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社内起業を諦めかけた私を、顧客へ戻してくれた一言

こんばんは。

「もう、閉じた方がいいかもしれない」

事業を何度ピボットしても、売上の目が出ない。何となく売れそうではある。でも、顧客が感じている課題は小さく、社内で決められた検討期限も迫っていました。

私が、事業を一緒に起案したメンバーへそう伝えると、返ってきたのは慰めではありませんでした。

「あなたがやりたいことは、なんなんだ」
「やりたいことをやればいい」


言われた瞬間は、「うっ……」と言葉が止まりました。少し突き放されたようにも感じました。

私は、鞄から、いつも持ち歩いているノック式の鉛筆と紙を取り出し、起案メンバーと共に、自分のありったけの想いを紙にぶつけました。

あのとき変えたのは、事業案だけではありません。事業を考える順番そのものだったのだと思います。

先に結末を書くと、この事業は後に棚入れ(つまり事業化をいったん見送ること)になります。それでも、このとき顧客とつくった仕組みは、次の事業開発のコアになったんです。


自社アセットから考えると、平均的な案しか出なかった


それまでの私たちは、自社のアセットをどう使うか、というところから新規事業を考えていました。

自社アセットから考えた私たちは、どこかで見たことのある、平均的な案しか出せていませんでした。

自社の強みは何か。上司はどう思うか。売上は立つか。期限に間に合うか。

他人や会社の問いには答えようとしているのに、「自分は、誰のどんな状態を見過ごせないのか」が抜け落ちていたんです。

仲間の言葉は、事業の主語を、もう一度自分たちのもとへ戻してくれました。


事業を考える順番を変えた


私のプライベートの中心には、アートがあります。そこで紙に書き出したのは、芸術家を志す若手アーティストを支援する仕組みでした。

自社アセットを捨てたわけではありません。順番を逆にしたんです。

最初に自社アセットを置き、使い道を探すのではない。まず、自分が見過ごせない人と、その人が置かれている状態を置く。そこへ、自社アセットを結びつける。

少なくとも、あのときの私たちにとって、自社アセットは事業の起点ではなく、顧客へ価値を届けるための手段でした。

後から言葉にすると、書き直したのは、この二つの問いでした。

  • 自分は、誰のどんな状態を見過ごせないのか

  • その相手に、自社アセットでどんな価値を届けられるのか

紙の上で、私たちはアイデアを固め、事業の骨子を作り直しました。そして翌日から、対象となる人たちに会いに行きました。


「その仮説は正しい」を、正解にはしなかった


最初に返ってきたのは、こんな言葉でした。

「その仮説は正しい」
「まさに、この界隈のメンバーはみんな困っている」

嬉しかった。
でも、その言葉だけで、需要があるとは判断しませんでした。

話を聞いた相手から友人を紹介してもらい、さらに、社内の過去のつながりや、プライベートの知人にも協力を頼み、そうしているうちに、ヒアリングは数十件と積み上がっていきました。

若手芸術家が、どのように消費者との接点をつくり、作品や活動を認められ、羽ばたいていくのか。

ヒアリングを重ねると、困りごとの種類や深さは、年代や活動フェーズによって異なることが分かりました。私たちは、どこで課題が深くなるのかをさらに整理していきました。

その甲斐あって、単価を上げやすい顧客フェーズは見えてきたんです。でもそれでは、涙をこらえて語ってくれた若手アーティストに、価値を届けられなかった。

想いだけで対象を決めるのでも、売上だけで決めるのでもない。

自分は、誰のどんな状態を見過ごせないのか。
事業としてどんな価値をつくれるのか。

二つを重ねながら、最初に深く向き合うN1を絞っていきました。


実証に協力してくれた三人


次に、実際の自社アセットを使った実証への協力をお願いしました。

ほとんどの人には断られましたが、三人の協力者が残ってくれたんです。当時のことは今でもはっきり覚えています。本当にありがたいです。

後から聞いた裏話なのですが、知名度のある企業を名乗る詐欺が多く、最初はこの話も嘘だと思われていた、ということでした。企業名を出せば信用されるわけではなかったんですね。

リモートで説明し、オフィスでもミーティングを重ねる。時間をかけて不安を解き、一人ずつ信頼関係を作ることができたと思います。

実証は、無償から始めました。その後、有償へ切り替えても利用してくれる顧客が続きました。

「仮説は正しい」という言葉ではなく、紹介が続いたこと。三人が実証へ進んでくれたこと。そして、有償でも利用が続いたこと。私たちが手応えを持てたのは、言葉の先に行動が積み上がったからでした。


この事業は棚入れに。でも、残ったものがある


正直に書くと、この事業は、後に棚入れすることになります。

ただ、あの実証でつくった「消費者と出会う仕組み」は、その後に取り組んだ新しい事業開発のコアになりました。

事業案は終わっても、顧客から確かめた仕組みまでは消えなかったんです。

社内起業を閉じようかと迷ったとき、もう一度自社のアセット一覧を見る前に、私はこの二つを問い直します。

誰の、どんな状態を、自分は見過ごせないのか。
その人に対して、自社だからこそ、どんな価値を届けられるのか。

自分の想いから始める。でも、想いだけで終わらせず、顧客の行動で確かめる。

「何ができるか」を考える前に、「誰のどんな状態を変えたいのか」を置く。

あなたが今進めている事業の一行目には、誰が置かれているでしょうか。


それでは、今日はこの辺で。


おやすみなさい。

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