みMLB上位10%以内に入っていることが分かります。
そして最も注目すべき点は、それだけハードヒット系の指標が優れているのに加えてChase%がMLBトップであるという点です。
先ほどのSoto選手の年度別成績①をよく見ていただくと分かるのですが、Soto選手はデビューイヤーから2024年まで出塁率が常に.400以上を維持してきました。
今年は4・5・7月に不振で苦しんだこともあってか出塁率は.396とわずかに.400に及びませんでしたが、不振だった時期であっても月間出塁率が.340を下回ることはありませんでした。
今年のxOBP (期待出塁率) は.420 (MLB2位) であったため、来年また.400台に戻る可能性は十分にあるといえます。
理由③ Fast Swing%とSquared-UpのContact%がどちらも高水準
Fast Swing%とContactを関係を可視化してみると、以下のように負の相関がみてとれます。今年のSoto選手は、Fast Swing%が50/226位である一方、Squared-UpのContact%についても15/226位と素晴らしい成績です。

野球ゲームをやっている方ならイメージしやすいと思いますが、強振するときはとにかく芯でボールを捉えるためにミートポイントを絞ります。
そのため、狙い球が来てかつ自分のスイングが出来たらボールに対して100%に近い力を伝達することが可能になります。
一方で、狙い球でなかったりスイングの状態が悪いときなどは空振りやミスショットのリスクを高めることになります。
ハードヒットを生み出す速いスイングスピードと、コンタクトしたときの確実なミートを両立させるには大変高度な技術が必要となります。
考察 もうちょっと深掘り
Soto選手の年度別成績②で、xwOBAの年度別推移を見ることができますが、今年のxwOBA.427は2021年のxwOBA.429に肉薄していることが分かります。
ここで、Soto選手の2021年と今年の主要打撃成績を今一度比べてみましょう。
2021年:AVG.313 HR29 OBP.465 SLG.534 OPS.999 wRC+164
2025年:AVG.263 HR43 OBP.396 SLG.525 OPS.921 wRC+156
本塁打数はキャリアハイである今年の方が高いですが、AVGやOBPは2021年の方が明確に高くなっています。
意外にもSLGも2021年の方が高くなっていますが、これは今年の方が75打数多いのに対し、安打数は2021年の方が5本多いことが影響しています。
では、xwOBAは同水準であるにもかかわらず主要打撃成績に差が生じるのは一体なぜでしょうか。
勘の良い人は「打球の種類」と「打球方向」に違いがありそうだと推測すると思うので、以下にそれらのデータを提示します。

左から順番に見ていきます。
GB% (全打球に対するゴロの割合) とAIR% (全打球に対するフライ・ライナー・ポップフライの割合の総和) を比べてみると、2021年はGB%>AIR%となっているのに対し、今年はGB%<AIR%となっていることが分かります。また、AIR%の内訳を見てみると、2021年はライナー>フライ>ポップフライとなっているのに対し、今年はフライ>ライナー>ポップフライとなっていることが分かります。
そして、フライ>ライナー>ポップフライの傾向は2022年から始まっていることが見て取れます。
次に、All Batted Ballsを見てみると2021年と今年のいずれもセンター方向 (Straight) への打球が最も多いということが分かります。
しかし、引っ張り方向 (Pull) と逆方向 (Oppo) の打球については、2021年がPull% - Oppo% = 3.6 なのに対し、今年はPull% - Oppo% = 18.1という違いが確認できます。
Pull% - Oppo%についても2022年から明確に増大しています。
最後に、Batted Ball Breakdownを見てみるとGB%については2021年はセンター方向が最も多い割合 (26.1) であるのに対し、今年は引っ張り方向が最も多い割合 (22.8) となっていることが分かります。
一方で、AIR%については2021年は逆方向が最も多い割合 (19.6) であるのに対し、今年はセンター方向が最も多い割合 (20.8) となっていることが分かります。
中でもPull AIR%については2021年の9.2に対し、今年は16.1と大幅に増加しています。
このデータからは、2021年はセンターから逆方向に低弾道の打球を多く打つ意識であったが、2022年を境にセンターから引っ張り方向に高弾道の打球を多く打つ意識に変わっていったことが想像されます。
そして、Soto選手の年度別成績②より2021年以降のwOBA - xwOBAを計算すると、以下のように推移していることが分かります。
-.009 (2021) → -.025 (2022) → -.012 (2023) → -.041 (2024) → -.037 (2025)
比較的wOBA - xwOBAが大きい2024, 2025年はいずれもGB%<AIR%であり、なおかつPull%が40付近となっています。
そこで、「引っ張り方向への高弾道打球の割合の大小が、xwOBAの増減に強く寄与する」という仮説を立てて、2025年の規定打席到達者のxwOBA, wOBA - xwOBAとBatted Ball Profileの相関性を調べました。


2つのグラフはいずれも横軸はBatted Ball Profileの各データ、縦軸はxwOBA, wOBA - xwOBAとの相関係数となっています。
結論としては、引っ張り方向への高弾道打球の割合の大小とxwOBAの増減に有意な相関は見られないということになります。
守備位置調整 (※2023年以降は極端なシフトが禁止) の影響についても考えましたが、今年のSoto選手は調整ありと調整なしのどちらもwOBA.390であったことからwOBA - xwOBAに強く寄与するとは考えにくいです。
まとめ
今回はSoto選手のバッティングについて、色々な観点から見てきました。
27歳という若さにしてこれほど完成された打者はそうそういません。
昨年オフに結んだ15年$765Mの契約についても、現時点で成否を述べるのは早計でしょう。
wOBA - xwOBAへの寄与が大きいパラメータについては、引き続き調べてみます。
ただし、数字に表れない部分が勝敗や成績の上下に作用するのも野球の醍醐味であるため、その不確実性を楽しむのもまた一興だと思います。
