【第2話】アップとマックとキャプテンと時々エグチ
【前回のあらすじ】
全国大会の常連だった女子ソフトボール部。
しかし、僕が出会った時のチームは「怪我の多発」「勝てない」「動けない」と負の連鎖の真っ只中。
そんな現場で僕は、ある仮説を立てる――
「このチーム、ウォーミングアップが根本から間違っている」
監督の想い、子供たちの本気、親御さんの期待。
すべてが交差する中、僕が選んだ第一歩は――
“アップ”を変えることだった。
僕は練習が終わると学校近くのマックに寄った
そして一気に資料を作り上げる
エグチを片手に作った資料を見直していた
(僕はエグチが大好きだ!←どうでもいい)
すると練習後、自主トレを終えたソフトボール部の女の子がやってきた
彼女は僕を見つけるとすぐさま駆け寄ってきた
「今日はありがとうございました。キャプテンの■■です。」
「練習お疲れ様。練習後の補給?マックはオススメしないけど…」
「ぺぇさんだって、食べてるじゃないですか。私は練習終わりに、いつもここで練習ノート書いているんですー。飲み物だけですー。」
「そっか。それじゃ練習がんばったご褒美。好きな飲み物買っておいで。」
「ありがとうございます!」
…
「ふぅ〜書き終わったー」
「終わった?毎日書いてるんでしょ?偉い偉い」
「偉いでしょー?練習もちゃんとやって、ノートも書いて…偉いでしょー?パパもまだお迎えに来ないし、何かお腹すいたなー(チラチラ)」
「なんだ、お迎え待ちだったんだ。しょーがねーなー。練習後のマックってお勧めしないんだけど…エグチにしなよ。マックで唯一バランスが良いからね。セットならサラダ。だったらご馳走してあげる。」
「やった!ありがとうぺぇさん!」
〈余談だが…僕がマックでエグチを選ぶのは低カロリーでタンパク質も多め、脂質も控えめでマックの中でもバランスが良いという理由。…まぁ普通に味が好きなんだけど〉
「ねぇぺぇさん、理学療法士ってスポーツのお仕事もあるんだね。病院だけだと思ってた。」
「海外なら普通。日本でもJリーグで雇っているとこもあるよ。」
「そっか。ぺぇさんもJリーグでお仕事してたんだもんね。私もスポーツ系の仕事に就きたいなぁ…理学療法士って大変?」
「どこに勤めるかにもよるけど…どこも最初のうちはね。病院のルールや他部門関係、書類仕事に…リハビリ以外の事も多いよ。」
「うへー。それ楽しいの?」
「全然楽しくない。楽しいのは患者さんと関わってからだよ。治療が楽しくなったり、患者さんとの関わりが楽しくなったり、論文発表が楽しくなったり…俺は勉強が楽しくなりました。」
「勉強か…勉強ねぇ…あ!今日の練習どうでした??」
「話反らした。ちなみに■■ちゃんは練習どう思ってるの?」
「反らしましたー??私はその話がしたかったんですよー。…練習かぁ。量や質は高いと思うんです。でも…メインの練習になる前に怪我する人が多かったり、メインの練習の後に体が動きやすくなったり…よくわからないんです」
(この子、練習内容理解してるんだ)
(監督が言っていないのに、どれがメイン練習か把握している…)
(言われて動く子じゃない。“考えてる”んだ、この子は)
(…こういう子は、絶対に伸びる)
「そぉ。それが一番の問題」
「??」
「質が高い練習していると思うよ。でも体が作れていない。だから、質の高い練習もただ”やっている風”になっている。ハッキリ言うけど、練習の無駄」
「うぅ…ぺぇさん厳しい。体を作るって事は筋トレ?とか??」
「現実を知るのは大事。筋トレとは違うよ、練習中にやっている事。ここの認識を変えると…動きが全く変わる。さて、どこでしょーか?」
「…体を作る…動きが変わる…アップのこと?」
「正解。ウォーミングアップって何の…」
そのタイミングで一人の男性が近づいてきた
「お!■■そこにいたんだ!…その人は?」
「パパ、この人、ぺぇさんだよ!〇〇が言ってた理学療法士の人!」
「…〇〇ちゃんパパが言ってた人か!?はじめまして。今日練習見たんですか?どう思いました??」
「今、丁度その話をしていたんですよ。お時間良かったらご一緒にお話し聞きませんか?」
「是非是非!」
「…さて。話を戻すと、ソフトボール部の練習の問題はウォーミングアップ。ウォーミングアップの目的は何かな?」
「…体を温めること?」
「あとは怪我予防とか?」
「半分正解で半分ハズレ。体を温める事は確かに重要だけど、そこが最優先事項ではない。ちなみに怪我予防は副産物」
「??じゃぁ何がウォーミングアップで大事なの?」
「という訳でこの資料を作ってたんだ。ソフトボール部の一番の問題。そのウォーミングアップの真実をお伝えします」
【ウォーミングアップの目的優先順位】
ウォーミングアップの目的を優先順位で考えたことがありますか?
ウォーミングアップの目的を聞いて返ってくる答えの多くは
・怪我予防
・体を動かす準備
この回答は半分正解で半分ハズレです
僕は経験と知識上、優先順位をこう考えています
①関節モビリティの確保
②神経系の活性化
③コーディネーション能力の立ち上げ
④筋温の上昇
⑤メンタルスイッチ、集中力の準備
知らない言葉出てきましたね?簡単にそこから解説します
①関節モビリティとは?
関節可動域や円滑に関節を動かし、その可動域をコントロールする力
これが出てないと“動きたくても動けない”。パフォーマンスも怪我予防もここが全て
②神経系とは?
脳の指令をどれだけ速く筋肉に伝達するか
神経が起きてないと、身体は指令通りに動けない。神経のスイッチが入って初めて「速く・正確に」動ける
③コーディネーション能力
いわゆる、体の使い方や運動神経というもの
いろんな関節・筋を“連動させる”能力。これがあるとスムーズに動けるし、競技動作に直結する
④筋温と⑤メンタルや集中力はー…読んで字のごとく
【筋温上昇は①~③を作る土台でしかない!】
そもそもなぜ”筋温を上げるのか?”
"筋肉を動きやすくするため"
それは間違いありません
筋肉が温まると滑らかに筋肉の伸び縮みが可能になります
では…筋肉は伸び縮みして何をしたいのか?
関節を動かしたいんです
人間の関節は200個以上あります
この関節をスムーズに動かす事で人間は動けるのです
しかもスポーツ動作という複雑な動きなら尚の事、”円滑さ”が求められます
———それがコーディネーション能力
しかし、スポーツは”円滑に動けば良い”という訳ではありません
一瞬のスピードが求められます
———それが神経系
ではそのスピードが暴走したら体は確実に壊れます
それを精密にコントロールする必要があるんです
———その能力が関節モビリティ
「知らなかった…アップって、“なんとなく体を温める時間”じゃなかったんだ。」
「そう。ウォーミングアップは、“戦える体に仕上げる工程”なんだよ。」
「アップ、見直さないとですね。」
「絶対に見直さないとダメ。君たちのアップは”戦えない体”を作っている」
「!?」
【ソフトボール部のアップは筋温上昇すら出来ていない】
「”戦えない体”…」
「そう。ウォーミングアップの目的を思い出してみようか」
①関節モビリティの確保
②神経系の活性化
③コーディネーション能力の立ち上げ
④筋温の上昇
⑤メンタルスイッチ、集中力の準備
「ランニング後にやっている”止まって伸ばす”ストレッチ…あれで筋温下げるし、神経系の働きも下げる。つまり、筋肉が働き難い状態で強いパワーを出さないといけない。結果、待ち受ける未来は”疲労の蓄積と怪我”。」
「…ぺぇさん。どうしたらいい?…私…皆で全国行きたい…」
「分かってる。だから”0”ベースでアップを作り直す、君たちの力で。」
「私たちが…?」
「考えてみて。監督や僕が作ったアップって“やらされるもの”になるけど、自分たちで考えて作ったものなら?」
「…“やる意味”を自分で理解できる。」
「そう。部活の時間は限られてる。毎回誰かが確認してくれるとは限らない。だからこそ、“やるべきこと”に時間を使い、”全員が理解している”状態にしないといけない。」
「ぺぇさん。やってみる!皆集めるから、ミーティングに参加して欲しい」
「もちろん。それまでに、目的に則った■■ちゃんなりのアップ作ってごらん。分からないのは分からないで構わない。ちゃんと僕が調整するから」
「…ありがとう。」
———こうして第一回マック会議が終わった
キャプテンはどんなウォーミングアップを持ってくるのか…
そしてパパさんは僕の目の前にエグチを持ってきた
「先生!今日のお礼だ食ってくれ!」
──この日、2個目のエグチ。
ソフトボール部の“アップ改革会議”が始動したその日。
僕のお腹は、物理的にも精神的にも、
すっかり“満たされた”のでした。
【次回】キャプテンの答え合わせ。ウォーミングアップはこう作れ!
