【第1話】野球肩の少年に”ガンプラ作れ”って言った理学療法士の話
――投げられない
大好きな野球で。
ピッチャーである自分が自慢で。
誰よりも速い速球を投げたくて――肩を壊した。
医師から告げられた「投球禁止」という言葉。
それは、野球少年にとってあまりにも残酷だった。
出会った時の彼は、
不安・心配・焦りが全身からにじみ出ていた。
僕がまず必要だと思ったのは――
肩のリハビリじゃない。
心のリハビリだった。
「ぺぇさんもガンダム好き?」
僕はその日も彼のリハビリを担当していた。
中学2年生。野球部のピッチャー。
診断名は――SLAP病変
【SLAP病変とは?】
肩の関節内にある軟骨「関節唇(かんせつしん)」が、上腕二頭筋の腱に引っ張られてベリっと剥がれるケガ。
治療期間は3〜6ヶ月の投球禁止になることも多い。
野球ができない。
目標にしていた大会も、チームの練習にも加われない。
身体も、心も、どこか落ち着かない。
だから、僕はこう返した。
「好きだよ!〇〇くんも?何が一番好きなの?」
「ユニコーン!ぺぇさんは?」
「おっ、今どきのチョイスだね!」
「僕はねぇ…『08小隊』とか『0083』が好きなんだ。知ってる?」
「知ってるけど…ちゃんとは見たことない。あのー…ガトーとか出てくる話でしょ?」
「そうそうそう!ソロモンに帰ってった人!よく知ってるね〜」
「何なぁに?ガンダムの話??Zなら俺の世代だぞぉ?」
隣のベッドでリハビリをしていた患者さんも加わり、そんな会話で盛り上がるリハビリ室。
昼休みに後輩からは「ぺぇさんってガンダムオタク?」とイジられたり…(坊やには分からないのさ)
なんだかんだで毎回笑い声のあるリハビリになっていた。
「ぺぇさん、俺さ…140km/hで投げたいんだ」
ある日、ふと彼が真剣な顔で言った。
「ぺぇさん、俺…中学卒業するまでに140km/hで投げたいんだ」
「決め球がストレートとカーブで…でも今、投げられないから、キレとかノビとか心配で…」
――これは本音だ。
目標を語るその目は、真っ直ぐだった。
【参考:中学生ピッチャーの平均球速】
中学1年:80〜100km/h
中学2年:90〜110km/h
中学3年(軟式):100〜120km/h
中学3年(硬式):110〜130km/h
「140km/hって、高校生でもなかなか出ない球速だよ?」
「目指すのは良いけど……今、その練習を無理してやった結果が“コレ”でしょ?」
「まぁ…そうなんだけどさ。フォームとか色々いじってたら…急に肩が痛くなって」
「なるほどね。よし、じゃあ極端な話をしよう。〇〇くんが好きなガンダムでね」
「うん?」
「ZZガンダムって知ってるよね? 頭にハイメガキャノンついてるやつ」
「知ってる!かっこいいよね!」
「じゃあ、ザクの頭にハイメガキャノンつけたらどうなると思う?」
「……壊れる。絶対ぶっ壊れる」
「そういうことだよ」
「160km/hで投げるプロのフォームを真似しても、君の体はそれに耐えられない」
「大事なのは“今の体”に合ったフォームと能力を育てること」
「……」
「とは言え――球速、狙ってみるか?」
「頼むよ、ぺぇさん!!」
【じゃあ、宿題だ】
「わかった。まずは今できることをやろう。まずは宿題」
「え? 宿題って?」
「リハビリメニューに加えて、プラモデルを作ってこい」
「…え? ガンプラってこと?」
「そう。ガンプラ。しかも細かいやつ。ハイグレードとか、できたらマスターグレード」
「丁寧に、集中して、仕上げてくること」
「なんでそれがリハビリになるの…?」
「それは次回、リハビリ室で話すよ。そして…完成品、見せてくれ」
「病院に持ってくるの? それはちょっと…しかもマスターグレードだと、お小遣いが…」
「しょーがねぇな。じゃあ次来た時に――
グフ…いや、俺の大好きなグフ・カスタムをプレゼントしよう!」
「!ぺぇさーん!!」
――その日のリハビリ室の一角には、
なんとも不思議な空気が漂っていた。笑
【次回】中学野球は力じゃない。技術だ。
