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守護院での夜語り

ホリスティック・ケア守護院の灯りが
ゆっくりと落ちていく頃、
ジャックダニエルの熟成樽の蓋で出来た、
丸いテーブルの上で、
タソガレスキーは
いつものように遠くを見つめていた

彼が見ている“遠く”は、
この世界のどこにも存在しない
けれど、
誰の心にも必ずある場所だった
それは、
選ばれなかった道が静かに眠る場所

「今日も、たくさんの“もしも”が流れていったね」

タソガレスキーがぽつりと呟くと、
隣で小さな灯りを揺らしていたランプスキーが、
ふわりと光を強めた

「流れていっただけじゃないよ
 あなたが見つめていたから、
 どれもちゃんと“存在した”んだ」

ランプスキーの声は灯りのように柔らかく、
しかし芯のある響きを持っていた
タソガレスキーは、
その言葉に少しだけ肩をすくめた

「存在した、か・・・
 でも、誰にも気づかれないまま消えていくんだよ」

「消えてなんかいないよ」

ランプスキーは言った

「ほら、
 鐵馬旅人が風を通すたびに、
 あなたが見ていた“もしも”たちは
 風の粒子になって守護院に溶けていく
 そしていつか、誰かの胸の奥で
 新しい形になるんだ」

タソガレスキーは、
その言葉を聞くと、
ほんの少しだけ目を細めた

「君はいつも、そうやって灯りを当てるんだね」

「それが私の役目だから」

ランプスキーは微笑むように光った

「あなたが見つめる“影”に私は灯りを置く
 影と灯りが揃って、初めて物語が生まれるんだよ」

タソガレスキーは、
樽の木目を指でなぞりながら言った

「僕たちはどうして
 ミステリーボックスから出てきたんだろうね」

ランプスキーは少し考えてから答えた

「きっと、守護院には
 “未完成の物語”が多すぎたんだよ
 だから、
 影を見る者と影に灯りを置く者が
 必要だったんだと思う」

タソガレスキーは、
その答えに静かに頷いた

「・・・そうか
 じゃあ僕たちは、
 鐵馬旅人の“まだ語られていない物語”を
 見守るために来たんだね」

ランプスキーの灯りが、
その言葉に応えるように揺れた。

「そう
 彼は
 風を調律し、
 風を錬金し、
 風から物語を創る人、
 でも風は形を持たない
 だからこそ、あなたの“影”と
 私の“灯り”が必要なんだよ」

その時、
守護院の奥から微かな風が吹き抜けた
鐵馬旅人が、
どこかで風を動かしたのだ
タソガレスキーはその風を感じて、
ゆっくりと目を閉じた

「また新しい“もしも”が生まれたね」

ランプスキーは灯りをそっと強めた

「じゃあ、照らしに行こう
 あなたが見つけた影を」
 
ふたりの小さな影が、
 樽の蓋の上で寄り添うように揺れた

その揺れは、
守護院の夜にだけ聞こえる
とても静かな物語の始まりだった


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