見出し画像

あの頃の豊かさって、どこに落としてきたのだろうか。

学生時代の私は、
なんて豊かな人間だったのだろう。

もちろん、お金の話ではない。

財布の中身はいつも心許なかった。
昼食はワンコインの油そばか、サラダチキンバーで済ませることがほとんどだった。

それでも、あの頃の私は今よりずっと
満足していた気がする。

🌳

授業が終われば本を読む。

読み疲れたら珈琲を飲む。

煙草に火をつけて、また本を開く。

ただ、その時間だけを味わっていればよかった。

いや、厳密には、講義やサークルのことなど、
考えなければならないことは
いろいろとあったはずなのだが。。。

まあそんなことは、二の次でも許されたのだ。

だって私、文学部の哲学科だもの。
読書はお勉強の一環であるともいえた。

そんな生活を四年間、存分に謳歌していた。

あの頃、この豊かさを支えてくれていたのは
心地の良い場所であったと思う。

心地の良い場所。
それは、喫茶店だった。

二つほど紹介してみよう。

神田伯剌西爾


禁煙席より喫煙席の方が多い喫茶店だ。

煙草を吸いながら本を読み、
深煎りの珈琲を飲む。

珈琲のことはあまり詳しくなくて、
フランス文学のおともにフレンチブレンド、
のような注文の仕方をしていた。

阿呆である。

チーズケーキが、驚くほどおいしかった。

店内には、どこかおしゃれで、
自分の時間をちゃんと生きている人たちがいた。

硬めの椅子なのに、
不思議なくらい長居したくなるお店だ。

新宿DUG


お酒を飲みながら、ジャズを聴き、
最高に酔いしれることのできる空間。

ジャズを楽しんでいると、
ジャズマンのポストカードをもらえたりして、
嬉しかった。

一人で。
大学の友人と。
教授と。
サークルの先輩と。
当時好きだった人と。
そして今、隣にいる夫とも。

人生のいろいろな場面で、
このお店が背景にあった。

ビルの建て替えで
姿を消してしまうと聞いたときは、
とても寂しいと思った。

SNSの投稿を見るに、
新たな構想が練られているようだ。

新しい形であれ、このお店が、
また復活することを、心から願っている。

最近は、こういう場所へ行くことが
めっきりと減ってしまった。

仕事が終われば家に帰る。

休日は家事をしたり、
次の予定のことを考えたりしているうちに、
終わってしまう。

本を片手に、時間を忘れて珈琲を飲む。

そんな過ごし方を、
いつの間にかしなくなっていた。

社会人になり、転職をして、結婚をした。

毎日は忙しくなった。

読書をしていても、
頭のどこかで別のことを考えている。

珈琲を飲んでいても、次の予定が気になる。

「何もしない」ということが、
こんなにも難しいのだと知った。

読書も、珈琲も、
どこか上の空になってしまった。

だがしかし、ふと、こう思うこともある。
あの豊かな日々から、
まだ数年しか経っていない。

転職もした。
結婚もした。
ずいぶん遠くまで来た気がしていたけれど、
私はまだ二十代だ。

あの豊かさは、失われたのではない。
どこかへ置いてきただけなのだ。

少し戻って探しにゆけば、きっと見つかる。

いまは探しにゆく元気を
充電している最中なのだ。

そしてこれは、
二十年、三十年経っていたとしても、
同じことなのだろう。

🍀

また静かな喫茶店で、一杯の珈琲を飲みながら、
本を開ける日が来る。

そんな気がしている。

いいなと思ったら応援しよう!