【最終話】優しさは弱さじゃない
「お前ら、今日の練習は──自分たちで決めてみろ。俺は見てる」
――今日の体育館は雰囲気が違った。
あの田中先生が、練習前にそう言った。
ざわつく選手たち。
キャプテンが、周囲を見渡してから言った。
「じゃあ、最初は対人よりもセットプレーの確認しよう」
「うん、あと昨日のディフェンスの動き、もう一回整理したくない?」
「じゃあ3:3の中で確認してみよう」
“先生が言ったから”じゃなく、“自分たちで決めたからやる”練習。
その光景を、田中先生はベンチに座って静かに見ていた。
「昔はな、怒鳴るのが愛情だと思ってたんだよ」
練習後。いつもの居酒屋。
今日も、田村と田中先生と3人で飲んでいた。
そして…
田中先生がぽつりと語りはじめた。
「昔な。自分も怒鳴られて育ったんだよ。
でも、たまに“褒められた”ときのことって、今でも覚えてんだよな」
僕は、黙って聞いていた。
「最近さ、子どもらが“楽しそうに悩んでる”のを見ると…怒るってのが、なんか違う気がしてきてよ」
「監督、俺は怒る事は時には必要だと思いますけど?なぁぺぇさん?」
「時と場合による…かな?でも、子供達は自分の意見を言えるぐらいに成長しました。怒る前に”聞いて”みたら良いんじゃないですか?」
「監督、お互い強くなったんじゃないです?」
「…違うな。優しくなれたんだよ。
それが、昔は怖かったんだよ。“優しさは弱さ”に見えてたからさ…お前の場合は知らん」
「手厳しいっ!」
――なんかこの2人の関係も良くなったな
『トレーナーの距離感』
「なぁ、ぺぇさん…良かったらこれからも、来てくれないか?」
田中先生が言う。
「いや、もう、僕の出番は無いですから」
「え?なんでよ?」
田村は不思議そうな顔をした。
「田中先生とお前、そして子供達が自分で“変化”した。”自分で”ってのが、一番価値があるんよ。
僕がいなくなったあとに残るものが、“本物”だよ」
田村が、ゆっくりとビールを置く。
「でもよ、なんかあったら、また来てくれよな」
「もちろん。次は有料だからな。」
「今までみたく飲み代でいいだろ!?」
「お前!この部活に来て何kg太ったと思ってる!?」
3人で笑った。
――田中先生が一番笑っていた。
一番頼もしく変化した、キャプテン
3年生の最後の大会の日。
僕は、体育館の端から試合を見守っていた。
選手たちは、自分たちで声をかけ合い、
キャプテンは迷いなく指示を出す。
田村はベンチで拍手を送り、
田中先生は腕を組んで頷いていた。
結果は、県ベスト16。
地区大会レベルの部活が県大会に挑めた
勝ち進むことはできなかったけれど──
それでも、子供達は泣いて喜んでいた
でも…一番喜んでいたのは田中先生かもしれない
子どもたちと泣いていた
帰り道、キャプテンがふとこちらに気づき、深く一礼した。
──もう、大丈夫だ。
優しさとは…
子どもが変わるとき、
その裏には「大人の存在」がある。
そして、大人が変わるには、
信じて“見守る誰か”が必要だ。
高校生という年代は、
まだまだ子どもだけど、心は”大人”だ
見守り、尊重して、傾聴する必要がある
それが全てでは無いとも思う
でも、スタートはそこからじゃないかな
この考えを”優しさ”という人もいるが、
そうではない
時には突き放し試練も与え、成長させるきっかけを作る…ここまでやって”優しい”んだと思っている
優しさは、弱さじゃない。
優しさとは“本気で向き合うこと”
本当の優しさに触れた人は、優しくなれる。
トレーナーの距離感
…でも正直に言えば、少しだけ、寂しさもあった。
もう僕の出番はない。
それは嬉しいことのはずなのに、
あの体育館の笑顔と成長の中に、自分の姿がないことに──少しだけ、取り残されたような感覚があった。
…でも、僕がこのチームに残せたのは、知識やスキルじゃない。
――“考え方”だ。
――“関わり方”だ。
――“信じるという選択”だ。
それはトレーナーとして、何より大切にしてきたこと。
治すだけが理学療法士じゃない。
関わり方ひとつで、人もチームも変わる。
子どもが変わるのに、技術だけじゃ足りない。
だから、僕はこれからも──
「変化のきっかけ」をつくる仕事をしていたい。
優しさは、弱さじゃない。
本気で向き合うってことなんだ。
〜完〜
📖 今回のキーワード
真の勇気(アドラー心理学)
→ 嫌われることを恐れず、共同体への貢献を信じ、自らの信念に基づいて行動する力。
💡 具体例
田中監督の変化: 昔は「優しさは弱さ」と捉え、恐怖で支配していたが、今は選手を信じ、任せる「真の優しさ」を発揮している。これは、自分の指導スタイルを変える「勇気」が伴った結果。
トレーナーの距離感: 監督や選手が自律的に変化したことを認め、介入せず「そっと手を離す」これは、自分の貢献や存在意義を過剰に求めず、相手の成長を最優先している。
🎯 明日から使える一言
「それは、本当に相手のためになっているか?」
→ 相手をコントロールしようとする行動や、過保護な優しさになっていないか、一歩引いて考えてみよう。
📚 もっと学びたい人へ
『幸せになる勇気』岸見一郎・古賀史健
💪 「優しさ」について
優しさとは、甘やかすことではない。
時には突き放し、試練を与え、相手が自ら成長するきっかけを作る。
それは、相手と本気で向き合い、その人の未来を心から信じること。
真の優しさに触れた人は、優しくなれる。
【次回】番外編:居酒屋×戦術論×ガンダム
おっさん3人が戦術論を語る…ガンダムで!
完全に読者置いてけぼりな内容です!興味がある方はどうぞ。
