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再び、参加することに意義がある(きのころさんのコンテスト)

先日、このような記事を書きました。

きのころさんの「書き出し文」の続きを考えるというこのコンテスト。私も脳みそをしぼって書いたのですが、たくさんの方に読んでいただき、「スキ」やあたたかい「コメント」をいただき、すっかりご満悦です。

いやあ、創作って、楽しいですなあ。ニコニコ。という感じで、いろんな方の創作を読んでいたのですが、一人で何作も書いている方もいらっしゃって、その素晴らしい創作意欲に感動しております

そして、28日の締切が近づくにつれて、気になってまいりましたのが、私が続きを書いた「続きは読めない」とは別のもう一つのお題である「誰」なのです。

いやあ、こっちは難しいですよ。なんつっても、「ラビリンス賞」ですから。「迷路」ですよ。「迷宮」ですよ。ミノタウロスが閉じ込められたあれですよ。
雑誌の迷路だって、解けたためしがない私は、しばらくは尻込みしていたのですが、皆様の創作意欲に刺激されて、なんとか形にしてみました。

こんなんいかがでっしゃろ。

朝、目が覚めると、
隣で知らない女が電話をしていた。
私のスマホで。
私の声で。

叫んでも声は出なかった。
鏡の中の私は眠っている。

女が一瞬だけ私に顔を向けた。
そして、私の声で電話の相手に告げる。

「起きました」

きのころさん

【続き】
「誰?」と言おうとしたが、金縛りにあったように声も出せず、身体も動かない。

女は、ニヤリと不敵な笑いを浮かべ、悠然と出ていった。

どのくらい経ったのだろう。ようやくベッドから起き上がることができるようになった。

部屋の様子は、昨夜と変わらない。物色された形跡もないし、スマホもいつもの場所に置いてある。
玄関の鍵は開いている。もしかしたら、昨夜、閉め忘れたのかもしれない。

私が18年間住んでいた田舎では、あまり鍵をかける習慣がない。今は、東京に住んでいるのだから、ちゃんと鍵をかけるようにはしていた。
ただ、ここのところずっと心配事が多く、ぼんやりしてしまっていたので、昨夜はうっかり鍵を閉め忘れたとも考えられる。

さっきのは、夢なのかも知れない。このところ、変な悪夢が続いていた。夢ならば、鏡の中の私が眠っていたのも、不思議でも何でもない。

時計を見た。そろそろ行かなくては学校に遅れてしまう。変な夢を見てしまってスッキリしないが、最近はサボってばかりだったし、今日の語学の授業は、何とか頑張って行くことにしよう。

私は、とある地方の町の大地主の一人娘として生まれた。父はいわゆる地元の名士と言われているが、いささか見栄っ張りな人物だ。
両親は、私に箔を付けるために、東京の○✖️女学院大学に進学させてくれた。
私としても憧れの学校だったし、東京での一人暮らしを満喫するつもりでいたが、実際に入学してみると、うまく学校に馴染めず、入学して2ヶ月経っても、友達一人できず、これから四年間、通える自信がなくなってきた。

別に同級生に意地悪されたわけではない。
ただ、18年間地元で「お嬢様」として育ってきた私も、東京育ちの本物のお嬢様達をみると、どうしても気後れしてしまうのだ。
特に、高等部から内部進学してきた方々は、清楚で気品があって、本当に圧倒されてしまう。田舎者の私を見下しているのではないか、とついつい余計な心配をしてしまい、学校に行くのが辛くなってしまうのだ。

今日は、何とか時間に間に合った。真面目に授業を聞いているうちに、今朝の出来事がリアルに頭に浮かんできた。もし、夢じゃなかったとしたら、あの女は何者? 不法侵入とかの犯罪になるのではないの? 警察に行った方がいいのかなあ。

授業が終わってから、自宅マンションとは反対側にある交番に向かって歩き出した。が、お巡りさんにちゃんと説明する自信がなかった。最近は人と話すのが怖くて仕方がない。笑われるんじゃないかしら。夢かも知れないし、交番よりも、精神科の病院へ行った方がいいかも知れない。

足取りも重く歩いていると、ケーキ屋さんが入っている建物の2階にこんな看板が出ているのに気づいた。

「綾小路探偵事務所」
「相談無料。秘密厳守。どんなことでもお話しください」

看板には、穏やかで優しそうな女性の写真があった。この方が探偵さん? なんて、綺麗な目をしているのだろう。その目に吸い寄せられるように、私は階段を昇っていった。

お洒落で落ち着いたその部屋は、ドラマなどで見る「探偵事務所」のイメージとは随分かけ離れていた。
探偵さんは「綾小路麗子」というお名前で、名前から受ける印象通りの綺麗な方だが、写真よりもさらに親しみやすい感じで、どんな悩みでも受け入れてくれそうな雰囲気があった。

何から話そうか、と言い淀んでいると、麗子さんは私を安心させるためか、いろんな話をしてくれた。

麗子さんは、私が通っている○✖️女学院大学の卒業生らしい。しかも、幼稚園から、大学まで○✖️女学院に通っていたお嬢様だ。
しかし、お高く止まっているところは少しもなく、上品な中にも気さくな雰囲気があって、素敵な方だった。

大学卒業後結婚したが、夫の浮気と横暴に耐えかねて家を飛び出し、いろんな職業を転々としてきたらしい。もともと文学が好きで、ずっと小説を書いていたそうで、数年前にとある新人賞をとって作家デビューもしているそうだ。

「だから、本業は作家なのだけれど、だからと言って、探偵業を疎かにしているわけではないの。ちゃんと依頼には全力で取り組むわ」

そう語る麗子さんの目は真剣そのものだった。この人になら任せられる。私の心配事を聞いてもらおう、と思ったその時、

「お待たせしましたー」

の声とともに、怪獣の着ぐるみを着た男性がお茶を運んできた。黄色地に黒いまだら模様、長いしっぽ、目に部分には三日月形のツノ。

びっくりしている私の前にカップを置き、男性は名刺を差し出した。

「綾小路探偵事務所 
  助手 恵礼金吾」

「えれい きんごさん? ってお読みするのですか?」
「へえ。そうだす。よろしゅうに」

「恵礼は、こんな格好をしているけど、とっても優秀な助手よ。依頼があれば、ボディガードもできるわ」
「ワイ、力と技には自信がおますねん。仕事柄、どうしても変装することが多いし、あんまり素顔を晒すわけにもいかんからこんな格好ですけど、怪しいもんやないんで、安心してください」

ずいぶん自由な探偵事務所だ。私は肩の力が抜けて、麗子さんにいろんなことを話した。今朝の変な夢。東京へ来てからの不安な日々。最近人と話していなかったこともあって、次から次へと言葉が出てきた。麗子さんも恵礼さんも、真剣に聞いてくれた。

初対面の人に対して、こんなに心を割って話せたことに私は自分で驚いていた。

結局、今朝の出来事を解明してもらうために、私はこの探偵事務所に依頼をした。麗子さんと恵礼さんは、私のマンションまで来て周辺を調べ、私の家の窓やドアノブやスマホの指紋を採取して、帰って行った。

数日が経った。

犯人がわかったとの恵礼さんからの電話を受けて、私は再び「綾小路探偵事務所」を訪ねた。

「ピット星人?」

「驚くのも無理はないわ。でも、本当なの。はい、これが調査報告書」

分厚い資料を机の上に置くと、麗子さんは説明を始めた。

「ピット星人は、変身が好きな宇宙人なの。ずいぶん前にウルトラセブンに懲らしめられてから、心を入れ替えて、もう他の星を侵略をしないと誓い、ピット星全体の法律でも、他の星に悪さをしたら重い罰が下る、と決められたの」

「ただ、そんな中でも一部には悪いピット星人もいたみたいで、勝手に地球へ侵入していたみたい」

「今回は、あなたに変身して、あなたの家の財産を狙うつもりだったみたいよ」

「声は何とか似せられたけど、容姿を似せるのに苦労したみたいで、あなたが寝ている隙に、部屋に侵入したらしいわ」

「犯人は宇宙警察に逮捕されて身柄を拘束されているから、もう大丈夫よ。ただし、マンションの施錠は必ず忘れずにするようにね。地球人にも悪い奴はいるから」

麗子さんの説明は淀みなく、説得力があった。
とにかく、悪いピット星人は捕まったのだ。少し肩の荷がおりた。

「そうそう、捕まったピット星人の供述でわかったんだけど」
そう言って、麗子さんは優しい目で私を見つめた。

「ピット星人はあなたの家の財産を狙っていたのは事実なんだけど、あなたに変身しようとしたのは、あなたに憧れたから、というのもあったみたい」

「お嬢様が好きなピット星人は、本物のお嬢様に変身したくて、○✖️女学院を探っているうちに、あなたを見つけて本物のお嬢様だと思ってターゲットにしたみたい」

「あれだけたくさんのお嬢様がいる学校で、あなたはピット星人に本物のお嬢様だと認められたのよ。だから、気後れすることなく、同級生にも話しかけたらいいと思うの。いざ、話しかけてみると、案外、気が合うかも知れないわ」
「みんな一皮剥いたら、同じ人間よ。お嬢様も怪獣もないわ。あ、怪獣は人間じゃなかったんだっけ」

帰りは、少し遅くなったので、恵礼さんにマンションまで送ってもらった。見れば見るほど、精巧にできた着ぐるみだ。恵礼さんはよほどの怪獣マニアなのだろう。それとも…。

「今夜は、月が綺麗でんなあ」

少し照れたように恵礼さんが話しかける。

「あなたは、本物のエレキングではないですか?」

そう言おうと思ったけれど、やめた。見た目なんかよりも大切なものがある。恵礼さんが人間でも、怪獣でもどっちでもいい。そんな色分けなんかに意味はない。

「本当に、綺麗な月…」

そう答えながら、夏目漱石が「月が綺麗ですね」という言葉にどういう意味を込めていたかを、私は真剣に思い出そうとしていた。


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