阿波のぞめきはソウル ――阿波女の、DNA
わたしは、物心ついた頃には、阿波踊りの連で
踊っていた。
母が、阿波踊りの唄い手だったからだ。
「阿波よしこの」が聞こえてくると、夏が始まる。
出番が近づくと、私は小さな身体で、女踊り、男踊りのフォーメーションの中に入る。
美しい揃いの着流しの後ろ姿を眺めながら、観客の入りもチェックする。
よし、満員や。
今日も、みんなの視線……集めたろ。
桟敷席の眩しい照明と
観客席が満員の演舞場に、
いよいよ鳴物から入る。
女踊りのセンターにいるリーダーが叫ぶ。
「ヤットサー!」
「ヤットヤットー!」
連員が呼応し、一斉に踊り始める。
どんなにしんどくても、顔は笑顔。
先生から叩き込まれた、
「笑顔の仮面つけるんやで! 笑顔、変顔!」
という技だ。
そして――
「阿波の〜殿様ァ〜ァァァ〜、蜂須賀さまが〜
今に〜、残せしィ〜〜、阿波〜踊りィ〜」
お母さんの美しい歌声が心臓を貫く。
「アーラエライヤッチャエライヤッチャ、ヨイ ヨイ ヨイ ヨイ〜」
私は笑顔いっぱいで精一杯、腕を天に伸ばして、
踊った。
編成を組み換える掛け声に合わせて、踊り子は次々に隊列を動かす。
歓声。
拍手。
身体の奥から、アドレナリンが湧き上がる。
……ええ気持ちや。
身体が痺れる。
「踊る阿呆に、見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃソンソン!」
わたしは中学生までの子どもパートを終え
高校生で大人パートへ昇格した年に、
リーダーに抜擢された。
憧れていた初陣。わたしが率いる!
胸が熱く、激しくときめいた。
お腹いっぱいに息を吸い込む。誰にも負けない発声で、出陣の掛け声。
「ヤットサー!」
「ヤットヤットー!」
連員の呼応が、花道に響き渡る。
わぁ!という歓声に心からの笑顔を送りながら、
連を前進させる。
最高ーーー。
大人パートでは、化粧も艶っぽくなる。
薄いブルーのアイシャドウに、幾重にもグラデーションを重ねる。
顔の周囲には影を入れ、赤い口紅を引く。
髪結さんが、生え際に一本の髪も残さず髪を結い、美しい艶を塗り込んでいく。
鏡を見る。
高校生の私が、少しだけ大人に見えた。
なぜだろう。
鏡の中の自分に、色気を感じた。
今年も、私は連を率いて踊る。
けれど。
実は裏で、篠笛も練習している。
熱い踊りを、クールダウンさせるように。
祭りの余韻を、美しく観客の胸に残せるように。
連の殿を務める音色。
動と、静。
阿波踊りは、
激しく身体を躍らせるだけではない。
お囃子の音を聴き、間を感じ、最後に残る余韻まで届ける。
美しい阿波のよしこのが静なら、ぞめきは動。
踊りとお囃子もまた、静と動なんだ。
わたしは、篠笛で、踊りが通り過ぎる最後の瞬間、余韻と共に、そっと胸の中へ一陣の風の心地よさを置いていく人になりたい。
阿波踊りの、最終日はいつも終戦日。
阿波踊りって、ただ歓喜して踊るものではない。
踊り込む前、踊る連員もお囃子の方々も皆、祈る。
先祖に。
尊いいのちに。
阿波踊り初日には、ご高僧の祈りの読経の中、
鎮魂の石碑に厳かに踊りを奉納する。
亡くなった人たちを想い、そのいのちを受け継いで、今ここにいる私たちが踊る。
華やかに見えて、でも、観客席には泣いている人が確かにいる。
心で寄り添う。
だから、踊り続けてきてよかったと思う。
「笑顔の仮面」とは、この時にこそ役立つのだ。
そんな、動の側から静の側への憧れを抱きながら、私は今の役割を担って踊っている。
いつの日か、篠笛マスターになろう。と、
思いながらーー
それはたぶん、
私の中に流れている、
阿波女のDNAなのだ。
ともかく。
昨夜、今年の阿波踊りは終わった。
ーーいざ、出陣。
🌿
ーーー
🌿🌿🌿
最後まで読んでくださり、ありがとうございます💜
木漏れ日亭さんに、
記事をご紹介いただきました。
ありがとうございます🌿
🌿🌿🌿
