行方しれず 第七話 ドーマ①
「ママ、見て」
堂馬(ドーマ)は幼稚園リュックから毎晩絵を出しては母に見せた。
ドーマは暗い子だ。
髪は派手な天然パーマで、色白で、目がクリクリと黒目が大きい。
人形のような整った顔立ちだ。いつもうつむいていて、子供なのに声も低い。男の子なんだから外で遊べばいいのに、と母は思うが、家で絵を描いてばかりいる。それでもYoutube漬けやゲーム中毒よりはましだと、とやかくいうことは極力しないようにしてきた。
幼稚園の友達の名前は一切でない。
幼稚園の先生に聞くと、園では普通に遊んでいるらしい。
「口数は少ないですね。ちょっと恥ずかしがり屋さんなのかな。こちらがグイグイ行くと逃げちゃうので、そこはあまり追及しないようにしています。子どもの個性を大切にするのが園の方針ですし、成長するにつれて周りとかかわれるようになってくる子が多いですし」
若い保育士の言葉はありきたりな回答だった。
「ドーマ、これは何描いたの?」
「何って、ママの知らないこと」
「幼稚園ってこと」
「もういい、返して」
ドーマの描く絵はいつも難解だった。
太陽があって、ニコニコした自分と友達や、家族が描かれていたり、家や花が描かれているようなのが、母にとっては子どもの絵のイメージだった。ドーマも去年くらいまではそんな絵を描いていた。
ある時から、描かれる人物の表情が暗くなり、涙を流すようになった。
「何か悲しいことがあったの?」
母の問いかけに無視するようになっていた。
1ヶ月くらい絵を見せてくれなかった。ドーマが寝てから、幼稚園リュックをそっと見ると、みんな血まみれで泣き叫んでいた。
「ママ、赤いクレヨン買ってきて」
幼稚園の先生からはなんの連絡もなかったが、こんな絵を描かれたので、ドーマは赤いクレヨン使わないように言われたのかもしれない。だから自分で持っていくという風に母は理解した。
母はドーマが怖かった。自分から生まれ出たはずなのに、何を考えているのか分からない。
久しぶりに絵を見せてくれた時には、ナスカの地上絵のような記号やマークに近いものだった。母は安心した。もう血みどろの時代はドーマの中で過ぎたんだと思った。
意味はわからなくても、平和な絵だった。
これは何?を何度も飲み込んで、この色綺麗だね、丸が上手に描けるようになったんだね。と肝心な部分を避けて、ドーマの絵を褒めた。
後日、こんな事態になるとは母は知らずに、ドーマの絵を玄関に飾った。ドーマが久しぶりに笑顔を見せた。
「ママ、毎日書くから、毎日飾って」
「うん、たくさん描いてね」
「ありがとう。まま、大好き。おやすみ」
ドーマの寝顔は天使のように安らかだった。起きている時の暗黙の時代とは全く違う。
父親がいないことを負い目に感じていたし、私の手に負える子ではないような気がずっとしていた。でも、大好きと毎日言ってくれるので、それで母の中で均衡が保たれていた。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは創作活動に使わせていただきます。