おすすめ本④『イン・ザ・プール』
毎日、家を出る時に、戸締り、火の元の確認を何度もしてしまう。
人に話すと、「用心深い方が、ええやん」と言われるが、いやいや、私の場合は、かなり常軌を逸しているのである。
鍵を掛けたかどうか、最低五回はガチャガチャする。しばらく歩き出してから、やっぱり心配になって戻ってきてガチャガチャする。おかげでどんなに早く起きて、身支度を早く済ませようとも、駅まで走ることも多い。
火の元は、もっと心配なので、今では、ルーティーンが決まっている。ガスコンロに指をつけて、何度も熱くないかを確かめた後、「天地神明に誓って、ガスの火は消した」とか、「ハイジに誓って、ガスの火は消した」と叫びながら指差し確認する。とても、人に見せられたものではない。(「ハイジ」は、アニメ「アルプスの少女ハイジ」の主人公であり、子供の頃からの私の心の友である。彼女だけは裏切ることはできないのだ)
上記のようなことは、私の性格がなせる技で、一生、治らないと思っていた。「強迫神経症」とか、「強迫性障害」という言葉を知ったのは、このような症状に十年以上悩まされた後である。あ、病名がついているのね、と思ったが、結局、病院の神経科などに行くこともなく、今日も、「ハイジに誓って・・・」とやっている。
さて、そんな私が、本日、ご紹介するおすすめ本は、
奥田英朗作『イン・ザ・プール』(文春文庫)
主人公は、伊良部一郎。伊良部総合病院の御曹司で、マザコンの精神科医である。『イン・ザ・プール』は、彼の診療室を訪ねた五人の患者たちの治療の物語で、五つの短編が入った連作になっている。
伊良部は、図体は大きいが、中身はまるで子供である。彼のやっていることは「診療」とか「治療」とかいうよりも、「患者と遊んでいる」と言った方が正しい。患者たちは、彼の言動に翻弄されながらも、いつの間にか、症状が緩和されていたり、症状とうまく付き合う方法を見つけたりするのだ。
私は、本を読むときに、「変人」が出てくると、嬉しい。伊良部は、かなりの変人である。こういう人がリアルに自分の周りにいると、困るだろうが、本で読む分には楽しい。
また、本人は自由に振る舞っているだけなのに、周りに良い影響を与える人、の話も好きである。我が心の友、「アルプスの少女ハイジ」も、そのタイプで、本人は子供らしく遊んでいるだけなのに、クララが立ったり、おじいさんが村人と和解したりする。伊良部も、ある意味、ハイジなのだ。
この本には、「強迫神経症」の人も出てくる。この部分は、患者に共感しまくりで、頷き過ぎて首がもげそうなほどであった。なので、この本には、個人的な思い入れも大きい。
二十年以上前に書かれた本なので、価値観など、やや今とは違うところも散見するものの、話の展開自体は、とっても面白いし、文章も軽快で読みやすい。伊良部は、けしからん言動も多いが、どこか憎めないし、患者たちが、しだいに憑き物が落ちていく感じで日常を取り戻す様も、心地が良い。
「伊良部シリーズ」は人気で、その後、『空中ブランコ』『町長選挙』『コメンテーター』と出ているし、『空中ブランコ』は直木賞も受賞しているので、ご存じの方も多いと思いますが、未読の方は、ぜひ。
