将棋と私
前回、失業中に『源氏物語』を読んだ話を書いた。その後、新しい仕事も決まり、8年の歳月が流れたある日、会議をするから、従業員は全員集まるように、とのお達しがあった。
全体の会議なんて初めてである。人生で一度、勤め先の倒産を経験している私は警戒したが、そうそう同じ人間が倒産に見舞われることはないだろうと、切り替えて、会議に臨んだ。
結果、・・・この会社も倒産した、と告げられた。
またかい。なんでやねん。毎日、真面目に働いてるのにー。上の人が放漫経営してたんか? と怒りに任せて周囲を見渡すと、何と、店長が泣いている。彼女曰く、「私がもっとしっかりしていたら、会社を潰さずに済んだのに」「社長が痩せていて、かわいそう」とのこと。
なんて優しいのだろう。痩せた社長を見て私は思った。「社長、会社は潰れてしまったけど、この人を店長にしたのは、正解だった」
何の証拠もなく、「放漫経営」とか思って申し訳なかった。もっと、優しい人になるぞー、と思いつつ、失業状態に入った。
とはいえ、前回より歳をとっている分、不安は大きい。家にいると、「うわあああああ」となるので、散歩に出た。
なるべく歩いたことのない道をずんずん進んでいくと、知らない公園に出た。そこで、10人ほどの高齢の男性が、将棋に興じているのを見た。三つほどあるベンチにそれぞれ将棋盤を置いて対局をしており、対局をしていない人は、横から、なんやかんやと口を出している。皆、一様に楽しそうであった。
私は、その様子を見て、衝撃を受けた。これこそが、私の理想の未来ではないか。幸せな老後ではないか。ここを目指して、人生を歩んでいこう。
帰りに図書館へ寄って、将棋の入門書を借りてきた。家に帰って読むと、日本には東京と大阪に「将棋会館」というところがあると書いてある。何て素敵な会館だろう。
翌日、早速、「関西将棋会館」を見に行った。そして、そこで「レディース将棋教室 入門コース4回 無料」というチラシを見つけた。えええー。無料でルールを教えてもらえるのですかー。見ると、開講は、なんと翌日である。ただし、定員12名とある。もう定員埋まってるんやろなー、と思いつつそこにいた職員らしき人に聞くと、担当者がいないので、明日、電話して欲しいとのこと。
翌日電話をすると、まだ12名に達していないとのことで、即座に申し込んだ。夕方になって、講座に行くと、生徒は4名しかいなくて拍子抜けしたが、ルールを一から教えてもらって、大満足で帰った。
それから週一回の入門コースを、毎週、ワクワクしながら受講し、入門書も読んで、指せるようになり、「初級コース」へと進んだ。「初級コース」は一回1200円かかる(当時)が、第一回目にプラスチックの駒と将棋盤がもらえた。素晴らしい。至れり尽くせりである。もっとみんな受講したらいいのに。
聞くと、「入門コース」は2ヶ月に一回開かれているが、だいたい4人くらいしか集まらないらしい。一人も来なかった月もあったとか。
一般コースやキッズコースは、もっとお金がかかるにも関わらず、盛況なのだそうだ。なんで、女性はそんなに将棋に興味がないのだろう。その後、他の将棋処や道場にもいくつか通ったが、びっくりするほど、女性は少ない。周囲に聞いても、男性は将棋に興味がない人でもルールくらいは知っているが、女性はルールも知らない人がほとんどだ。まあ、私もそうだったのですが。
その後、無事、仕事も決まり、コロナ禍もあったりして、将棋会館の初級コースには通わなくなってしまったが、将棋自体は細々と続けている。将棋をして良かったことは、
① 楽しい
② 履歴書の趣味の欄に書ける(面接で話が広がったりします)
③ 何か、脳みそが活性化しているような気がする。
④ 個性豊かなプロ棋士の方々を知ることができた。
⑤ 村田英雄の「王将」と北島三郎の「歩」を歌える(ルール知らなくても歌えますが、歌う時の気持ちの入れ方が違ってきます)
で、ここからタイムリーな話題へ。将棋をする女性が少なすぎる、と書きましたが、もうすぐ歴史が動くかもしれません。1月22日に、西山朋佳女流三冠の棋士編入試験の第五局が行われます。勝てば、初の女性の棋士の誕生です。
楽しみー。
