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行方しれず 第二十一話 陽菜


重要なお知らせ

最近、全国各地で行方不明事件が発生しています。

そして、登園でも園児1名が行方不明になり、現在捜索中です。

些細なことでも構いませんので、お気づきのことがありましたら、園にご連絡ください。園では、補助教員を増やし、園児たちの見守り体勢を強化してまいります。

また、保護者様におかれましては、登園降園、公園などでは、お子さんから目を離さずに、大変だと思いますが、犠牲者を増やさないよう、お一人お一人がご注意いただきたく思います。


なお、心配で登園を控えたい方は、欠席扱いにはなりませんので、園または担任までお知らせください。

園長 花園紫苑


ドーマの通う花園幼稚園では、行方不明事件がそれまで他人事だと思っていた園児とその保護者を震撼させていた。

今年、年少に入園したばかりの陽菜の母:さやかも不安に苛まれていた。

「はるな、しばらく幼稚園おやすみしようか」

「えー、ヤダヤダ。みいちゃんと遊ぶ約束してんだよ」

「あのね、」さやかはしゃがんで陽菜の目を見ながら話した。「今ね、外で、大人も子供も急にいなくなっちゃう事件がたくさん起きてるの。ママね、陽菜ちゃんにいなくなられたら悲しいから、犯人が捕まるまでおうちにいてほしいの」

「はるなもいなくなりたくない。ママと一緒にいる。ママ大好きだもん」はるなが手を広げてぎゅっとしがみついてきった。

「ありがとう、はるな。ママも大好きだよ」

「パパは?パパは大丈夫なの?」

「パパは大人だから」

「ママさっき子供も大人もって言ったよ」

「パパは強いから」

「そっか。そうだね。はるなのパパは強いからやっつけちゃうよね」

さやかは安心したと同時に、はるなと2人きりでどうやって過ごしていこうかと不安がよぎった。ママ、ママ、を30秒おきに呼ばれ、ママごとの相手をしてほしいだの、人形になってここでねんねしてやら、夕方になると、大したことでもなく機嫌を損ねて泣き始め、抱っこっ抱っこと甘えてくる。家事なんて進みはしない。買い物にも行けない。帰宅した夫はお風呂は入れてくれるものの、寝かしつけはさやかでないとはるなが嫌がる。

自己嫌悪に陥るさやかを夫は慰めてくれる。何もかも完璧にできる母親なんかいないよ。完璧じゃなくて構わないから、少しくらい散らかっていても、夕食がコンビニ弁当やカップ麺でも構わない。さやかに笑顔でいてほしい。そのためになら協力するよ。でも、夫の洗った食器は泡が残っていたり、卵の黄身が付いていたりする。

それが幼稚園に入ってからは、なんという爽快感だっただろう。

自分1人の時間ができたのだ。結局は家事をしていると迎えの時間になってしまうのだが、片手に抱っこしながら洗濯物を干すこともなく、足にしがみつかれながら料理をすることもしないで良くなったのだ。だが、しばらく休むと言うことはまたあの日々がやってくる。

一度、あの爽快感を知ってしまった自分があの状況に耐えられるのか自信はなかった。

「今日からしばらく陽菜を休ませようと思うの」

「例の事件のことで?」

「早く解決してほしいよな。でも、そこまで心配しなくてもいいんじゃないか」

「これ見て」

さやかは夫にスマホを見せた。

そこには例の手紙の画面だった。

「え、花園幼稚園の園児が行方不明になったのか」

「そうみたい。噂だと年長って言ってたけど」

「どこでいなくなったの?」

「さあ。園ではないみたいだけど」

「じゃあこの辺もうろついてるってことか」

「心配よ」

「さやかはそれでいいのか」

「う。。。ん。大変だったもんな。陽菜、うちにいたらまた甘えるぞ」

「そうよね、でも、はるなが連れ去られちゃったら、私、。。。そんなこと考えたくもない」

「いいよ、僕もできるだけ協力するから、陽菜を守ってくれ」

「うん」

翌日から登園しないを選択した子は徐々に増え、クラスの半数が自宅で過ごすことになった。日に数時間はオンラインで担任が歌や運動遊び、絵本の読み聞かせなど配信し、その後、画面を通して子供達がお互いの様子をみることができる。

翌週の月曜夕方。幼稚園から緊急メールが入った。

年少組の女子が公園で遊んでいて見当たらなくなったという。母親が下の子の面倒を見ている隙にいなくなったらしい。

1時間後、1人で帰宅して、近所の友達の家で遊んでいるところを見つけられ、お騒がせしました、と母親本人からもメールが届いた。

こんな時期だから、みんなが焦った。


さやかもほっとしていると、はるなの姿がない。

さっきまでここで絵を描いていて、そうだ、トイレに行ったんだ。

「はるな、」

いない。

「はるな、」

「ママー、ベランダから声がした」

「シャボン玉しようよ」

「もう、どこいったかと思った」

「ママは心配しすぎだよ、パパが言ってた」

夫は子供の前でそんなことを言っていたのか、あの優しさは嘘なのか。本当は苦い薬に砂糖でコーティングしているようなものなのかもしれない。本心を隠して、見掛け倒しの優しさでコーティングしているのか。夫は営業マンだ。口では甘い嘘くらいいくらでも言えるだろう。その口で、私たちは養われていると思えば文句は言えない。

2人で虹色のシャボン玉を飛ばした。

「お空の天井に届くかな」

マンション最上階から飛ばすシャボン玉は空高く、青空に天井があるならそこを目指して飛んでいった。

ふと、視線を感じた。

立ち止まってこちらを見ている女がいる。同じくらいの歳の女の子と手を繋いでしる。女の子はシャボン玉を指さしていた。その母親らしき女はこちらをじっと見ている。

「陽菜、シャボン玉はもう終わりにしましょう」

「えー、まだこんなにあるよ」

「おてて見せて。ほら、ベタベタ。残りは明日にしましょう」

陽菜を家に戻して、カーテンを閉めた。

夫に心配しすぎと言われて呆れられても仕方がない。

さやかは脈が速くなっていることに気づいた。

「もうこんな時間。夕食作るから、テレビ見てて」

「うん、いいよ。見ててあげる」

「あ、お絵描きでもなんでもいいけど、1人でできること、ママの見えるとこでしててね」

「わかってるよ、ママ」

テレビ番組は15分で飽きた陽菜は、お絵描きをした。それもすぐに飽きた。

「ママ、陽菜ね、お風呂掃除してみたい」

「え、できるの? ちょっと待って」

「うん、先行ってるね」

「陽菜、ちょっと待っててば」

さやかは手を洗い、火を止めて、陽菜を追いかけた。

「ママ、きゃー」

「陽菜!」

洗面台の前で陽菜が髪を振り乱した女に掴まれていた。女の体は換気口からぶら下がるようになっていた。

「陽菜!」

「ママ、痛いよお」

さやかは近くにあったモップの柄で何度も叩いたが陽菜を離さない。

そのまま持ち上げられてゆく陽菜にとびついた。

陽菜と一緒にどさっと落ちた。「陽菜」さやかは陽菜をぎゅっと抱きしめた。

「ママ、後ろ」

女の髪が伸びで再び迫ってきた。その時、さやかははっきりと見た。先ほどシャボン玉をしていた時、下からこちらを見ていた女に間違いなかった。

さやかは陽菜を抱え、部屋を飛び出した。

ドアが揺れてる。

「陽菜、外に出てなさい」

「ママも一緒」

さやかはスマホを取りに行った

「ママ早く」

テーブルの上にあるスマホをとって振り返ると

ドアが開いていた

「陽菜、逃げて」

大蛇のような髪の毛がうじゃううじゃと這い回っている。

「ママー」

「陽菜!」

さやかはキッチンから包丁を取り出して玄関に向かう髪の毛に向かって投げた

命中して苦しげにのたうち回っている

その隙にさやかは、玄関に走った

「陽菜!」

陽菜を抱えて廊下に飛び出した

玄関のドアを閉めた

「逃げよう」

階段を降りた

5階分の階段を降りると足はガクガクだった。

見上げると何もなかったかのように整然としていた、

通行人も何も知らない通行人はさやかたち親子を訝しげにみて通り過ぎていった。

さやかは震える手で夫に電話した。

「はい」

「仕事中ごめん、」

「何かあった?」

「きたの」

「誰が?」

「知らない女が、化け物みたいな女が、陽菜を連れ去ろうとしてきたの」

「え、何言ってるの?今どこ?」

「おかしいと思うでしょ。でも本当に見たの。髪の毛が触手のように伸びてきて。今?今、マンションの前よ」

「落ち着けって。触手って、映画でも見てんの?」

「違うわよ。写真も撮ったから送る」

さやかは部屋中を這い回っている触手の画像を夫に送った。

「おい、なんだよ、これ」

「この女が、洗面台の前に現れて、陽菜をつかみあげたの」

「陽菜は」

「無事よ」

「よかった」

「ちょっと待って。外回り行ってきます、ホワイトボードに直帰って書いといて。あ、ごめんね。これから、帰るから」

「ありがとう、仕事、大丈夫?」

「うん、今日は比較的暇なんだ」

「助かる」

夫が歩いてくるのが見えた。

「家には戻れないよな。ちょっと、そこ入ろう」

ファミレスに入って、さやかは夫にみたもの全てを話した。陽菜は小さく震えていた。

話を整理すると一番近くの交番に行った。


最初は親身に聞いてくれていた警官も、当然ながら髪の毛が触手のように追いかけてきたといった途端に白けたような態度になった。さやかは画像を見せるのをためらったが、夫が奪うようにして提示した。

「こういう画像ねえ、いくらでも作れるから、信憑性ないよ」

とにかく、自宅の様子を見にきてもらえませんか。

こういうの好きな奴がいるから、ちょっと待って。

おい、河原、

行きます行きます!僕、エイリアンとかそういうの絶対いると思ってるんですよ。触手ですか。誰に言っても信じないかもしれないけど、僕は信じますよ。さ、一緒に行きましょう。

河原と呼ばれた色の白い細身の警官と見習のように若い警官がついてきた。

ドアを開けると、何もなかった。

「失礼します」

「へえ、さすが最上階日当たりがいいですね」

部屋が荒らされていた。

写真

若い警官が写真を撮った。

「この包丁を触手、いや、髪の毛に命中させたんですね。証拠として持ち帰らせていただいても?」

「はい」

洗面台に案内した。

「ここに現れたんですね」

「この換気口ですか。ちょっと見ますね」

ネジを回して開けると低く唸る音がした。

「ママ、怖い」

一瞬で女の髪の毛が伸びてきて河原警官を包み込んだ。

「キャー」

陽菜がさやかの足にしがみついた

若造が写真を撮る

「逃げろ」

夫が陽菜を抱き上げて、さやかの手を取った

若造も棒を振り回したが触手は怯まない。

その一瞬後叫び声が聞こえ振り返ると、警官が無理やりフィルターの網目を通されるように粉々に切り刻まれ、血飛沫を上げながら換気口に吸い込まれていった。

若造は血を浴びながらカメラを向けていた。

この時の動画と写真は正式な証拠として扱われた。

1時間後、若造が部屋に行った時に、例の絵を見つけたことにより、連続行方不明事件と断定された。

この衝撃的な連れ去り方は警察内部での扱いになった。

翌日のニュースでは警官が行方不明になったとだけ報道された。

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