【第2.5話】フォームには触れない。その理由を話そう。
“ガンプラで巧緻性を磨く”
“少年との会話にガンダムネタをぶち込む”
これには理由があった
それは…
―――心のリハビリ
「野球が出来ないのが辛い」
「誰かに追い抜かれるかもしれない」
「あの試合でマウンドに立ってたら勝てたのに」
彼の気持ちには焦りと不安があった
リハビリ開始当初は心ここにあらず
「どうでもいい」という半分投げやりの気持ち
「投球禁止を無視しようとする」反抗心
彼の未来のためにも今、夢中になれる事を作る必要があった
それが「ガンダム」
巧緻性のためのガンプラ――
その裏には夢中になる事を見つける
リハビリ中のガンダム話――
彼の居場所を作る
理学療法士は医師よりも看護師よりも
患者さんと親密になりやすい
理学療法士として、一人の人間として出来る事をやる
だから彼には「ガンダム」なんだ
「ぺぇさん!何か連動性のコツ分かった気がする!」
彼はそう言ってトレーニングを見せてくれた
「お、いいね!そうだよ!その動き!!」
「良し良し!…ねぇぺぇさん、中学生で140kmって本当は難しい?やっぱり投球フォームも考えないとダメかな?」
「ん〜…ハッキリ言うけど、中学生で140kmは超難関。これからの筋力次第だけど、筋力がしっかり上がるのって高校生ぐらいからが普通なんだよな。ちなみに自己最速何キロだっけ?」
「怪我する前で…126km」
「だったら、まずは今出来る”最速”を目指そう。ちなみに、130kmは保証する。そこは任せろ。」
「!!本当に!?」
「おぅ。もし達成出来なかったら…ジム・スナイパーⅡのプラモを進呈しようではないか」
「しぶっ!」
「で、投球フォームに関しては今は気にするな。」
「なんで??」
「それは今のトレーニングの結果で分かる。…連動性の違いが、投球フォームの徹底的な差である事を教えてやる」
「シャア!」
「正解」
幼稚園児の投球フォームをイメージしてみて下さい
俗に言う”女の子投げ”、もしくはそれ以下
でも小学生になると?
勝手にフォームが良くなります
なぜ、これが起きるのか?
それは身体機能が成長と共に向上するから
要するに、身体機能が高ければ見合ったフォームになるっていうこと
リハビリの教科書に投球フォームに関するページがある
なぜなら、病院で”投球フォーム指導”が稀にあるからだ
だが、教科書に書いてある投球フォームは”怪我をしない”事が最優先のフォーム
球速もコントロールも関係ない、”安全第一”ってこと
僕は投球フォーム指導が大嫌いだ
なぜなら、僕は”野球”の専門家ではない
そして、投球フォームを変えるデメリットを知っている
勿論、見合わない投球フォームに変えて怪我をする…というのもあるが、
球速、コントロールの問題
チームの方針、監督の考え
本人、家族が目指す選手への憧れ
これらも”壊す”可能性がある
だから、気軽に投球フォーム指導は絶対やらない
特に筋力が発達していない中学生以下の子たちに伝えたい
「良いフォームは結果論でしかない」
“良い感覚”が育った結果、そうなるだけ
今は、徹底的に体を育てる事に専念して欲しい
そして―――
“楽しめ”
野球を、体が育つ感覚を、出来なかった事が出来る様になる事を。
中学生以下はまだまだ体は発展途上
その時に無理をする必要は無い
子供達を支えている大人がちゃんと見抜けば良い
本当の野球の専門家は、チームのためにフォームは変えない。その子のためにフォームを変えている。
野球に夢中になって、全力で楽しんだ結果に、そんな出会いが必ず待っているはずだ。
僕に出来る事は、今の彼の力を引き出すこと
そしてまた、野球を楽しんでもらうこと
その結果、彼を導いてくれる野球の専門家に出会える事を本気で願うこと
僕が理学療法士として子供達と接する上で大事にしているのは”技術”を磨く事ではない
“その子自身”を引き伸ばすことだ
「お?何々?またガンダムクイズやってるのぉ?」
例のZガンダム大好きオジさんだ。
「ぺぇさんは名言モジるの上手いからなぁ。少年は少年で前よりガンダム詳しくなってない?今日はオジさんも混ぜー…」
「ダメです!▲▲さんは自分のリハビリに集中!」
Zガンダム大好きオジさんを担当している、理学療法士の女の子が釘を刺していた
「■■先生、相変わらず厳しいよぉ」
「▲▲さんっていっつも、ぺぇさん達の会話に混ざろうとソワソワしてるんですよ!?▲▲さんもっと集中!」
「まぁいいじゃん。▲▲さんも楽しみにしてるんだしさ」
「ぺぇさん、黙れ」
「…すみません」
と、ガンダムネタをぶち込むとこんな弊害も出てくるのでした
ガンダム好きはどの世代も多いよね
【次回 最終話】
130kmのその先へ。約束のプラモと、少年の変化。
