【エッセイ】パンを魚焼きグリルで焼いたら、彼氏と別れると思った。
私は、食パンを魚焼きグリルで焼いている。
実家にいた時からそうだ。
実家にトースターなんてものは無く、経験則に基づく最適時間で絶妙な焼き加減に母が仕上げていた。
故に、私はトースターに憧れはあるものの、無くても特段不便なく暮らしていたのである。
さて、時は戻って、私がうら若き女子高生だった頃。
詳細は忘れたが、友達と「食パンはどう食べる?」というような話題で、私は「魚焼きグリルで焼いている」ことを話した。
すると、女友達二人は目を丸くしたあと、大爆笑した。
「ありえない!」
「魚臭くならないの?」
魚臭くはないし、我が家にトースターがないから致し方ないことを話すが、2人の爆笑は止まらない。
「彼氏に話してみなよ!」
「魚焼きでなんて絶対変だよ!」
ここまで大笑いされると、なんだか不安になってきた。
たしかに魚焼きグリルは、魚を焼くことがメインの仕事のはずだ。
そこに食パンを入れることは、業務外の異質なことなのかもしれない。
え、うちってそんなに変なの?
今思えば気にしなければいいだけだが、女子高生にとって、友達2人が「変だ」と笑えば、それはかなり「変」な事で、大事件だった。
どうしよう。魚焼きグリルで食パン焼いている女なんて嫌だって別れ話になったら。
そんな不安で胸がいっぱいになった。
今なら言える。
しょうもない!
それで別れるなら別れとけ!
けれど、もう私の中はその不安でいっぱいだった。
「聞いとけ、聞いとけ〜」と友達二人は笑いながら私をけしかける。
私はその日の帰り道、彼氏に聞いた。
フラれる覚悟を持って。
でも嫌わないでって願いながら。
「あのさ、食パンって何で焼く?」
付き合いたてだから、なかなか顔を見るのも緊張していた時期だけど、その時は別の意味で顔を見れなかった。
「え?うちは魚焼きで焼いてるよ」
逆転サヨナラホームランなみの大勝利!
私は心の中でガッツポーズをした。
やっと彼氏の顔が見れた。
彼氏は怪訝な顔をしている。
「うちもそうなの!あのね、昼休みに友達とー…」
私はもう嬉しくて仕方なくて、友だちとの会話や私の不安を全部話した。
彼氏は笑ってくれた。
10代の頃って、なんていうか一生懸命生きていたな〜。
そんなことを思い出しながら、今日も私は魚焼きグリルでパンを焼く。
我が家のグリルは3分がベストタイミングである。
「パン焼けたよ〜」
かつて笑ってくれた彼氏は、
今は私の夫。
魚焼きグリルで食パンを焼く同士でよかった!
