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新規事業の値付け|「いくらなら買いますか」と聞いてはいけない

こんばんは。


本日は、新規事業における値付けについてです。

「良いサービスだとは分かっています。でも、実績がない状態では踏み込めません」

私たちが立ち上げたのは、まったく新しい手法のサービスでした。当然、市場での実績はゼロ。話を聞いた企業にとっては、あえてファーストペンギン——最初の導入企業になる理由がありませんでした。

そこで私たちは、赤字でも案件を取り、まず実証実験を積み重ねる道を選びました。

当時設定した価格は、今から振り返ると、本来取るべき価格の3分の1ほどです。

でも社内起業は、どうしても既存事業と比べられてしまいます。

「儲からないのでは、意味がない」

部長クラスからも、何度も言われました。

「もっと単価を上げられないのか。このサービスなら、もっと取れるだろう」


相手の不安は、価格ではなく「実績ゼロ」だった


値付けに迷うと、顧客に直接聞きたくなります。

「いくらなら、買いますか?」

けれど、あのとき顧客企業の担当者が口にしていたのは、「高い」ではありませんでした。「良いサービスだとは思う。でも、実績がないから踏み込めない」です。

相手が恐れていたのは、金額よりも、前例のないサービスを最初に導入するリスクでした。それなのに私たちは、価格を大きく下げることで、その不安を越えようとしていました。

もちろん、安くしたことで実証実験を積めたのは事実です。

少なくとも、実績のない新規事業で「いくらなら買いますか」という質問から希望額を受け取っても、それだけで実績不足への不安は消えません。価格の話に入る前に、買えない理由が、本当に価格なのかしっかりと理解する必要がありました。


希望額ではなく、いま払っているコストを聞く


では、何を聞くのか。

私が出発点にしたいのは、未来の希望額ではなく、顧客が現在払っているコストです。

「いま、その困りごとを、どうやって凌いでいますか?」

たとえば、次のように分けて聞きます。

  • 毎回、どれくらいの時間を使っているか

  • 何人が、その作業に関わっているか

  • すでに何かのサービスへお金を払っているか

  • 解決できないことで、どんな機会を逃しているか

実際に聞くと、
「エクセルで無理やり管理している」
「複数のサービスを組み合わせている」
「担当者が毎週、手作業で乗り切っている」
といった言葉が出てきます。

その回避策に使っているお金、時間、人手が、顧客の「いま払っているコスト」です。第1回で書いた、未来の意見ではなく過去と現在の行動を聞く、という考え方と同じです。

ただし、現在コストが、そのまま販売価格になるわけではありません。自社の原価、継続できる粗利、代替手段、顧客の予算や決裁の流れも確認し、価格の仮説を置きます。

最後は、こちらから価格を提示して、実際の行動で確かめます。

「この金額なら、次の手続きに進めますか?」

BtoBでその場の契約が難しければ、決裁者との面談日を決める、検証に必要なデータを準備するなど、相手が次の行動へ進むかを見ます。


実証価格と、本来の価格を混ぜない


私たちが赤字でも案件を取ったこと自体は、間違いだったとは思っていません。まったく新しいサービスには、最初の実績が必要でした。

問題は、実績をつくるための価格と、サービスの価値に付ける価格を、はっきり分けていなかったことです。

今なら、実証実験を安く受けるとしても、最初に次の四つを決めます。

  • 本来の価格はいくらか

  • なぜ今回は安くするのか

  • 実証価格をいつまで適用するのか

  • 実証後、どの条件で本来の価格へ移るのか

通常価格を示したうえで、「今回は実績づくりへの協力をお願いするため、この範囲と期間だけ実証価格にする」と伝える。

安いことを価値の説明に使わず、実証へ協力してもらう条件として扱う。そうしていれば、最初の価格が、そのままサービスの値札として残ることを避けやすかったと思います。

実証価格は、実績をつくるための条件です。サービスの価値そのものではありません。


値上げした日、商談リストがゼロになった


私たちはサービスの質と市場ニーズを踏まえ、本来取るべきだと考えた価格に設定し直しました。そして、改めて営業を始めました。

しかし、それまで商談していた企業は、軒並み離れていきました。

その結果、営業商談リストは、ゼロに戻りました。
価格だけが理由だったのかは分かりません。理由を説明せず、無言で離れていった顧客も多かったです。

新しい価格で受注できたのは、それから4か月後でした。

その間、心の支えになったのは、この事業を一緒に支えてくれていたパートナー企業の担当者の言葉です。

「サービスに自信を持って、取るべき価格をちゃんと設定するべきです。ニーズがあって、競合が入ってきても戦える仕組みがあるなら、お客さんは後から付いてくるから」

そう背中を押してくれました。

受注まで4か月かかりましたが、それでも本来の価格で受注できたことで、ようやく私たちは、安さ以外の理由で選ばれるかを確かめ始めることができました。


値段を聞く前に、三つを分ける


明日、値付けを考えるなら、顧客に希望額を聞く前に、以下の三つを分けてみてください。

  1. 顧客がいま払っているコスト

  2. 実績をつくるための実証価格

  3. 事業として継続するための本来の価格

実証価格を置くなら、本来の価格、適用する範囲と期間、移行条件を最初に言葉にする。そして本来の価格では、相手が次の行動へ進むかを確かめる。

価格を口にするのは、今でも怖いです。

価格は、顧客に答えてもらう数字ではありません。顧客の行動を観察し、自ずと見えてくる数字だと考えています。


それでは、今日はこの辺で。


おやすみなさい。

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