【第1話】全国常連校“だった”ソフトボール部と、僕の失敗の話
※このシリーズは、自己紹介記事『全国大会の舞台裏で、トレーナーだけが感じた悔しさの正体』の続編的な位置づけです。
「全国大会出場」
スポーツに打ち込む者にとって、これは特別な響きを持つ言葉だ。
そして「全国大会常連校」という肩書きは、その地域で“最強”であることの証明。
僕が初めて関わったチームスポーツは、そんな称号を持つ——いや、“持っていた”女子ソフトボール部だった。
ある年を境に、勝てなくなった。
怪我人が増えた。
チームはその状況を4年間、変えられずにいた。
これはそのチームがもう一度全国を狙い、
そして叶え、
でも僕が“失敗”をした、そんな物語だ。
ある日、整形外科クリニックに一人の女子高校生がやってきた。
ソフトボール部所属。足首の捻挫。
初回は患部の状態も落ち着いていなかったため、アイシングとテーピングの指導を行い、数日後から本格的なリハビリを開始する予定だった。
しかし、再来時に異変が起きる。
「先生、膝も痛くなってきて…」
足首をかばって膝を痛めるのは珍しい話ではない。
だが、その翌週。
「今度は腰も…」
来院のたびに怪我が増え、痛みは引かない。
僕は待合にいた親御さんに声をかけた。
「すみません、お時間よろしいですか?」
「はい、先生。…実はね——」
保護者の口から出てきたのは、
想像以上に深刻な“現場のリアル”だった。
「部活がすごく厳しいんです。
監督も子供たちも本気で全国を目指してる。
でも、その分練習量が多くて…。
みんな“休んだら試合に出られない”って
思ってるんですよ。
監督が直接そう言ったわけじゃないけど、
そんな空気なんです」
僕は選手に確認した。
「〇〇さん、本当にそうなの?」
「うん…。誰も休まないし、
なんとなく…そういう雰囲気なんだよ」
そのとき、保護者が僕の目を見据えて言った。
「先生、Jリーグの選手を診てたって聞きました。
お願いです。監督には私たちから話を通します。
どうか一度、部活を見てくれませんか?」
数日後、グラウンドに立っていた。
僕は女子ソフトボール部の練習を訪れ、監督に挨拶をして、選手達に自己紹介を済ませる。
選手たちの目線を感じながら、少し違和感を覚えた。
彼女たちの目が、どこか暗い。
「誰こいつ?」という敵視、
「この人が〇〇が言ってた」という好奇、
「なんとかしてくれるの?」という疑問。
いろんな感情が混ざっていたけれど、
一番強く感じたのは——
「どうせ何も変わらない」という無心。
(なんでこんなにネガティブなんだろう?)
その答えは、すぐに目の前で起きた。
練習は軽いランニングから始まり、静的ストレッチ、キャッチボール、ダッシュ、ノック…
どれも“やっている風”のメニュー。
そして、事は起きた。
「監督!▲▲が足を押さえてます!」
「できないなら休め!」と声を張る監督。
目が合うと、彼は短く言った。
「診てやってくれ」
僕は選手のもとへ駆け寄り、痛みの場所と状態を確認。
どうやら軽い肉離れのようだった。
監督のもとに戻り、そっと伝える。
「たぶん、ハムストリングの軽い肉離れです」
「…またか」
「怪我人、多いみたいですね」
「ここ数年、ずっとこんな感じなんだ。
正直、俺もどうしていいか分からない。
——先生、何とかできないか?」
その表情は悔しさと責任を背負った、大人の顔だった。
「はい。やれることはやってみます」
その日の練習後、僕は一人、グラウンドの端でつぶやいた。
「あれじゃダメだ」
体が使えていない。
怪我をして当たり前。
勝てなくて当然。
「ウォーミングアップが話にならない」
すべては、そこからだった。
【第2話:ウォーミングアップの正体】につづく——
